第8話 心揺


「……え? 絵……? ええぇぇっ!?ぜ、ぜったい嫌だよ、恥ずかしいから!」


「恥ずかしいってこと、ないだろ?美術部で描いてれば観られることもあるだろ?」


「美術部で描いている絵は、観られるのを前提に描いてるからいいの!」


「ってことは、観られるのを前提に描いてない絵もあると? ……どうせなら、そっちの絵を観たいんだけど?」


 すると金森は急に顔を真っ赤にして、「ダメ!そっちはぜったいダメ!」と言った。


「そんなに恥ずかしい絵なの?金森のヌードとか?」


「ばか!如月くんのバカ!そんな訳ないよ!」


「じゃあ、観せてくれ」


 そんなやり取りの後、暫く真っ赤な顔でモジモジと下を向いていた金森だったが、徐にスクールバックを開いてタブレットを取り出した。


「……これ。まだ完成していない絵もあるけど」


 まさか今、観せてくれるとは思っていなかったので、少し緊張しながら手渡されたタブレットを覗いた。そしてその中に映し出された絵をみたユウは、目を閉じることが出来なくなってしまう。だって、そこに描かれていたのは・・


 みたこともないほどに、色鮮やかで幻想的な世界だったから。



 美しい花畑や草原、雪原や砂漠の中に佇む少年と動物たち。


 空は美しい青空や夕焼けで彩られ、宇宙が描かれている絵もある。



 美しすぎる背景とは違い、少年と動物は可愛らしいタッチで描がかれていて、そのギャップが心地よかった。

 人は本当に感動すると言葉が出てこないというけれど…… まさに今のユウの為の言葉といってもいいと思う。


 暫く惚けた顔をしながら、絵を眺めていると「はい!もう、おしまい!返して!」と、タブレットを取り上げられてしまった。



「……その絵さ。金森が描いたの?」


 その間の抜けた質問に、真っ赤な顔の金森がコクリと頷く。


「スゲーな、金森。 ……俺さ、本気で感動したよ」


 そしてその言葉に、金森はさらに顔を真っ赤にしてプルプルと震えている。そしてそれを見ているユウの手も、震えている。絵をみただけで体が震えるほど心を揺さぶられるなんてこと、あるなんて思わなかった。



「うそだ…… 私なんて、まだまだだよ」


「いや、金森がどこまでを目指しているか分からないけどさ。俺はその絵たちが大好きだぞ。それだけは、嘘なんかじゃない」


「……本当? 本当のこと、言ってよ」


「本当だって!俺は本気で感動してるし、その絵が大好きだ!」


 ユウは金森の目をしっかりと見つめながら、感じた気持ちをそのまま伝えた。



「……うん、そっか。ありがと、うれしい」


するとやっとユウの気持ちが伝わったのか、金森も素直に受け取ってくれたようだ。しかしその様子にほっと胸をなでおろしていたユウの耳に、今度は金森がポツリと漏らした呟きが聞こえる。


「……だってあの絵の男の子ね。如月くんがモデルなんだもん」



 ……は? 俺? あの子が?


 いやいや、だってさ金森。あの子……


 そしてその予想外の呟きは、ユウの頭の中を真っ白にするには十分過ぎた。


「……え? ええっ? ちょっと待て金森。だってあの子、イケメンだぞ?」



「……如月くんのバカ。私には、そう見えてるんだよ」


 そして顔を赤らめながら金森いずみの可愛すぎる笑顔が、ユウの思考をもっと白くさせた。

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