第42話 お守り


「…火東さん、だいぶパニックになっているわね。それで水崎さんは、私に連絡をくれたのね?」


「はい。黒木先輩の噂は前から知っていたので、先輩の連絡先を知っていそうな知り合いに片っ端から連絡して何とか教えてもらいました。急に連絡してしまって、すいませんでした」


「ふふっ、別に構わないわ。それより水崎さん、火東さんの言っていた窓の外の女の人に心当たりはあるの?」


「…いいえ。私も一緒にこっくりさんをやった友達も、女の人なんて見ていません。

 それに華衣ちゃんから連絡があってから、直ぐに私は駆けつけたんです。多分、5分も経っていなかったと思います。でも華衣ちゃんの部屋の窓の外に女の人なんて居なかったし、それに… 華衣ちゃんの部屋は二階にあって、窓の外に女の人が居るなんて不可能だと思います。華衣ちゃんの部屋の窓には、ベランダも、屋根も無いので…」


 ユウは水崎の話を聞いていて、なるほどオカルトチックになってきたなと感じた。このオカルト研究部に相談するのも納得な話だ。


「…大体の話は分かったわ。ありがとう、水崎さん」


 紅葉はそう言うと、青葉をチラリと見た。すると青葉が、小さく首を左右に振る。


「……明日、火東さんに直接会ってみようかしら?ねえ水崎さん、もし明日になっても火東さんが学校に来なかったら、私を火東さんの家まで案内してもらえる?」


「あっ… は、はい!是非、お願いします!」


 水崎はそう言ったものの、怯えた顔で話を続けた。


「…あの、黒木先輩。やっぱりこれって、こっくりさんの呪いなんですか?」


「水崎さん、大丈夫よ。正直に言うと、今の話だけでは判断は出来ないけれど、そうであってもなくても、私達が全力で手助けするわ。だから安心してくれていいのよ」


 紅葉はそんな水崎に、優しい笑顔で答えていた。そしてその笑顔を受けた水崎は、安心したのか硬くなっていた表情をホッと緩めた。


「…はい。ありがとうございます、黒木先輩。私、先輩に相談に来てよかったです」


「ふふっ、まだ気が早いわよ。…そうだわ水崎さん、万が一の為にこれを持っていくといいわ。悪いモノから、持ち主を守ってくれるお守りなの。火東さんやお友達の分もあるから、是非渡してあげて」


 そして紅葉は鞄から、人数分のお守りを取り出した。


「ありがとうございます!今日、華衣ちゃんに必ず届けます。それから友達にも渡しておきますね」


 紅葉からお守りを受け取ると、水崎の表情にいつもの笑顔が戻っていった。


「それがいいわ。きっと安心するから」


「じゃあ私、早速これを届けてきます!華衣ちゃんに会えたら、明日のこと話してきます!もし駄目だったら家まで案内するので、明日は宜しくお願いします。また様子を連絡しますね!」


 そう言い残し、水崎翔子は来た時とは別人の様に元気な様子で部屋を後にした。その足音が遠ざかっていくのを聞きながら、ユウは口を開いた。


「さすがですね、先生」



「…何が、かしら?」


 何か考え事をしていたのか、少し間を置いてから紅葉はユウに視線を向けた。


「ここに来た時はあんなに不安がっていた水崎が、帰る時には元気になっていました。それにそんなに効果があるお守りを、いつも持ち歩いているなんて凄いなと思って…!」


「ああ、あのお守り?確かにうちのお寺で御祈祷はしてあるけれど、500円で市販されている、ただのお守りよ。気休めにはなるかもしれないけれど、あまり効果は期待出来ないわよ」


 さらりと言った紅葉の言葉に、ユウは絶句してしまう。



「……じゃあ先生は、水崎に嘘を言ったんですか!?」


 少し言葉が荒くなった。


「別に嘘はついていないわ。少なくても安心することで、冷静にはなれるはずよ。今までの彼女達はパニックを起こしていた。ほんの些細な出来事ですら、呪いのせいじゃないかと思ってしまう位にはね」


 しかし彼女の鳶色の瞳はどこまでも冷静だった。その視線を受けて、ユウも自分が冷静さを失いかけていた事に気が付く。


「…すみません、俺。自分自身も冷静さを失いかけていたんですね。それじゃあ一連の出来事は水崎達の気のせいってことですか?」


「ふふっ、如月君は気持ちの切り替えが早いわね。頼り甲斐がありそう。…そうね、その可能性が高いと思う。少なくても水崎さんには、悪霊の気配はしなかった」


 ……さっきの場面だ。


 紅葉が青葉に視線を送り、青葉はそれに、いいえと応えていた。あの時に二人は、そのことを確認し合ったのだ。

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