第41話 こっくりさん


「……成程ね。それで私達オカルト研究部に、相談に来てくれたのね」


 紅葉の言葉に、水崎はコクリと頷いた。


「ありがとう水崎さん、大体の話は分かったわ。それで少し質問があるのだけれど、いいかしら?」


 そして水崎が頷いたのを確認すると、紅葉の質問タイムが始まった。


「こっくりさんって最近あまり聞かない言葉だけれど、どうしてやってみようって話になったの?」


 優しい口調で紅葉が問い掛ける。そしてその質問は、ユウも聞いてみたかったことだった。


「はい。華衣ちゃんは最近オカルトにハマっていて、SNSのオカルトチャンネルなんかを熱心に観てるんです。華衣ちゃんは、そのチャンネルでこっくりさんのやり方を覚えたみたいで、皆でやってみようって言い出しました。

 私は怖いから嫌だって言ったんです。でも他の二人も乗り気になってしまって、そのまま……」


 話を聞いて、成程なと思った。有り勝ちな話である。


「成程ね。それでこっくりさんの儀式中に、何か起こったりはしたの?」


「はい。始めのうちは何事もなく、儀式は進んでいたんです。簡単な質問をしたり、それぞれ好きな人との相談事をしたりしていました。10円玉が勝手に動くので、皆でキャーキャー騒ぎながら楽しんで、それでそろそろ終わりにしようよってなったんです。でも儀式を終わらせるのには、こっくりさんに帰ってもらわないといけないんですよね?こっくりさん、こっくりさん、お帰り下さいって、そしたら…」


 水崎はそこで言葉を詰まらせた。そして自分の肩を抱いて、小さく震えている。


「10円玉が…メチャクチャに動き回って、”いいえ”の場所で止まって…それから何度お願いしても同じことばっかり……。それで皆、怖くなってしまって、10円玉を指から離してしまいました」


 ユウはこっくりさんについて、あまり詳しくは知らない。しかし水崎達が起こしてしまった行動は、典型的な悪い例だなと思った。


「それで、それからどうしたの?」


 しかし紅葉は、あくまでも冷静だ。


「はい。私たちパニックになってしまって、華衣ちゃんがこっくりさんに使った紙をキッチンまで持って行って燃やしました」


「……成程ね。それでは儀式に使った台紙はもう残っていないのね。では次に水崎さんが先程話していた、その後に起こった不思議な出来事について話してもらえる?」


「はい。その日は、すぐに解散して特に何も起きなかったんですけど…次の日から、私たちに怖いことが起きました」


 怖いこと?ユウは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「まず最初に私が階段で転んで、怪我をしたんです」


 話をしながら水崎は制服の袖をめくり腕を見せてくれた。その腕には白い包帯が巻かれていて、それを見た紅葉が心配そうに尋ねている。


「……まあ、大丈夫なの?」


「はい、捻挫だそうです。転んだ時に腕を付いてしまって。でも大した事ないから大丈夫です」


 そうは言ってはいたが、袖を元に戻す時の彼女は少し痛そうに顔を歪めていた。


「それで、ここ数日の内に一緒にこっくりさんをやっていた友達が二人も同じ様に怪我をしたんです。一人の子は自転車で転んで捻挫と打撲で全治2週間の怪我をしたし、もう一人の子は部活中に転んで左腕を骨折して全治1ヶ月の怪我だそうです。

 立て続けに三人も怪我をしてしまったので、私たち怖くなってしまって、こっくりさんの呪いじゃないかって思いました。それに……」


 ここの先を話すことを躊躇っている水崎の代わりに、紅葉が続きを話し始める。


「……段々と怪我が、酷くなっている?」


「……そうなんです。四人目の華衣ちゃんは凄く怯えてしまって、先週の木曜日から学校にも来なくなって自分の部屋に引き籠っています。私、心配で木曜日も金曜日も会いに行ったんですけど、会ってももらえなかった。

 電話は繋がらないし、繋がっていたSNSもだんだん繋がらなくなっていきました。華衣ちゃん段々変になっていって、今は全然繋がらない……」


「彼女は、どんな風に変なの?」


「はい。華衣ちゃんとやり取りしていたSNSを見てもらった方が分かり易いと思います。 ……これ」


 水崎はそう言うと自分のスマホを取り出し、火東華衣とのSNSのやり取りを見せせた。




       ………………………………………………………………




『華衣ちゃん、大丈夫?心配してます。連絡下さい』


『……私、大丈夫かな?外に出たら、皆みたいに怪我しちゃう』


『大丈夫だよ。たまたま怪我が重なっただけで、呪いとか関係ないよ』


『何でそう言い切れるの?…たまたまとか、ありえない』


『落ち着いて、明日華衣ちゃんちに行くから、ゆっくり話しよ?』


『翔子はもう終わったから、いいよね!段々酷くなっているから、私はどうなるか分かんないだよ!?』


『きっと何も起きないって。とにかく明日行くからさ』


『来ないでよ!会いたくもない!』


『そんなこと言わないでよ!明日行くから!』


 ……返信なし




 ―次の日―


『今、華衣ちゃんちだよ。話しようよ』


 ……返信なし


『華衣ちゃんのお母さんに聞いたよ。ご飯も全然、食べてないって?大丈夫?』


 ……返信なし


『……今日は帰るね。また明日来るからね』


 ……返信なし




 ―その日の夜―


『翔子!助けて!窓の外に変な女がいる!』


『え!?女の人?どんな女の人?』


『わかんない!じっとこっち見てる!怖い助けて!』


『ちょっと待ってて今、行くから!とにかく落ち着いて!』


 ……返信なし


『今、華衣ちゃんの家の前にいるよ。大丈夫?部屋に入れてくれる?』


『もう帰っていい!来ないでよ!』


『華衣ちゃん、どうしたの?何かあった?とにかく一回会って話しようよ?』


『帰れ!』


『…分かった。今日は帰る。こういう事に詳しそうな人に相談してみるから。とにかく落ち着いて。また連絡するから』


 ……返信なし



 それ以降、火東華衣からの連絡は途絶えたままだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る