19
白い寝室の白いベッドの上に、ヨウさんと並んで寝そべった。ヨウさんは俺に布団をかけてくれたけれど、自分の身体は半分以上布団からはみ出していた。このひとは、気温の変化にとことん鈍感なのだろう。寒い野外でもシャツ一枚だったし。
「寒くないんですか?」
「俺?」
それ以外、誰もいない。
俺が頷くと、ヨウさんは適当な感じに首を斜めに振った。
「寒いとか暑いとか、あんまり感じないのかな。ていうか、気にならない。」
俺は、それ以上ヨウさんに言葉をかけられなかった。だって、掘り下げれば掘り下げるほど、ヨウさんの悲しい過去が露見してきそうで。
黙ってしまった俺を見て、ヨウさんは笑って電気のリモコンを手に取った。
「電気、消すよ。」
その言い方は、軽かった。気にしていない、と示すみたいに。
「はい。」
俺はヨウさんの身体に白い毛布を掛けてみた。ヨウさんは動かず、俺のなすがままになって、指だけで電気を消した。
暗くなった部屋。聴覚だけが妙に冴える。
ヨウさんからは、なんの物音も気配もしなかった。本当にそこにいるのか分からないくらい。俺はなんだか不安になって、そっと腕を伸ばしてヨウさんの肩があるあたりに触れてみた。そこにはちゃんと人の体温が合って、俺はなんとなく安心した。
「ハルカ?」
「なんでもないです。」
「そう。」
眠ろうとして、目を閉じる。ヨウさんの言っていた通り、疲れが取れるかどうかは別としても、眠っているのは目を覚ましているよりずっとましだ。少なくともその間は、変に傷ついたり苦しんだりしないですむ。たまに、夢の中まで追いかけてくる傷や苦しみもあるけれど。
片手でヨウさんに触れたまま、じっと目を閉じていても、眠気はやってこなかった。誰かと眠るという経験が、物心ついて以降ほとんどないから、そのせいかもしれない。
ヨウさんは眠ったかな、と思って、ちょっと首を動かしてヨウさんのほうを見ると、暗闇の中でもきれいに光る白目とぶつかった。
俺はどきりとして、とっさに目をつぶり直した。
くくく、と、リズミカルにヨウさんが笑った。俺は、それも聞こえないふりをした。寝返りを打って、ヨウさんに背中を向ける。からかわれているのは分かっていた。
母さんは、もう出かけただろうか。
ふと、そう思った。
昼間眠り、夜になると着飾って出かけていく母さん。もうあのひとは、もう夜の街にまぎれていったのだろうか。俺がいなくなったことには、気が付いているのだろうか。気が付いているとしたら、少しくらい俺のことを考えてくれただろうか。
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