18
「一緒に寝て下さい。」
ふわふわと、夢の中で雲の上を歩くような物言いになった。ヨウさんは俺のその言葉を聞いて、曖昧に首を傾げた。
「それ、どういう意味?」
どういう意味もなにもなかった。俺はただ、文字通りヨウさんに一緒に寝てほしいだけだ。そこに肉体的な接触だったり、心の慰めだったりを求めているわけではない。ただ、あの公園へ行かないでほしかった。一人で、変に薄着で、いもしない鯉に餌をやったりしないでほしかった。その姿はどうしても、寂しすぎるから。
「どういう意味でもないです。一緒に寝て下さい。」
ごちゃごちゃした胸の内は、言葉にうまく乗せられる気がしなかった。だから、ヨウさんの目をじっと見た。それだけでこの人はきっと分かってくれると、信頼にも似た感覚があった。信頼なんて言葉を寄せられるほど、俺はヨウさんを知らないのだけれど。
「……別に、いいけどね。」
俺の目をはっきりと見返したまま、ヨウさんが肩をすくめた。軽い動作だったけれど、俺にとっては重かった。それは、ヨウさんにも多分分かっていたはずだ。
「もう、俺、誰にも振り回されたくないんです。」
ヨウさんの動作の一つ一つに目をやっては、意味を読み取ろうとしてしまう、自分自身に言い聞かせるように言った。
「誰かの態度にびくびくしてたくないんです。」
本音だった。誰かに、ヨウさんに、聞いてほしかった。ヨウさんは、俺がこれまでどんなふうに生きてきたかを知っているわけではないから、俺が言いたい意味が完全に伝わると思っていたわけではない。昼間の母さんと夜の母さんとに振り回され続けた俺の生活を、知ってほしいとも思わない。ヨウさんには、そんなことを知らされる義務はないはずだ。
ヨウさんは俺の目を覗きこむみたいに静かに瞬きをした後、大丈夫、と言った。
「大丈夫。ハルカ、さっきから結構勝手だし。俺態度に振り回されたりしてないでしょ。」
「え、俺、勝手ですか?」
「うん。結構。なんなら俺が振り回されてる。」
ヨウさんがあっさり口にした言葉が、俺にはなんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。ヨウさんも、俺と同じように笑っていた。
「寝ようか。俺も寝るから。」
ヨウさんが言って、俺は頷いてカップ麺の残りを一気に啜りこんだ。冷めてしまったそれは、それでもなんだか、とてもうまく感じられた。
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