17
唐突に込み上げてきたのは、寂しさだった。なぜだかは分からない。ただ、あの公園で見たヨウさんの姿を思い出すと、突き上げるように全身が寂しさを訴えてきた。俺は、半分残ったカップ麺を放り出すようにテーブルに置くと、ヨウさんに抱きついていた。
なにをしているか、自分でも分からなかった。ただ、寂しくて、寂しくて、その感情が向かう先が分からなくて、目の前にはヨウさんがいた。
「どうしたの?」
カップ麺を持ったまま俺に抱きつかれたヨウさんは、怪訝そうに首を傾げた。抱きしめ返すでも、突き離すでもないその態度は、俺にとって心安かった。とても。そのどちらをされても、俺は多分、心が折れていた。
「……どうも、しないんですけど、」
その先の言葉を思いつけなくて、俺はヨウさんの首に回した腕に力を込めた。
母さんも、あの公園にいたのかもしれない。一人で、いもしない鯉に餌をやったりして。
想像する母さんの姿は、きれいな手をしていて、色が白くて、変に薄着で、ヨウさんに似ていた。
「疲れてるんだよ。」
ぽつん、と、ヨウさんが言った。俺はその言葉を、肯定も否定もしなかった。疲れてはいるのかもしれないな、と思った。身体ではなくて、もっと深く、取り返しのつかないところが。
「眠った方が良い。」
ヨウさんは、そう言葉を続けた。
「眠ったところで疲れがとれるかは分からないけど、起きているよりは多分、ましだよ。」
淡々とした物言いなのに、俺はヨウさんの言葉の一つ一つを、優しい、と思った。俺は誰かに優しくされたことが、特別少ないわけでは多分ないけれど、その優しさたちは、後になって必ず裏切られた。だとしたら、ヨウさんみたいに、無意識に優しいと言うか、特に優しくしようとしているような素振りが見えないけれどもどこか優しい、みたいな態度の方が、安心できた。
「ベッド、好きに使って。俺は出るから。」
やはり、淡々とした物言い。俺はその言葉にじわりと滲むような、微かな優しさに縋っていた。
「ここにいて下さい。」
ヨウさんは、空になったカップ麺を床に置くと、軽く肩をすくめ、俺の肩をぽんぽんと宥めるように叩いた。
「じゃあ、俺はここにいるから、ハルカは寝なよ。」
このひとは、俺が寝たらどこかに行くのだろうな、と思った。どこか、ではない。あの公園へ。一人きりで、いもしない鯉に餌などやって。
それは、嫌だった。とてもとても、嫌だった。
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