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 エンドラ討伐、ハードコアエンドラ討伐、ノーダメージでエンド到達、限界高度到達、一万メートル走破、村の英雄達成、アイアンゴーレムを倒すイカスミを入手するウォーデンを殴るエメラルドを入手するオオカミを手懐けるの五つを行うアイウエオチャレンジ、襲撃者の塔スタートで襲撃者五十人倒すまで終われません――

 タイムアタックだけでも多数の遊びが存在する。


 マイクラオンラインでは、これらの遊びが『レギュレーション』として整備されており、プレイヤーは同ランク帯でランダムマッチングして戦い合う。

 このレギューレションは運営元マクロソフトのみが新規、更新、削除を行う。同社内で対応することもあるが、他社との共創であたることも多く、JSCもそのパートナーに含まれる。


 この仕事は社内ではレギュレーション拡充案件と呼ばれる。

 忍が先日【レース案件】と名付けた美咲との仕事も本件の一環であり、マクロソフト曰く「移動競争レースに関するレギュレーションを増やしたい」。

 そのためにはそれなりのプレイヤースキルが必要され、JSCでは社内大会を開催してメンバーを厳選すると決定。


 なお金額的にはあまり美味しくなく、JSCとして請け負う仕事では正直無いのだが、大手中の大手マクロソフトとの共創機会をないがしろにするわけにもいかない。そこでJSCはこれを帰属意識エンゲージメント向上施策と捉え、若手育成や社内イベント開催と絡めることにした。

 美咲は今回必須メンバーだが、これは新人および二年目フレッシャーを必ず入れよとの制約があるためだ。


「それじゃつくろうか。何つくるかは【練習したい動き】ページを見て」

「マグマボート渡りって何でしたっけ。つくってみたいです」

「どうぞ」


 午前九時。忍と美咲は新規の平面世界スーパーフラットにて、宙に浮いたまま向かい合っていた。

 通常のマイクラではなくクラバー――マイクラバーチャルオフィスでつくったワールドだ。拡張機能MODを用意しなくても便利機能が使えるため普段から愛用する者も多い。


「先輩は何つくるんですか?」

「水バケツ着地。高さのバリエーションも一通りつくる」


 忍は水バケツを手に持つと、早速地面を掘って水たまりをつくる。

 動作はゆっくりとしているが、規則的で無駄がなく、美咲はしばらく呆けていた。


「手を動かす」

「あ、ごめんなさい!」


 美咲もマグマのプールをつくり始める。手作業で掘って埋めるのは面倒なため、fillコマンドで一気埋めようと座標をメモしていると――ジャジャジャジャッ、と土が重なっていく音が。

 美咲は振り向いて、見上げて、露骨なため息。


「味気なくないですか?」

「ああ、宮崎さん、建築勢?」

「建築どうこう以前の問題だと思いますけど……」


 安易な土ブロックではなく、もう少しこだわりを持てと言いたいのだろう。

 JSCはクラバーを日常的に使い、マクロソフトとのマイクラに関する仕事もそれなりにあるため社員教育も多い。常日頃から見栄えを意識しろ、とはよく叩き込まれるメッセージの一つだ。加えて美咲など若手世代はただでさえマイクラネイティブでもあるため、美意識としても耐え難いのかもしれない。


「今回は見逃してほしい。本番まで時間もないし、練習時間が惜しい。むしろこだわりすぎて時間かける方が問題」

「気分が上がらないのも問題だと思います。先輩も書いてましたよね、気分とモチベは直結するって」

「練習できるなら好きにしていいよ。俺はこれでつくる」

「統一感なくないですか?」

「全部宮崎さんがつくる? さすがに時間かかりすぎると思うけど」

「二時間、いえ一時間もあればできますよ。私にお任せしてもらっても大丈夫です。コーヒーでも飲んでてください」


 忍は迷ったが、結局任せることにした。


 忍に限って言えば練習など必要無い。どの程度の実力を演じるかという演技も含めて。

 なら美咲の勉強機会に費やした方がいいだろう。今回こうして各種練習施設をつくるにあたって、知らないことや曖昧なことを調べることになる。自分で調べて、自分で手を動かせば勉強効率も良い。


「そういえば先輩ってコマンドは使わないんですか?」

「使わないね。クリエもほとんどしない」

「建築は苦手?」

「苦手というか嫌い」

「嫌いなんだ」


 くすくすと笑う美咲。

 喋りつつも手は止まっておらず、忍を責めるだけあって手際は良い。


 プレイヤースキルの方はどうか、と忍は思案する。


 スクラボには既に書いているが、忍としては今回はぜひとも勝ちたい。

 レギュレーション拡充案件が手に入れば、上司品川や大田グループ内の他メンバからの干渉も減る。平社員や管理職といった階層意識ヒエラルキーに縛られることなく、主体的に仕事しやすくなるだろう。別に会社生活など屁でもないし、やめればいいし、今辞めてもダメージは全く無いが、忍とて人間。会社員を続けるのであれば、減らせるストレスや下手なやり方はできるだけ減らしたい。



 ――忍。わらじを履くことを忘れるな。一足たりとも怠けるでないぞ。


 ――怠けるくらいなら死んだ方がいい。



 ボイスチェンジャーで変換したノブの声並に渋くて、でも比較にならないほど厳格だった祖父の声。


「……わかってるよ」

「先輩?」

「いや、何でもない。もう一度確認しておきたいんだけど、俺達の練習方針は言えるか?」

「ひたすら基礎を鍛えるんですよね」


 大会としてどんなレース競技が出てくるかは一切不明だが、マイクラオンラインのコンセプト――ティーラーズ社長が言うところの『原始的なプリミティブマイクラ』に則るなら、そんなに込み入ったものは出てこない。

 少なくともゴッリゴリに人手で建築したコースを使うことはないだろう。自然生成地形にワールドボーダーを敷くか、少しだけ人手を整える程度になるはずだ。

 これは忍の、ノブとしての直感であり、美咲にはマイクラオンラインの動画を多数見せることで納得させた。


 そうなってくると重要なのは、移動に関する基本的なテクニックとなる。

 最速で窒息無しに泳ぐために水面ギリギリで泳ぐ方法、段差につまらず走り続けるためのダッシュジャンプブロックダジャブ、素早く道をつくるための橋架けブリッジング、高所から無傷で落下するための水バケツ着地やその他のアイテムを使った着地、落下中の壁際にブロックを置いて落下を止める突起づくりバンピング――


「その後は?」

「実践練習も鍛えます」


 基本の反復による基礎力の底上げと、実践の蓄積による反応性の強化。

 つまり忍の作戦は今回のレースをスポーツ競技と捉え、アドリブを鍛える方向で山勘を張る、というものであった。


 予告どおり、一時間と経たずに一通りの練習設備が完成し。

 二人は早速練習を開始した。

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