第3話 家で二人っきり


「じゃあここに座って、話そうか」

「うん」


 僕と如月さんは公園の一角にあるベンチに座り話しを始めようとするのだけど、お昼時と時間が悪いのか、子供連れで遊びにきている親子が多くて落ち着かない。

 夕方は全く人の気配がない公園なのに、昼時はこんなにも大人気だったとは知らなかった。


 僕たちの周りを子供達が走り回っている。

 はっきり言って、相談できる空気ではない。

 どうしたもんかと沈黙の時間が数分続く。先に口を開いたのは如月さんだった。


「あのさ……私の家くる? その方がゆっくり話ができるかも」

「えっ……いいの?」

「……うん。ついてきて」


 如月さんはベンチから立ち上がると、スタスタと歩いていく。

 

 ちょっと待って!? 女の子の家にいくの初めてで緊張するんだけど、家に親がいたら……ちゃんと挨拶しなくちゃだよね。


 色んなことをぐるぐると考えながら後をついていくと、何だかずっと見知った風景が続いていく。

 あの角を曲がった所にあるマンションは僕が住んでいる所だけど……なんて考えながら歩いていくと、角を曲がりマンションの前に立ちオートロックを開け中に入っていく。


「ちょちょっ、如月さんこのマンションに住んでるの!?」

「ん……そう。何か問題でも?」

「いやいや僕もこのマンションに住んでるんだよ!」

「え、そうなん!?」


 びっくりしたのか言葉遣いが関西弁に変わる。なるほどね、もしかしたら関西出身なのかな。


「そうだよ。すごくビックリしたよ」

「うん、姫乃もさ、めっちゃビックリした……あっ」


 如月さんは恥ずかしそうに手で口を塞ぐ。僕の姿なのにその仕草は可愛くて何だか照れる。


「んんっ、とりあえず行こ」


 如月さんは照れを隠すようにしてスタスタと歩いて行った。


 エレベーターは三十階でとまった。一番最上階だ。

 二十五階から上は富裕層向けになっていて、キーを差し込まないとエレベーターが上にいかない仕組みになっている。

 もしかして如月さんはお金持ち?


 初めての最上階に緊張しながらも、後をついていく。


 部屋に入ると、広いリビングダイニングに驚く。同じマンションとは思えない作り。


「ふわぁ〜、景色もいいしめちゃくちゃ広いね。同じマンションとは思えないよ」

「そ? 無駄に広いだけ」


 感動する僕とは真逆に、如月さんは無表情で返事を返す。さっきみたいな関西弁だと人間味があるのになぁなんて思ってしまう。


「誰もいないんだね」

「ん。一人で住んでるから」

「え!? こんな広い部屋に一人で住んでるの!? それは寂しいね」

「……慣れた」


 僕がそういうと、節目がちにボソと返事を返してきた。きっと本心は寂しいんじゃないのかなと思ってしまった。


「そっか」


 んん? ってことは僕と密室で二人っきり!

 いや……僕の姿が如月さんだから、何かあるわけではないんだけど。

 急に緊張してきた!


「そこに座ってて、紅茶入れるね」

「ありがと」


 僕は高そうなソファーに緊張しながら待っていると、一向に如月さんが来ない。

 キッチンで何やら茶葉と格闘している。もしかして料理苦手?


「如月さん、僕そういうの得意なんで変わるよ」

「ええん? 実は茶葉とか使ったことなくて……」


 如月さんが眉尻を下げ照れくさそうに僕に茶葉を渡す。

 照れてる時は関西弁がちょっと出るんだ。

 ちょこちょこ出てくる関西弁が可愛いいなっと思ってしまった。


 ★★★


「うわぁ〜めっちゃ美味しっ、いつもパックのやつしか飲んだことなくて、これは高いだけある! めっちゃうまうまや。紅茶入れるん上手いなぁ」


 如月さんは足をパタパタさせながら、美味しそうに紅茶を飲んでいる。関西弁が出ていることなど気づいてないんだろう。そんなに美味しそうにしてくれたら何だか嬉しい。


「僕もお弁当食べていい?」

「ん。もちろん」


 僕はさっき食べ損ねたお弁当を広げる。すると如月さんからの熱い視線が……もしかして食べたいのかな?


「如月さんも食べる?」

「ええん?」


 如月さんは満目の笑みで笑った後、もじもじと恥ずかしそうにしている。


「あっ……ちゃうんよ? そのっ、鈴ちゃんの弁当食べ損ねたって言ってる人がいて……そんなにも美味しいのかなと思って……」


 照れくさいのか少し早口の関西弁で話す如月さん。

 お弁当はいつも誰かに取られる前提で作ってきているから、余裕で二人前はある。


「ふふっ、はいどうぞ。一緒に食べよ」

「ん! おはしとってくるね」


 如月さんは箸を取ってくると、僕の横に密着して座る。

 相手が自分なんで、さほど緊張はしないんだけど中身が如月さんだと意識したら心臓が跳ね上がる。

 如月さんも同じなんだろう。女の子に密着している距離感だ。

 まぁ確かに今の僕は女子なわけで……。


「んん〜〜っ、美味しっ! 天才やね」


 如月さんは幸せそうに僕のお弁当を食べてくれた。

 ひとくち口に入れる度にへにゃりと破顔するから、そのリアクションが可愛くてちょっと困った。


「鈴ちゃんの料理は美味しいって聞いてた通りだったね。………鈴ちゃんて私も呼んでいい?」

「えっ、もっ、もちろん」


 急にそんなこと言われて、ドキッとしてしまう。


「鈴ちゃんの姿って私でしょ? だからか緊張もあんまりしないし、昔からの友達みたいに話せちゃう……何だか変な感じだよね」


 確かにそう言われるとそうなんだけど、僕はたまに見せる可愛い仕草が僕なのに如月さんで脳内変換されてしまって……ドキドキしてしまう。


 この後。


 色々と二人で相談し、僕がお弁当を作って迎えに行き、一緒に登校することにした。

 妹のお弁当を作ってあげたりしないといけないからね。如月さんは全てウーバーで済ませていたらしいし。

 せっかくなんで如月さんのお弁当も作ることにした。これが一番如月さんは喜んでいたな。あとは休み時間も極力一緒にいることも約束した。


「じゃ、先に買い物に行こ」

「そうだね」


 戻ってきたら色々と実験してみようと約束し、僕たちは日の明るいうちに買い物を済ませ、再び如月さんの家に戻ってきた。


 ———実験って何をするのかな? 変なことしないよね?




 

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