第2話 スカートって……スースーする

「もしかして、さっき落ちてきた時に、お互いの頭をぶつけて……それで中身が入れ替わったとか??」


 自分で言ってて、お前なに言ってんだとツッコミを入れたくなる。

 だってさ? そんな漫画みたいな事が……そんな事ありえるの!??

 いやでも、現実そうなわけで。

 ああああもうっ何で僕が……って落ち着け。


「でも……うん。多分そうだと私も思う。頭が一番痛い」


 如月さんが頭を押さえながら僕を見る。

 その姿は僕なわけで、何だか変な感じ。


「そうだね。僕も頭が頭痛い」


 内心はパニックでどうにかなりそうなんだけど、カッコつけて冷静を装う。

 それに僕が混乱してたら、如月さんにだって動揺しちゃうだろうし。男の僕が落ち着かないと。


「すぐ元に戻ってくれたら良いんだけど、それも分からないもんね。この後どうしようか……う〜ん」


 もうすぐ昼休みも終わるし、このまま僕が如月さんとして過ごすのを想像すると……うわぁ、無理無理無理! こんなの難攻不落の無理ゲーだよ。

 如月さんはどう思ってるのかな?

 女の子が男の体になんてストレスしかないよね。


「とりあえず、体調を崩した事にして早退しよ。いつ元に戻るかわからない訳だし……これからの事とか色々と相談したい」


 おおお、如月さんしっかりしてる。だけど、話し方がさっきは関西弁だった気がするんだけどな、でも今は標準語だ。


「うん確かにそうだね」


 その方が色々と助かる。この後、如月さんとして学園で過ごすとか、いきなりでどうしたら良いのか全く分からないもん。


「じゃあ、とりあえずは元の体の方の教室に戻って荷物を取ってこようか。ええと如月さんは僕の隣のクラス……三組だよね?」

「うん。ええと……今更なんだけど、君の名前とクラス教えて」


 うわっ、そうだった。自己紹介してなかった。ごくごく平凡な存在の僕の事なんて知ってるはずないよね。


「あっ、そうだよね。僕は二組の鈴木堅志郎です」

「私は、如月姫乃です」

「ふふ、知ってる。如月さんは有名人だから」

「え? そんな事ないと思うけど……友達もいないし……」

「んん? なんて? 最後の方聞き取れなかった」

「……なんでもない。お互いの教室に戻ろう」


 人に見られないよう、あまり使われていない裏門で待ち合わせする事を決めて、お互いの教室に戻る事にした。


「じゃ、鈴木君また後でね」

「はっ、はい」


 僕の姿をした如月さんが、先に屋上を出て行くのをボーッと見つめ、やっぱり現実なんだと思い知る。


「僕も教室に戻らないと」


 歩いていると、スカートなんて履き慣れてないから、何だかスースーして足元が気になって仕方ない。女の子はいつもこんな状態でよく平気だなぁ。

 なれないスカートに苦戦しながら廊下を歩いていると、すれ違う人みんなに見られていることに気づく。

 きっと如月さんの事が気になるんだろう。人生でこんなに注目された事ないよ。見られていると思うと余計にスカートが気になる。


 一人勝手にソワソワしながら、どうにか三組の教室の前に辿りつき扉を開けると、みんなが僕を一斉に見てくる。


 何!? どしたの!?


 なんかいつもの如月さんと様子が違うって思ってるとか?

 お願いだから僕のことそんなに見ないで。

 恥ずかしい。やばい顔が火照る。

 あっ、山田までデレっとした顔で僕を見るな!

 さっさとロッカーの荷物を取って帰ろう。


 ええと出席番号は三十三番って言ってたよね。三十三番はっと……あったこれだ。

 ロッカーを開けると、ふわりと花の香りが鼻腔をくすぐる。


「ふわぁ……良い匂い」


 って声に出ちゃってる。何だか女子のロッカーを勝手に漁る変態みたいじゃないか僕。ちちっ違うんだ。僕は今、如月さんだからこれは正当な行為であって……。

 

 一人身悶えながら自問自答していると、背後から視線をビリビリと感じる。

 なんだか振り返るのが怖いほどに。

 如月さんはいつもこんな注目されながら生きているの?

 それはなかなか生き辛い。

 如月さんは慣れちゃって平気なのかな?


 とりあえず、先生に体調が悪いので帰りますと相談をして裏門に向かうと、先に如月さんが待っていた。正確には待ってるのは僕なんだけど。


 ……ややこしい。


「如月さんお待たせ。待った?」

「ううん。大丈夫……鈴木くんはみんなから好かれてるんだね」

「えっ!? なに? 急に」


 急にそんなことを言われてテンパってしまう。


「だってね、体調崩したって言ったら、みんなが鈴ちゃん大丈夫って聞いてくるし、先生まで『ゆっくり体休めるんだぞ』って言って送り出してくれたし…… そんなの……私のクラスでは、なかったでしょ?」


 如月さんが少し寂しそうに話す……。


 確かに如月さんのクラスではなかったけど、それはみんな如月さんに話しかけたいけど、美しすぎて話しかけるのが緊張しちゃうだけのような気もする。だってみんな話しかけたそうにチラチラと見てたし。


「この先にある小さな公園で、今後の事を決めようか?」

「そうだね、僕はお昼も食べ損ねたしそこで食べようかな」

「決まりだね」


 二人で公園に向かった。

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