第4話 聖職者はあらゆる時代と国で性的暴行の主要な加害者らしい
「どうぞ、お掛けになって下さい。旅人と伺いましたが、どの様な事情で旅を?」
応接室に通された俺はそのまま促され着席する。
……座る時に両肩にさりげなく手を添えられた。 なんか、ボディタッチ多いな。
女性の指の冷たさを感じてドキドキする。
「実は旅人というのはちょっと違ってて、シスター様なら何かご存知かも知れないと思って告白したい事があるのですが……」
早速だが、前置きもせず俺は自分の身上を全てシスターに打ち明け、説明した。
通常、こんな事は一々説明した所で良くて変人扱い、コミュニケーションに不便をもたらすだけだろうから、誰にも明かさず抱え込むつもりだったが。
もしこの秘密を話す事がふさわしい人物がいるなら、この人かもしれない。
これが自分の素性を明かすまたとない機会と考えて、日本から来た事、山道を彷徨っていたらそれと知らずにこの国に迷い込んでしまった事、山賊コンビに話した時以上に、詳細に思い出せる全てを説明した。
打ち明ける理由として、異世界の心細い状況で、聖職者を信用、縋る気持ちがあったというのが一つ。
有徳の人ならば荒唐無稽な話を聞いても、どこか第六感、理ではない領域で俺の事を信じてくれるかもしれない。
あるいは、話自体を信じて貰えず可哀想な人だと認定されたとしても、それはそれで良い用に取り計らってくれるのではないか?
だって俺が可哀想なのはただの事実だ。 素寒貧で孤独で、放っておけばいつか野垂れ死ぬ。
とにかくそこの事情を汲み取って貰う事が今一番大事であるはずだ。
その際に変な事を口走ったとしても、シスターなら悪いようにはしないのではないか。
文化や時代が違っても宗教の世界では、善意を信じる事が出来るはずだと俺は期待していた。
そしてもう一つ、これは願望に過ぎないが、同じ目にあった人間が一人や二人では無いのではないかという推察。
俺は別に特別な人間ではないし、能力も経歴も良く言って人並み。
もし何者が俺を選んでこの世界に運び出したのだとすれば、同様に運ばれた人間はいくらいても不思議ではない。
だからあえて、ニホンとかスマホという単語も強調して喋った。 既に先客がいる事を期待して。 もしかすれば地球人の難民キャンプがあるかもしれない。
パスポートなど無いが……その場合俺には渡航する権利があるはず……! リトルアース……異世界の地球人街へ……!
「信じましょう」
「マジですか……!」
説明を聞き終えるやいなや、待ち望んでいた言葉はあっさりと放たれた。
あるのか……? 帰郷するための空港……或いは地球人保護施設……!
「貴方の様なケースは聞くのも初めてですが、あり得ない事とは思いません。神か悪魔か……何者かに誘われたのでしょう。」
穏やかな語り口で、こちらの緊張を落ち着ける様にシスター・ユールは言葉を続ける。
「この世界には召喚術、別の世界に交信して何かを呼び出す秘術が存在します。 ならそういう事も当然あり得るでしょう。 専門外の知識ですので私も詳しい事は分かりませんが」
語りながらこちらの手をギュッと握ってきた。 この人の素なのか? いちいちフレてくるから顔がデレデレする。
「そ、その別の世界っていうのは……?」
誰が俺を呼び出した? 魔法使い? 神?
「例えば、魔界から悪魔を呼び出したり、天界から奇跡を呼び起こしたり……もしかして貴方の世界ではまだ開発されていない技術なのでしょうか?」
ガックシ。 それは多分俺が期待した意味での別の世界では無く、まるっと"彼らの宇宙"の内側で起こってる現象に違いなかった。 俺のバースには天界や魔界、存在しないもん。
いや、それにしたって何かに繋がりそうな情報ではあるし、凄い事を聞いた。
この世界本当にファンタジーだ。 悪魔がいるし魔法もある。
洋風の国で日本語がそのまま通じる時点で、歴史上のどこかでは絶対あり得ないとは思っていたから、予想の範囲内ではある。
それでも人生で一番の衝撃だ。 この世界悪魔を召喚出来るの? 見てえよそれ。
「あの……恐らく僕の知識はこの世界の当たり前とかなりズレているみたいで……ご迷惑で無ければもっと色々と教えてくれませんか?」
相当面倒くさい要求だと思うが、快諾された。
やっぱ良い人だ。 暇だったのかもしれないが、親身になってくれるのはこの人の地の性格だと思う。
そうしてシスターと話を擦り合わせていく内に、この世界の文化レベルや振る舞い方が理解してきたのだが。
「それにしても男子一人であの二人と過ごしたのは難儀な事だったでしょう。偶然助けられたとの事ですがこれからは出来るだけ……」
「あのあの、ちょっと聞いていいですか?」
「はい?」
話を遮って一番聞きたい話題に食らいつく。 ずっと気になっていたんだが、この話題をどう聞き出せば良いかが分からなかったのだ。
「なんか、さっきからお話を聞いてて感じたんですが、この世界ってもしかして男性の方が少なかったりしませんか? 戦争とか、疫病とか……」
俺がずっと気になっていたのはここ。 シエル達との接触で既に感じていたが、ユールさんからも節々に感じる。
まるで男である事が希少価値、みたいな前提がこの世界にあるのではないか。
「はい?えーと……ちょっと良く分からないんですが……最近で大規模な疫病や戦争が起きたという事はありませんし、男性の数も普通ですよ。もしかして貴方の世界ではそのような災害が……?」
心底不思議そうに返される。 魔法だなんだよりももっと根本的に……この世界では人間としての考え方、価値観が異なる。 俺にとっての異常が向こうの正常なのだから、"違い"が向こうにとっては自明ではない。 これが恐らく核心となる1ピース。 どう質問したら導き出せる……?
「……この村に男性ってどれくらいいるんですか?」
「9人ですね。お会いになりたいんですか?」
即答!少なすぎるな……。
「この村の人口は?」
「大体500人くらいですねぇ。」
……これは……名付けて「男が少なすぎるファンタジー世界」だ。 常識的に考えたら出稼ぎとか従軍だが多分この世界、単に男の出生数が少ないのでは。
人為的な物か自然の意思か……。
「新生児の男女比率ってご存知ですか?」
「ヒューム族なら1:5ですが……」
「聞き辛いんですけど、それって男が生まれたら間引いたりとか……」
「間引く……?」
「…………!畑じゃないんだからそんな恐ろしい言葉使わないで下さい!百歩譲ってもなんで男の方をその、そんな風にする事があるんですか。」
驚愕、次に憤慨した表情で俺の質問は咎められた。
「すみませんでした。少し気になった事があって」
失礼な事を聞いてしまったのですぐに謝る。
さて、ヒュームとは要は人間、この国の人口の大多数を占めるらしい種族の事だ。
ユールさんの話ではこの世界には数えきれない程の異種族、亜人種が共存して暮らしているらしい。
そしてその人間様の男女比が……1:5!?
とんでもない……世界に来てしまったと感じた。
確か、お隣中国では一人っ子政策の影響で稀に見る男余りに直面していた。
記憶だと男女比が……11:10程度の男過多。 経済状況や地域によって更に結婚格差は広がり、
地方では更にズッシリと色濃く男余りの影響が出ていた。
それが1:5ではどれほどになるだろう? 人口1000万の国なら600万人の女性はパートナーと手を繋がず死ぬ計算になってしまう。
そして地域ごとの偏りはこの村が良い証拠……単純に比率を当て嵌めても500人の村には100人くらい男がいなきゃおかしい。
それが9人というのだから、この世界はかなり強烈な女余り社会だ。
これでどうやって地域社会を存続させている? まあ、生殖活動を問題とするなら女余りは男余りと比べて解決の次第はあるだろうが、それも限度があるはず。
恐らく旧来の、俺の知る形での家族という共同体はかなり希少であるはずだ。
農村や都市では俺には想像も付かない形で人材の分配が行われ、殆どの女性が異性を知らないまま生涯を終えるのだろう。
なんて世界に来たんだ……。 俺が男である事は幸福なのか不幸なのか分からない。
見ようによっては男にとって楽園の様に都合の良い世界かも知れないが、これはそんな簡単な話だろうか。
そして俺は、自分の世界での男女比は1:1が普通である事、性に関する価値観がこの世界とは"逆さ"である事を告げた。
最初は言っている事が上手く飲み込めないようだったが、説明を繰り返す内に納得してくれた様子だった。 その結果この世界での男性の振る舞い、女性の考え方を教えて貰える事となり、またこの事は今後極力誰にも明かさぬ方が良いという忠告も受けた。
それは確かに、そうだろう。 奇天烈な痴女、もとい痴漢アピールと受け取られてしまいそうだ。
(この子……どこまで本気?もしかしてマジなの……?千載一遇……?)
最初、とんでもない不思議ちゃんがやってきたなと思いつつ、可愛いので付き合ってあげていた。
しかしこれはもしかして本当、マジで異世界からやってきた奇跡の少年なのではないか……?
セクハラに対してもずっと無防備だったし、子犬の様に縋ってくる様がどうしても本心にしか見えない。
しかも性の価値観が逆さだとか言い出した……じゃあ何? 私がここで手を出しても向こうからしたらまんざらでもない、"男に襲われる女"みたいな心理になるって事?
その女にとって都合が良すぎる楽園の様な世界、是非行ってみたい。
……彼の言ってる事が全くの嘘、或いは狂気だったとしても、これはもう「ご賞味あれ」と差し出されてるのと一緒だ。
きっと神様は見てくださっていたんだ……私の日頃の働きを。
だから褒美として、異世界から私のための男神を遣わした。 「貞操観念が逆転した世界」の美青年を。
あぁ~~……しかも今なら二人きり。 村の女どもは畑仕事で忙しいから邪魔も入らない。
君が本当に何者だろうと、もう何も起きずにこの場が終わる訳にはいかないって事だよね。
神よ、感謝します。 興奮で五体が張り裂けそうです。
「ところで、それならこういう風にされても抵抗感とかは無いんでしょうか?」
いつのまにか後ろに周っていたユールさんに、覆いかぶさる様に抱きつかれる。
抵抗感とかは別に無いし、どちらかと言うと嬉しいけども、急にそんな事しなくても。 なんのテストですか。
「抵抗感は別に無いですけど、あの……」
ユールさんの手が俺の尻に伸びてきてる。 左手で尻、右手でも体をまさぐってきている。 振り向いたらこの人……目がマジだ。 美人がメチャクチャ真剣な表情でこっちを見つめてる。 シエルさん達と同じパターン……スイッチ入った。
多分だけどこの世界の女性はシンプルに性欲が強い。
社会的な進化か、生物的な進化かは分からないが。 嬉しい事のはずだけどちょっと怖い。
「ハァ……ハァ……」
息荒っ! 「迫ってくる」感じが半端ない。 そんな必死にならなくても逃げないからもっと手順を踏んで頂けたら……いや、そういうのも分からないからこうしてるのかな。
比較は不適切かもしれないが、女性から見た童貞男ってこんな感じだったのかな……。
「ユールさん、ちょっと一旦落ち着きましょうよ。全然、嫌とかじゃないですよ。でも自分しばらくお風呂も入ってないし、こういう事は今しなくたって……」
「じゃあ一緒に入ろう。お湯沸かすから。」
力も強い! やんわり逃げようとしたら物凄い握力で引き戻された。 声もまったく余裕が無い。 あっチンコ揉まないで……。
「外で火炊くから一緒に来てね?」
さっきから一瞬も視線を切らさないし手も離さない……。 これは絶対に逃がさないという事か。
今後二度とこの世界の人に貞操観念どうこうの話はしないでおこう。 マジでな。
しかしこの事知られたら、浮気者としてシエルさん達にぶっ殺されたりはしないよね……?
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