23. 無言劇
祖父が披露したのは自作の無言劇だった。チャップリンに憧れていた祖父は彼の特集が組まれているテレビ番組や雑誌は欠かさずチェックし、人知れず笑いを追求していた。彼のその行動が土壇場で役に立つことなど、彼自身も想像していなかっただろう。
それから5分後ーー。
無表情でおかしな動きをする祖父の姿に、警備員たちは肩を震わせ必死に笑いを堪えていた。友人を救うためどうしても総支配人に会わなくてはいけない祖父。そして任務を託された以上、どこの誰とも知れぬ男を易々と通すわけにはいけない警備員たち。これはいわばチャップリンの映画『街の灯』に収録されている「ボクシング」さながらの、両者の威厳をかけた力と力のぶつかり合い、いや、意地と意地のぶつかり合いである。
そして勝負の終わりは唐突に訪れた。
いかにも真面目なサラリーマンがネクタイを整え、鞄に荷物を詰めて会社に行く準備をして家を出た後、顔面から蜘蛛の巣に引っかかる真似をしたところで2人の我慢は限界に達した。警備員2人は廊下に倒れ込み涙を流し、腹が捩れんばかりの勢いで笑った。祖父曰くそこで彼はニヒルな笑みを浮かべ、事務所へと続く大きな扉を開いたのだという。
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