第55話 選挙活動してみよう
――都内某所。
『
夏緑と書かれた選挙カーが都内を回っている。
夏緑とは、夏野黄緑の偽名である。
髪の色と眉を緑色に染め、サングラスをかけ、容姿をわかりづらくしている。
選挙活動で顔を分かりにくくするなどご法度だと思われるが、我感さずの勢いで黄緑は動いていた。
「お、お願いいたします」
未成年である青春と和花もチラシ配りのお手伝い。
本来子供にこういう手伝いさせるのも問題な気もするが、知ったことかの態度を貫く緑候補。
こういうのは目立ってなんぼでしょ! と、黄緑は好き放題やり、都知事選をかき回すつもりのようだ。
尾浜の方は正当なやり方で選挙活動するようなので、最悪こっちがダメでも問題ないからという事らしい。
実際、未成年の黄緑が都知事になるような未来になると、それはそれで問題だからこれでいいのかもしれないが。
都知事候補として潜り込めば、達田や妖魔と接近できる可能性もあるわけだし。
選挙カーの上に立ち、ニコニコでマイク片手に演説を黄緑は始める。
『夏緑で~す! ワタシが当選した暁には~女子高生と男子中学生の結婚を合法化させま~す』
街中を歩く民衆は一部、足を止める。
なに言ってんだこいつは? 頭大丈夫か? ふざけてるのか? 面白いな……
色々意見が飛びかってはいるものの、少なくとも目立つ事には成功。
こうした選挙活動、足を止めない者がほとんどだ。しかしふざけた公約で、人々の注目を集めていた。
『ショタコン=神。ショタコン=正しき愛!』
周囲がざわつく。
『美少年=神。美少年=国宝。青くんは神!』
「ちょっと!」
自分の名前を出すなと青春は少し怒る。
「何が言いてえんだあんたは~!」
公約を聞いてた人が叫ぶ。
『何? つまり! ワタシはイケメンショタと結婚したいのです!』
……あまりの問題発言に、民衆の口がポカンと開く。
何やってるんだと、青春は頭を抱える。
ある意味では犯罪したいみたいに聞こえる発言だからだ。
『ご安心下さい! 結婚だけで、それ以上の事はしません! 大人になるまではご法度! ですからね!』
(ま、バレなきゃ知ったことじゃないけど)
ボソリと問題発言かますが、それは聞こえてないのでセーフ。
いや、セーフではないのだが。
「要は自分の欲のためだけじゃねえか!」「そうだそうだ!」「引っ込め引っ込め!」
案の定、人々の
『だまらっしゃい!』
まさかの逆ギレ。こりゃダメだと青春以外の協力者の方々は思う。
『ワタシはね、都知事になればなにがなんでもその公約を守って見せる。なぜなら自分がしたいから。一方他の政治家なり、候補者はどう?』
黄緑は都知事選の看板を指す。
『人々に都合の言い様な事言っておいて、都知事なり議員になってその公約守ってる人なんてろくにいないでしょ?』
※個人の意見かつ、この世界での話です。
『でもワタシは絶対にやってみせる。だからこそ、都知事にして下さるのなら、皆さんのためになるような公約もいずれ掲げ、こなして見せます。何故ならワタシは青くんと結婚したいから!』
だから名前を出すなと思う青春。ただ、その真っ直ぐな好意には照れくさくなる。
……嬉しくもあった。
『自分の欲? 結構! なにがなんでも達成したい公約なんだから! ワタシはやってみせる! ついでに日本も良くしてあげるから!』
ついでかよ。
そう思われるが、ふざけた黄緑の公約、面白くもあった。
♢
黄緑は若者を中心に支持され始めてきた。
政治に興味のない者達を筆頭に面白く、彼女が都知事になったらどうなるんだという好奇心……
そしてふざけた公約で目立つ彼女は都知事選の立候補者の中で、一番の知名度をほこりだした。
達田以上の……
「目立ってなんぼ……間違ってなかったのかもね」
青春は始めて黄緑に感心していた。
悪名は無名に勝るとは良く言ったものだ。
アンチも大量に発生してはいるが、支持もされてる以上、無名よりははるかに良い状況。
票もそれなりに集まり、街頭インタビューなどでの人気はまさかの三、四番手くらいにおどり出ていた。
一番人気は当然達田。
二番人気は若手政治家、
その後に黄緑、尾浜、前知事の桜ヶ丘が続く流れだった。
「前知事、人気なさすぎでしょ。スキャンダルの影響ってでかいのね~」
耳ほじりなから呟く黄緑。
「むしろスキャンダルでっち上げられたのに、まだこの位置にいる桜ヶ丘知事は凄いんだってば」
尾浜は桜ヶ丘を擁護する。
上司らしいし当然だろう。
「じゃあやっぱり達田もスキャンダル地獄に叩き落とさないとね。今度都知事候補集めたテレビ番組あるらしいし」
そこでなら妖魔の邪魔なく、達田をどうにか評判落とせるかもと、思っているのだろう。
「達田も適当なスキャンダル口にするだけでものってくれるでしょ? だってあいつも妖魔からの魔の手から逃れたいだろうし」
でっち上げでも認めれば、疑うものもいないはず。生放送でやられれば妖魔も対策など練れないはず。
都知事になれない達田なら用済みとして消される危険もあるが、妖魔から解放される可能性もある。要は賭けだ。
妖魔を捕らえ、何が目的か吐かせるのも手……
故に、生放送は勝負の時になるだろう。
青春や冬黒などの、戦闘要員もスタンばる必要がある。
「青く~ん! 何かあったらお姉ちゃん守ってね!」
黄緑はニコニコ笑顔で青春に頼む。青春はゆっくりと頷く。
♢
――生放送の討論番組当日。
収録現場にて青春達はスタンばる。妖魔の気配はない。
(いないはずはない。達田さんの近くに、おそらく能力の高い妖魔が複数人いるはず……)
そう簡単に気配を察せないほどの妖魔達なのだろう。……ますます厄介だ。
そうこうしてる間に、番組が始まる。
『今回は特別番組としまして、都知事候補の方々、五人に集まっていただきました』
『達田候補、信貴条候補、夏候補、尾浜候補、桜ヶ丘前知事にお越しいただきました』
達田とは初顔合わせ。黄緑の事は知らないはずだから、味方だとはわかっていないはず……
信貴条候補はただの眼鏡かけた若手政治家。気にすることはない。
桜ヶ丘も黄緑は初顔合わせ。
尾浜達の上司らしいが……
穏やかそうな人物で、凛々しく男らしく体つきも大きい……そんな人物だった。
黄緑はすかさずメモした紙を達田に渡す。達田は驚くも、声に出さずに渡されたメモを確認する。
そこにはこう書かれている。【闇野青春の仲間よ。スキャンダル発言で蹴落とすから、全て肯定しろ】……そう書かれていた。
『まず、夏候補。なかなかユニークな公約を掲げてらっしゃるようで……』
進行役は半ば呆れたような目で黄緑に聞く。
「まあ法律とか色々問題はあるでしょうが、その無理をワタシは可能にしてみたいと思ってます。そしてワタシは都知事になれば皆さんのために税金安くするとか、週休増やすだとか、色々やって見ようとも思ってますよ!」
「ぶはっ……」
隣の信貴条候補が吹き出す。
「いや失敬。法律で決められた、公約不可能な事を達成することなんてできやしませんよ夏候補?」
明らかにバカにした態度……
「それに税金安くする? 週休増やす? 具体的にどうやって? 何か良い案でもごありで?」
「そ、それはこれから……」
「これですよ皆さん! 何の考えもなしに出来ないことを公約にあげる。そんな人を都知事にして良いんでしょうかね!」
どうやらふざけた公約で増やしたアンチは民衆だけでなく、都知事選の候補者達にもいたようだ。
達田を陥れたとしても、この信貴条が邪魔になってくる可能性が高い。
だが信貴条は黄緑達の思惑を知らない、妖魔も知らない。
故に、普通に都知事を狙ってくる。彼が都知事になれば、達田の変わりに信貴条が妖魔達のエサになるだけかもしれない……
♢
そして、当然ながらこのスタジオ内に妖魔は潜んでいる。
それも……
「奴らが都知事候補上位なのかの?」
老練な話し方をする見た目子供の妖魔……
妖魔王・二鳥の姿がそこにはあった。
青春と黄緑、そして妖魔王に達田……いつ戦闘になってもおかしくない。
だがこのスタジオで戦闘になるような事が起きれば……
被害は甚大になるかもしれない。
――つづく。
「あーうまく行かないな! いいから国民共はワタシを都知事にしろー!」
「次回 因縁の妖魔の影……。い、因縁……? 誰の事?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます