第56話 因縁の妖魔の影
「桜ヶ丘はともかく、夏緑ってのと尾浜って奴は邪魔じゃ。すぐさま始末したいところ」
妖魔王二鳥は、スタジオ内のテレビを見ながら独り言を呟く。
すると配下の妖魔達が現れる。
「そういうことでしたら、我らにおまかせくだされ二鳥様」
「どうする気じゃ?」
「撮影中にくびり殺してご覧にいれましょう」
「それじゃあテレビの放送中止に……いや、まあなってもよいか。任せよう」
「御意」
魔力をろくに持たない人間には見る事もできない妖魔もいる。この二鳥の配下がそれだ。
つまりこの生放送の撮影現場に入り込んでも、気づかない者には気づかない。
ただ魔力を人並み以上に持ち、妖魔を知らない者に見られたら、心霊現象に思われたりするかもしれない。
どちらにせよ、奴らに不都合はない。
生放送中、カメラの前……妖魔は何も気にせず向かっていく。
討論してる候補者達は誰も視線を動かさない。
(ゲヘへ。見えてねえからなあ……当然よ。さあテレビの前で死に顔を見せてくれや!)
妖魔は飛びかかり、夏緑こと、黄緑を襲う……
「だから! やる気のあるワタシだからこそ、出来ることがあるっていうか!」
声を張り上げ、拳を振るう。
その拳は妖魔に直撃し……
「え、え!? ゲヒャブブ!」
奇声をあげ、粉微塵になって妖魔は消滅した。
カメラには拳を振った黄緑しか写っていない。
熱くなって拳を振っただけの黄緑しかそこにはいなかった。
(夏野くん、怪しまれないように妖魔を倒すのはうまいけど、妖魔を偶然でも倒せる時点で奴らには怪しまれるよ……)
表情を変えずに尾浜は思った。
(でも、夏野くんがそんな頭脳戦みたいな事できるなんて思わなかったよ。感心感心)
と、心の中で黄緑を褒め称えていたのだが、当人は……
(あーこの候補ムカつく……)
ただイライラして拳を振っただけだった。
矮小な妖魔など、今の黄緑には警戒対象になどならない。故にハエを追い払うかのように無意識に拳が出ただけの事。
黄緑が頭脳戦などするわけがなかった。
だがどちらにせよ、妖魔を仕留めれる人間と奴らには気づかれたはず。そう思い尾浜は動く。
「それより達田候補にお聞きしたい事があるんですがねえ」
達田はビクッとした。黄緑に手紙を渡され、これから彼が仕掛けて来ることはわかってはいる。
それでも、妖魔の動きが恐ろしいのだろう。
だが息子のために……やるしかない。意を決する達田は聞き返す。
「な、なんですかね尾浜候補」
「あなた女性マネージャーにセクハラやパワハラしてると聞きました。それに前に所属してた党での税金の着服なども聞いてますが?」
「……そ、それは事実です!」
周囲がざわつく。
アナウンサーは血相を変え、
「尾浜候補! 何をでたらめを! それに達田候補! なぜ認め……」
「他にもありますよ達田候補の悪事の数々! 今ここで国民の皆さんに」
「カメラ止めろ!」
放送は突如打ち切られた。
……スキャンダルならマスコミや報道陣は食いつくはず。
普通の番組ならともかく討論番組……打ち切る理由はないはず。
なのに切った。
察するに……
「テレビ局もグルかい」
「そこの候補共を捕らえろ!」
カメラマンが人ならざる怪物に変貌すると、周りの人間に指示。
スタッフ達全てが尾浜に襲いかかってくる。
「人間も混じってるのか!? 洗脳でもされてるのかも……」
「問答無用でぶっ殺せばいいじゃん」
あっけらかんとする黄緑。
「冗談言ってる場合じゃないって! とりあえず達田連れて逃げよう!」
尾浜が達田を担ぐ。
おっさんがおっさんをお姫様抱っこしてる状況。
つい黄緑は吹き出しそうになる。
「しんがりは任せろ尾浜よ」
桜ヶ丘が前に出る。
尾浜は頷いて、
「じゃあついでに信貴条候補も頼みます!」
「了解」
尾浜は達田を連れ一目散に離脱。黄緑も後につづく。
「さあ、どこからでもかかってきなさい」
尾浜の上司で元都知事たる桜ヶ丘。尾浜が気にせず先にいくところを見ると、実力者なのは間違いないのだろう。
♢
三人はテレビ局を出る……その瞬間!
テレビ局一階が爆発! 爆風によって吹き飛ばされる三人。
その爆発によりビルが傾く……
「な、何考えてるんだ連中は! 中にどれだけの人間いると思って……」
『バカめ。人間の命など気にするはずがなかろう』
爆風で倒れてる三人の前に現れたのは……妖魔王二鳥。さらに背後には複数の妖魔の姿も。
「「きゃああ!!」」「「な、なんだあ!?」」
通行人が妖魔を見て恐怖におののき叫ぶ。この妖魔達は普通の人間でも見ることができるタイプ。その上見るからに怪物と言って差し支えない連中……民衆がパニックなるのは目に見えている。
「まずい! こんなところでドンパチするわけには……」
「なんじゃ? 人がいると戦いづらいか? なら」
二鳥は大きな翼を開き、細かい羽根を銃のように飛ばす。
羽根は民衆に次々と刺さる。
すると人々は奇声をあげ溶けていく……
「ほら、第二波……」
「やめろ!」
青春がどこからともなく現れ、怒りの形相で二鳥の後頭部を蹴り飛ばす。
二鳥も反応できなかったか、一撃をまともに受け、地面に倒れる。
すぐさま何事もなかったかのように立ち上がり、青春をにらむ。
「小僧……どこからわいて来た。まさかビルの中からか?」
「……」
青春を含めた戦闘メンバーはスタジオ近くに控えてた。だが突然の襲撃故に出遅れ、尾浜達が逃げた後に追いかけた。
――つまり、一階エントランスの爆発を中でもろに受けた事になる。出口付近で吹き飛ばされた尾浜達の比ではないダメージを負ってるはず……
なのだが、青春に外傷は見当たらない。
妖猫ヒルダのおかげだ。彼女が覆い被さるように、青春だけでなく冬黒や秋葉も救っていた。
ちなみに二人は青春にその際お金を払っておいた。ヒルダの嫉妬対策に。
※三話参照。
とはいえ彼らの魔力を考えれば、致命傷になるようなことはありえなかったろうが。
「ごめん! 後は任せるよ!」
尾浜は達田を抱えたまま、その場を逃走する。
「逃がすわけなかろう」
二鳥は翼を大きくはばたかせるが、冬黒がすかさず光のナイフで翼を刺し、止める。
「追わせるわけ、なかろうって事ですね」
「ガキ……」
「残ってるのはあんただけでござるよ~」
秋葉がそう言うと、後ろに控えてた妖魔達の死体が転がっていた。
青春に意識が向いたスキに、二人は二鳥以外の妖魔を全滅させていたのだ。
「味な真似を……それでワシに勝てるつもりか?」
相手は妖魔王。一兎の実力を見ると四人係で五分の可能性もある。気を引き締め、油断せずに戦闘する必要が……
『やあ、二鳥。多勢に無勢だったりする?』
この場にいる全員が、その冷たい声にゾッとする。
悪寒、震え、発汗、恐怖……それぞれ別の感覚が襲う。
恐怖したのは二鳥。奴はそっと振り向く。
そこに立つのは……
一つの、大きくまがまがしい角を生やし、肌の色が虹のように複数分かれた妖魔だった。
中肉中背、スーツを身にまとったその姿、角と肌を除けば人間に見えなくもない。
その妖魔は……
「し、四鬼様……」
数多くの妖魔を束ね、妖魔王すら配下に置く、最大最凶の危険な妖魔……
妖魔神――
ここに現る。
「手を貸してやろうかい? 二鳥?」
「い、いえそ、そんなお手を煩わせ……」
「ん? なんだいそこの青髪?」
四鬼は青春に注目した。
青春は先ほどのどの感覚にも襲われていなかった。
魔力を全開にし、ヒルダを顕現させ、その表情には先ほどの二鳥の時以上の……
憎悪があった。
「「四鬼ぃ!!」」
――つづく。
「あ! そっか……青くんの追ってる仇なんだっけ! お姉ちゃんも協力するからね!」
「次回 大好きな姉の仇。あ、ワタシの事じゃないよ?」
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