第54話  都知事選、出馬?

「青くんとの結婚資金と子供のためにも、部署は残さないとダメね~あらあら~」


 よこしまな理由で黄緑は協力する気になった。

 まあどんな理由であれ手を貸してくれるならいいかと、尾浜は思った。

 秋葉はそろりと青春に近づく。


「闇野くん、大変でござるね~」

「まあ、いつもの事なんで……」

「黄緑氏を甘やかすのがよくないんでござる。強く否定したり遠ざけるような事言うべきでござるよ」

「いや、それはかわいそうだし……それに好かれてるのは嬉し、」

「で! 黄緑氏なんかより! 清史郎くんと仲良くするべきでござるよ!」


 秋葉は鼻息荒く、目が血走った様子で青春の肩をつかむ。


「今までピンとくる男の子がいなかったから、闇野くんのカップリングは架空のキャラだったんでござるが! 素晴らしい有望株が出てきてウチは感激してるでござる! フーフーフー……」

「あの、怖いんですけど……」

「いやあ興奮するでござるな! ほら! 二人とも肩を寄せあって! くふふふふ……次回のコミケの新刊は決まりでござるな!」


 突然秋葉は黄緑に頭を捕まれ、投げ飛ばされた。


「ギャン! な、なにするでござるか!」

「青くんに近寄るな変態」

「へ!? 黄緑氏にだけは言われたくないでござる……」

「冬黒くんで妄想すればいいでしょ。青くん巻き込まないでくださいよ」

「いや、コーリちゃんは身内みたいなものだから気が引けるというか」

「青くんはワタシの身内だから」

「何言ってるでござるかこのゴリラ女……」

「あ!?」


 二人はほっておいて話を戻す事にする尾浜。


「とりあえず部署と達田を守るためにも、妖魔共をなんとかしなきゃいけないわけだけど……」

「何か対策でもあるんですか?」

「達田を落選させようかね。やはり」

「どうやって?」


 桜ヶ丘のようにスキャンダルをでっち上げるにしても、達田には妖魔の見張りがいる。

 まともな人間は近寄らせたりしないだろう。

 

 例えばセクハラをでっち上げるとしたら、女性を近づかせる必要がある。だがそれすらも妖魔達が防いでくるはず。


 普通にやれば達田が当選するとなると他に手立ては……


「他の候補に票が集まるようにするか……?」

「でもそれだと、今度はその人が狙われるんじゃ?」

「となると桜ヶ丘知事が……でも今回のスキャンダルが大きすぎるし……」


 すると、ここまで沈黙していた冬黒が口を開く。


「尾浜さんが立候補すれば?」

「は?」


 尾浜は、鳩が豆鉄砲をくらったかのような表情を見せる。


「戦えるものが都知事になれば、妖魔が接触してきても怖くないじゃないですか」

「いやいや妖魔王なんかに来られたら終わりじゃないか」

「接触してくるタイミングで自分達も助けにいきますよ」

「それなら他の人が都知事になって、その人ボディーガードすればいいじゃんか」

「一般の人を囮にしろと?」

「う、」


 冬黒の言い分は正しいだろう。狙われる可能性の高い都知事には、妖魔と戦える自分達の仲間が適任。

 最悪一人の時に出くわしたとしても、逃げ切れる可能性もあるわけだし。


 でも尾浜は煮え切らない態度。怖いのかもしれない。


「四の五の言っても、尾浜さんくらいしか適任いませんよ? 桜ヶ丘さん除けばあなたくらいしか実力者はいない。自分達は年齢からして無理だし」

「え? 未成年はダメなんだ」


 黄緑は秋葉にヘッドロックかけながら聞いてきた。


「そりゃあそうでしょう。聞くまでもないことかと」

「ふうん。年齢偽って立候補とかしてみよっかな~」

「は?」


 何をバカな事を……そう言いかけるが、


「それだよ! 夏野くんに出馬してもらおう!」


 尾浜はそれに同調してきた。


「はあ? 何を言い出すんですか」

「いやいや、おいらよりもはるかに強い夏野くんに任せる方が言いって! なんなら都知事候補として達田にも近寄れそうだし!」


「言っておくけど、フリでもセクハラされる役はやらないからね……」


 恐ろしく冷たい視線を、黄緑は尾浜に浴びせる。

 尾浜は顔を青ざめ震え上がる。


「わ、わかってるって。むしろ君はセクハラする側だもんね、闇野くんを……」

「あぁ!?」

「あ! ごめんつい本当の事を……」


 口は災いのもと……

 なぜ余計なことまで口走ってしまったのだろうかこの男は。

 秋葉の叔父なだけはある。


「このおっさん殺……」

「お姉さん、落ち着いて」

「あらあら~青くんがそう言うなら~」


 青春が止めると、笑顔であらあらお姉さんに変貌。この変わり身の早さ、一秒もかかっていない。


「なんか楽しそうだし~出馬するのは別にいいのだけどね~あらあら~」

「この人、都知事選がどういうものかわかってるんですかね……」


 呆れ気味の冬黒。

 だが、黄緑なら圧倒的に強いし、囮にはもってこいではある。

 しかし都知事になってしまったらそれはそれで問題が発生しそうではある。

 都知事の仕事なんてできるとは思えないし、そもそも未成年だ。


 妖魔連中をどうにかできれば、後は辞めさせられてもいいのだろうが……


「え、本当にお姉さんを出馬させる流れになってるの?」


 青春は驚く。


「まあ、一つの手ではありますしね……本人もいいみたいですし」

「夏野くんなら適任だし、当然だよ! まあ一応おいらも出馬するからさ」


 冬黒はため息まじりだが賛成。尾浜は完全に出馬させる気のようだ。

 青春は眉間にシワを寄せ、複雑そうにしている。


「要は囮でしょ? 女性にそんなことさせるのは不安というか、お姉さんが心配だよ」

「青くん!」


 心配されたことに上機嫌になり、ヘッドロックしてた秋葉を病室から投げ飛ばし、青春を自らの豊満すぎる胸にうずめる。


「お姉ちゃん嬉しい! なら青くん作戦中はずっと側にいてお姉ちゃんを守ってね!」

「お、ねえ、さん……く、苦しい……」


 息もしずらくなるほど、強く胸にうずめられ苦しむ青春。

 

 一方、病室から投げ飛ばされた秋葉は、廊下の窓ガラスを割って顔面だけ外に出ている状況だった。


「こ、こんなゴリラに心配とか……む、無用でござるよ……」


 ガクリと秋葉は気を失う。


「あたしもお義姉さん守るのに協力します」


 和花が挙手してきた。

 とたんに機嫌が悪くなる黄緑。


「はぁ? なんであんたが」

「あたしも心配ですし。未来のお義姉さんですから」

「お義姉さん!? こいつ! ワタシは……」


 実の姉ではない。と、言いかけたが踏みとどまった。

 なぜなら和花は、今まで青春と黄緑のスキンシップを、姉弟ゆえの事だと思っている。

 もし姉弟じゃないと知れば、スキンシップを邪魔してくるかもしれないと、黄緑は思ったからだ。

 そうなるとますますウザくなる……そう判断したので、あえて黄緑は訂正しなかった。


「お義姉さん? どうしました?」


 可愛く首をかしげる和花に、黄緑はイライラを募らせる。

 ぶりっこしやがって……と。

 青春に対しては自分もぶりっこしてる事を棚にあげて、ムカついていた。


 そもそも首をかしげるくらいぶりっこでも何でもない。単純に黄緑は、和花の言動などが気にくわなくて仕方ないのだろう。


「とはいえ、おいらと夏野くんのぽっと出が当選するなんて甘い事、起きるとは思えんけどねえ。一応組織とかにバックアップしてもらうつもりだけど、出馬するためのお金無駄になりそう」


 やる前から弱気な尾浜。

 

「なんかよくわかんないけど、確か選挙って、私が当選したあかつきには~とかって言ったりするんでしょ?」

「それは選挙というより演説というか、活動表明っていうか」


 何にもわかってない黄緑に先行き不安を感じる尾浜。

 しかし、今さらな話。黄緑は都知事も総理大臣も知らないくらい政治に興味ないのだから。

 ちなみに歴代の総理や都知事でも誰一人知らないらしい。


「名前とかどうでもいいけどあれやりたい」

「やりたいって、なんかいい公約でもあるの?」

「うん。女子高生と男子中学生が結婚できるようにするって公約? ってやつする」


 一同そろって何言ってんだこいつ……と、思った。


「あの、夏野くん。都知事に法律変える力はないんだよ?」

「都知事になったら青くんと結婚できる~」


 ウキウキ上機嫌で話を聞いちゃいない。

 尾浜は呆れつつ、青春の肩をつかむ。


「闇野くん。なんか知らんけど勝手にあの娘、君と結婚する気らしいよ」

「……お姉さん」


 さすがに青春は怒るか? ソウ思っていたら……


「プロポーズとか結婚式の前に結婚出来ないでしょ」


 なんだこのかわいい生物は……

 おっさんながら、尾浜は思った。その二つがないと結婚できないと思ってるのだろうか?

 

「それに、ヒルダが怒るよ」

「あっ……そうか元祖ヤンデレメス猫が邪魔ね。でーもーあらあら~青くんワタシと結婚することには文句ないのね~」

「あ、いや、その」


「闇野くん闇野くん」


 和花が耳元で青春に囁く。


「姉弟で結婚もできないよ!」


 ズルっと尾浜はベッドの上で転けそうになる。座ってるのに。


「ガアアア! メス猫! 青くんと距離近い!」


 奇声をあげる黄緑。

 ここは病室だということをみんな忘れているんだろうか……

 

 病院で騒ぐのはやめましょう。



 ――つづく。


「公約達成すれば! 結婚結婚!」


「次回 選挙活動してみよう。……って、何すればいいの?」

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