第53話  父を助けてください

 ――休み時間。


 清史郎は青春に事情を説明。そして空き教室に、青春、黄緑、和花、清史郎の四人で集まる。


 青春はファンクラブが出来たことで、一人になるのが大変なので、鍵をかけれる空き教室内に集まったのだ。


 そして清史郎の父、達田一門に渡された手紙。そこにはまず、闇野青春くんに見せて助けを求めなさいと書いてあった。

 その後の文はおそらく、青春に向けてのものだった


 内容はというと……


【単刀直入に言います。わたしは妖魔王二鳥に脅されています】


「妖魔王二鳥?」

「え? 妖魔王って他にもいるの?」


 と、黄緑。

 王などと名乗っているのだ。一人しかいないと勘違いするのもおかしな話ではないかもしれない。


「まあ、国の王様みたいなものと考えれば、複数いるのも頷けるけどね」

「なるほど! あらあら~青くん賢い~チューしてあげる~」

「後にして」


 視線を手紙へと戻す。


【元々わたしは教団に脅されていたとはいえ従い、悪事に加担してました。だから助けを求める権利はないかもしれません。ですが、息子の清史郎は違う! 清史郎の身だけが心配なんです。どうか、息子の事を、守って頂けませんか?】


 手紙に書いてあるのはそれだけだった。おそらく、さらに詳しい事情まで書けば、見張りの妖魔に気づかれる可能性を考えたのだろう。

 奴らの目を掻い潜ってなんとか書いて、息子に手渡した手紙……


 これで青春達は、達田が敵ではないと判断する。

 元々尾浜から聞いていた情報は、教団の手の者で、都知事の座を狙う悪党って話だった。


 だがこの手紙で、そうではない。脅されていただけだとわかった。

 

 たかが手紙で、そこまで信用するのは危険だろう。

 だが綺麗とは程遠い殴り書きの文字。これは視線を気にし、ペン先を見ずに書いたからのように見える。


 そして、息子の清史郎。

 彼は今にも泣き出しそうな表情をしていた。

 ……とても嘘や演技には見えない。

 息子も騙してるだけかもとも思えるが、ここまで父の身を心配するということは、それだけ慕われてる証拠。そんな人物がそんなことするだろうか?


 それでも、完全に信用しきるのは危険。だがひとまずは、敵ではないと判断してもよいのではないかと、青春は思った。


 手紙には自分はいいから清史郎を頼むとあった。もちろん清史郎は守る。だが、達田も救いだしたい。

 しかし、そう簡単な話ではないだろう……


 元々達田を従わせていた教団が滅んでも、妖魔王がその代わりに彼を脅す。

 となれば、妖魔王を倒しても、また別の誰かが達田の前に現れるだけではないか?

 そう簡単に、この連鎖から達田は逃げられないと思われる。


 それに前回倒した妖魔王一兎は、青春の追ってる四鬼の配下……

 そうなるといつかボス本人が現れるやも……


「……とりあえず、尾浜さん達にも相談しようか」


 子供だけの意見よりも、大人で、警察関係者の尾浜に相談したほうが、良い方法も思い浮かぶかもしれないと、青春は思った。


「あらあら~。青くん、とりあえずお話終わり?」


 黄緑は首をかしげる。

 青春は軽く頷く。


「うん。尾浜さんの入院してる病院にいこ……」

「じゃあチューするね」

「……は?」

ってさっき言ったよね~?」

「い、言ったけ」


 黄緑のパワーになす術なく抱き寄せられ、またもディープなキスで唇を青春は奪われた……


 唖然とする清史郎。

 本当に姉弟仲いいな~と、事の重大さに気づいてない和花がそこにいた。



 ♢



 ――病院。


 尾浜の入院してる一人部屋の病室へと、青春達はやってきていた。

 ちなみに冬黒や秋葉も集まっていた。


「んなるほどねえ……事情はわかったよ。……ところで闇野くんどうかした? なんかげっそりしてるように見えるけど?」


 サキュバス黄緑に精気を吸われたか、少し顔色が悪い青春。

 彼女のキスの雨に、相当参ったのかもしれない。

 ちなみに黄緑はニコニコしている……

 いつかガチで補食しかねない。


「き、気にしないでいいです。……それより」

「だねえ。達田は脅されてただけかい……とはいえ、奴が教団に協力してたのは事実よ。罪は免れないかも」

「そんな!」


 清史郎は絶望の表情を見せる。

 彼から言わせれば、無理やりやらされた父に罪はない言いたいだろう。

 だが、被害者からすればそんなの知った事ではないだろう。


 達田がどんなことをやらされてたかは知るよしもないが、彼は被害者でもあれば加害者でもあるのだ。尾浜の言い分もわかるというもの。


「まあでも、情状酌量の余地はあると思う。そんなこの世の終わりみてえな顔、しないしない」


 尾浜は清史郎の頭を軽く撫で、安心させてやる。

 清史郎は少しほっとした表情に変わる。


「とりあえず達田を助けるってのはこちらとしても、問題はないけど……」

「妖魔王を倒しても、根本的な解決にはならないかもしれません」

「そこ! 問題だよねえ。バックに四鬼がいるとなると、その二鳥とかって奴倒しても解放させられない」


 達田に直接会いに行き、見張りの妖魔と二鳥を倒せたとする。

 だが、配下は何人もいる。そして達田が裏切り者と判断され殺される危険もある。

 保護するにしても、あの一兎のようなものが複数いると考えると……


「達田さんが都知事選落選でもすれば、興味薄れるかも……」


 と、青春。

 何故かは不明だが、奴らは達田を都知事にしてなにか企んでいるらしい。

 ならば、都知事にさえならなければ……


「用済みとして消される可能性もあるけど、新たな都知事のほうに目をそらせる事はできるかもねえ。でも、このままだと十中八九、当選するよ」

「そんなに人気なの?」

「教団の力もあったんだろうけど、達田はテレビにも出たりと、世間からも知られてて好感度が高い。他の有力候補はパッとしないしね」


「じゃあ桜ヶ丘とかって人みたいにスキャンダル起こさせれば?」


 黄緑は軽口を叩く。

 現都知事の桜ヶ丘は多くのスキャンダルをでっち上げられ、落選は確実と言われてる。

 ならば、達田も同じことをすれば落選はあり得るが……


「達田には報いを受ける必要はある。でも、父親のスキャンダルともなると、清史郎くんが被害受けるかも……」

「いじめにあうとか?」

「そんなとこかね」


「そんなことでおれは負けない!」


 清史郎は叫ぶ。


「父さんが悪く言われるのとかは……嫌だけど、助けられるなら、どんな手を使ってもいいから!」


 今にも泣き出しそうなほど、清史郎は目に涙を浮かべる。

 すると尾浜はニカっと笑う。


「わかったわかった! お前さんの気持ちはよーくわかった。なんとしても助けてやるからさ!」

「そうでござるよ。うちらにお任せでござる。まあうちは何もできないでござるけど」


 と、秋葉が清史郎に引っ付いて励ます。

 ちなみに主人格のほうだ。だから何もできないなどと戯言を言ってるのだ。

 

 綺麗なお姉さんに軽くとはいえ抱きつかれ、清史郎は真っ赤になって照れる。

 

(大人なお姉さん……素敵だな。口調は変だけど、黄緑髪の暴力的で怖いお姉さんとは違うな)


 心の中で清史郎に貶されてる黄緑だった。


「ていうか素朴な疑問なんだけど、」


 心の中で貶されてた黄緑が手を挙げて質問。


「この子のパパはなんで洗脳しなかったのかな? あと、わざわざ都知事にするっていうのも回りくどいし。直接都知事を洗脳すればすむ話なのに」


 言われて見ればその通りだった。都知事を手中にしたいのなら、桜ヶ丘知事を洗脳するだけで事足りる話。

 何故わざわざ失脚させ、別の候補を用意したのか。その候補も洗脳してはいないし。


 尾浜は言う。


「達田は知らないけど、桜ヶ丘知事は洗脳にかからんよ」

「なんで?」

「おいら達の上司だから」

「上司? あれ? そもそもあんたらの組織ってなんだっけ?」


 ガクっとする尾浜。

 そこは、『な、なんだって~!?』と、驚くことを期待してたのに。


「確か警察の、妖魔を専門とした部署でしたっけ?」


 青春が代わりに答えてくれた。


「そう。桜ヶ丘知事は警察ではないけど、妖魔退治の力を持ち、おいら達のトップに座る方なんだ」

「ふーん」


 ……全く興味を示さない黄緑。


 要は桜ヶ丘は力をもつため、カオルコの洗脳を受け付けないわけだろう。

 だからこそ達田を用意した。

 今となってはカオルコもいないからどのみち洗脳はもうできないのだが。


「桜ヶ丘知事の失脚でまず奴らがしたいのは、おそらくおいら達の部署を潰すことだね」

「へ?」

「妖魔退治を生業として、お金を稼ぐ者達にとって、おいら達の組織がなくなるのはあまりにも痛い」

「給料もらえなくなるから?」

「そう。社会人ならどうしても金にならない仕事をし続けるわけにはいかない。家族がいる者なら尚更」


 生きていくためには金がいる。

 金を得るには仕事をする。

 いくら妖魔が現れたとて、自らの露払いならともかく、不特定多数の人を救い、年がら年中戦うならどうしても生きていくためのお金をもらいたいもの。

 生活があるのだから。


 妖魔退治が金にならないなら、普通の仕事に勤めるものも多くなってしまうだろう。

 そうなると、妖魔は動きやすくなる……それが狙いの一つなのかも。


「なんで部署と桜ヶ丘の失脚が関係あるの?」

「まあ、税金とかで賄ってるし。それに新たな知事にそこら辺の事、世間にリークする気なんだろ。こんなわけのわからん部署に税金が使われてます! 潰します! みたいな」

「大変だね~」


 ……黄緑は耳ほじりながら興味皆無な様子。


「あのね。君らは中高生だから自由にできるけど、大人になったらこの部署入って給料もらえたほうがいいでしょ? 結構いい給料でるよ!」

「マジ?」


 やっと食いつく黄緑。


「まあ将来、青くんと結婚して~十人くらいは子供作りたいし~二人でいい給料もらえるなら~意地でも部署守らないとだめよね~」

「え?」


 なんか勝手に将来設計決められてる青春だった……



 ――つづく。


「お金の心配ないなら~ずっと青くんとイチャイチャできるわね~あらあら~」


「次回 都知事選……出馬? え、誰が?」

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