討凶徒血時戦、妖魔王二鳥編
第52話 達田一門の苦悩
達田一門は政治家の家系だった。祖父も父も政治家だった。
彼もまた、父達に習い、政治家を目指した。
そこである政治家に弟子入りし、ゆくゆくは自分の手で日本を豊かな国にして見せると希望を持っていた。
――しかし、弟子入りした政治家は税金で飲み歩いたりと、スキャンダルを数々起こした。
尊敬し、自ら志願した相手の正体がそんな人物だったのかと、自分の人の見る目のなさを悔いた。
それからはやる気や熱意も次第に冷めてきてしまう。
議員になることも、知事になるようなことも一度もなかった。
それからは飲んだくれの毎日。
両親からは呆れられ、妻には愛想をつかされ離婚。
政治家として生きる事を辞めようと思い始めていたときだった。
同い年にして、東京都知事に就任した桜ヶ丘の存在だった。
同じ年、同じ時に、自分と夢を語り合った友人の一人だった。
そんな男が自分とは違って成功していた。
……達田はみっともないと思いつつも……嫉妬した。
何故あいつだけ成功した? 学生時代に差なんてなかったのに。
弟子入りした相手の差? 入った党の差?
考えれば考えるほど、妬みが増した。
桜ヶ丘知事は都民から支持されていた。一部のアンチくらいならいるだろうが、目に見える範囲では彼を支持する声ばかりだった。
おれだって都知事になれたらやつのやったことくらいできるのに……と、思い続けていた。
そんな時だった。
白いローブを身に纏った怪しい人物が現れたのだ。
そしてその人物はこう言った。
『桜ヶ丘知事を失脚させて見せようか?』
その人物は協力してくれれば、桜ヶ丘知事を失脚させ、達田を次の都知事選に勝てるようバックアップすると言った。
何をバカなと普段の達田なら思っただろう。
だが、精神的に参り、嫉妬と妬みに支配されていた達田はつい口車に乗ってしまったのだ。
まず、達田は昔の馴染みゆえに飲みに誘う。そこからホテル街を通り、人物の用意した女性を目の前で倒れさせた。
休ませた方がいいと桜ヶ丘知事と女性をホテルに入らせる。
――そこを激写。
桜ヶ丘知事は既婚者だ。これで不倫のでっち上げ、さらにその女からの嘘っぱちの証言で、桜ヶ丘知事の女遊びをでっち上げた。
それからは身に覚えのない事が、それから何個も何個もでっち上げられ、桜ヶ丘知事の支持は減少。
達田自身も驚いた。一瞬で桜ヶ丘知事の地位が脅かされたのだから。
そして知った。協力を申し出た人物は共信党なる教団のものだと。
教団は多くの信者を束ねている。 はめた女も、激写したジャーナリストも、でっち上げた罪の数々も、教団の力をもってすれば造作もないこと……
達田は頼もしいと思うよりもまず恐ろしさを感じた。
確かに教団の力を借りれば知事になれるかもしれない。
でも、なんの見返りもなく知事にさせてくれるわけがない。骨の髄までしゃぶられるように、教団の下として働かされるのではないかと身震いした。
……降りるなら今しかない。
そう思った達田は教祖カオルコに頭を下げて、この計画から抜けさせてほしいと頼み込んだ。
……当然そうは問屋が卸さない。
『あんたさあ……わたくし達が、あんたが協力してない証拠、持ってないと思った?』
当然の話だ。
そうなれば達田の政治家としての道は終わる。
でも、それで桜ヶ丘知事の件が嘘っぱちとわかれば彼の失脚もなくなる……
ダメな政治家の自分が消えるくらいで事が収まるなら……
そう思っていたのだが……
『清史郎くん……だっけ? 冴えないあんたと、大して美人でもない妻とで、よくあんなかわいい男の子が生まれたものよね……』
『――!?』
血の気が一瞬で引いた。
清史郎は達田の一人息子。離婚して親権を妻に取られたものの、内緒で達田の所にちょくちょく遊びに来てくれる孝行息子だ。
飲んだくれたダメ親父な自分しか見てきてなさそうなのに、清史郎は父を立派な政治家だと想って尊敬してくれていた。
そして一人で寂しそうな父を見かねて、遊びにいつも来てくれていた。
そんな息子は達田にとって唯一の大事な存在。何者にも変えられない子供だった。
『む、息子に……なにかするつもりですか……?』
『しないわよお。……あんたが余計な事しなければね』
自分一人が破滅するならいい。だが、大事な一人息子だけは……
達田から、教団を裏切るという選択肢はそれからなくなった。
その後は教団の飼い犬同然。何から何まで逆らう事は許されなくなった。
余計な事できないように、教団からは常に監視の目を光らせられた。自由はない。逃げる事もできない……
自分を取り囲む者達も教団か、同じく教団の飼い犬となっていた者達だけ……
そんな時、教団が滅び、黒幕の妖魔王が死んだという情報をつかんだ。
教祖カオルコが死んだことで、洗脳の解けた教団の者が話してくれたのだ。
――しかし、新たな妖魔王が現れた。そして同じく奴の配下に監視される毎日……
教団から別の妖魔王に変わっただけで、なんの解決にもなっていなかったのだ。
♢
ある日の事、唯一の気の休まる時間、息子の清史郎が遊びに来てくれた日だった。
『すごかったんだよ! あんな化け物が存在して、それをやっつけちゃう闇野がさ!』
青天の霹靂。
清史郎は虹色学園に通っていた。つまり、青春と妖魔王一兎の戦闘をこの目で見ていたのだ。
そこで、達田は教団と妖魔王を倒した人物、闇野青春を知る事となる。
そんな男がいるのなら、助けてくれるかもしれない……そんな淡い希望を持った。
常に見張られてる達田だが、気づかれないように、手紙を書いた。最善の注意を払って。
清史郎の帰り際に、その手紙を見張りに見られないように、息子のポケットに入れる。
清史郎は不審がる。そして達田は小声で伝える。
(誰にも見つからないように隠して、学校でそれを読んでくれ)
清史郎は父の言うことに素直にしたがって帰っていった。
清史郎もまた、奴らに監視されている。息子の命はこちらが握ってると達田にわからせるためにだ。
清史郎自身はまったく気づいていないが。
故に、達田に渡された手紙を家で読もうものなら、企みがばれる可能性が高い。
家の中も監視されてるのだ。手紙の中身を見られれば……終わり。
学校で読むよう指示したのはそのため。なら何故学校でならよいのか?
……それは青春がいるからだ。
監視してる妖魔など、大した実力者ではない。そんな奴が学校まで監視に向かうとしよう。
そうなればすぐに青春に感づかれ、消される。
一兎がやられたのは奴らも承知の事。例え命令があっても、死にたくないだろう。故に、学校では監視の目はないと達田はにらんだのだ。
――そしてそれは正しかった。
清史郎は学校で手紙を開き読む。……その内容を確認し、彼は青春を探す。
清史郎は青春と同じ中一だが、クラスが違う。そのため面識事態はないのだ。
例の一兎との戦いを目の当たりにしたことで、彼自身は尊敬の目で青春を遠目で見ていたのだが。
青春のクラスにやってくるも、自分のクラスではないためか、少々入りづらい様子。
故に中の様子を外から眺めてる事しかできていなかったのだが……
「達田くん? どうしたの?」
突然肩に手を置かれたため、変な高い声をあげてしまう。
「あ、ごめん。あたし。桃泉」
清史郎は振り向くと、小学校が一緒だった、桃泉和花に気づく。
……綺麗で艶のある桃色の髪、そして純粋無垢な可憐な容姿。清史郎はつい見とれてしまう。
和花は不思議に思う。
「どうかしたの? 誰かに用事?」
そう言われると、はっとする。
「そ、その! 闇野青春に……」
「青春くん? ホント人気者だね」
「え?」
「この前の一件で、各クラスやら上級生やらが青春くんを訪ねて、お近づきになろうとする人が後をたたないの」
和花が指差す。視線をその指の先に向けると、青春が多くの生徒に囲まれてる姿が見えた。
「今やファンクラブまでできて……ライバル増えそうで嫌」
「え?」
「あ、こっちの話だよ」
あの人の群れの中に突入するのには勇気がいる。だが、まごついていられないと、清史郎はうご、
「邪魔よメス猫」
和花と清史郎は声の主に押し退けられる。
清史郎はその人物のデカさに驚愕する。
(デカ……! 背も、別の所も……)
その威圧感に恐怖を覚えるが……
「あらあら~青く~んおはよ~。あらあら~挨拶のチュー」
急に先ほどと違うキャラに変貌、彼女も青春の知り合いなのかと驚く。
「……お姉さん。あらあら言えばあらあらお姉さんな訳じゃないよ」
「あらあら~そうなの~? 物知りさんね~」
「……まあいいけど」
はっとする。またもボー然としてしまっていた清史郎。
黄緑のキャラの強さに呆気にとられていたのだ。無理もないが。
意を決し、清史郎は青春に声をかける。
「闇野! は、話があ」
「今はワタシと話してるの! 部外者はあっち行け!……あらあら~」
黄緑の怒鳴り声にチビりかけた清史郎だった。
――つづく。
「あらあら~だって今日青くんに会ったばかりなんだもの~仕方ないわ~」
「次回 父を助けてください。ど~しよっかな~?」
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