第50話 決着をつけよう。妖魔王。
「なんか企んでるみたいじゃない。邪魔させてもらおうかな」
一兎が自分ではないほうに視線を向けてるため、青春も視線をそらす。
そして、右堂達がなにかしようとしてるのに気づく。その後すぐ視線を戻す青春。同じ手はくわない。またスキをつかれるわけにはいかないからだ。
だが今回に限れば、一兎は右堂に意識が向いていた。当然だ。放っておけば青春の力が増すのだから。
青春はまだ状況がつかめていないが、一兎はすでに察していた。
故に……動く!
だが青春もまた動いた。
奴が自分より右堂を優先する理由、それは自分に利益のある行動をしようとしてるとわかるからだ。
「よくわかんないけど、行かせないよ」
「消えろガキ」
衝撃波の弾幕を何十発も放つ一兎。
「くっ……」
一本のナイフで、どうにか捌いていくが……じり貧だった。防ぐのがやっと。
そんな様子を見ていた右堂は……
「後は白髪の坊っちゃんが魔力送り続けてくれれば、雲は作られ続ける。……オレが死のうがな」
「え?」
右堂は飛び出していった。
「まさか……あの人死ぬ気ですか?」
冬黒は後を託されたと察する。
敵とはいえ、協力してくれた。ほうっておくのも少し後味悪くなる。だが、自分は動けない。少し歯がゆい。
――なら黄緑は……と、思ったらすでに彼女の姿はなかった。
一体どこへ……?
「おらあ! 一兎!」
右堂は一兎に向かって飛び出していく。その光景に驚くのは青春のみ。一兎は右堂に視線すら向けずに、衝撃波を飛ばす。
衝撃波を受けた右堂の肩と腰が、肉片と共に吹き飛ぶ。
「ごがっ――!」
一兎に油断はない。青春から視線をそらすのは危険だが、右堂などとるに足らない存在。
よそ見しながらでも容易に殺せる。故に、視線すら動かさなかったのだ。
大方青春の盾にでもなりに来たのだろうと、たかをくくっていたのもある。
「こっちを……見ろよ一兎ぉ!」
全身に
それでも視線を向けずに、右手で青春に、左手で右堂に衝撃波を連発する。
青春は防いでみせるも……
右堂は腕と足、そして頭も一部吹き飛んでしまう。
もう、絶命寸前だった……
――だが、雷の塊となった右堂は、死のうが死ぬ寸前だろうが関係なく、放たれた弾丸のように……一兎めがけて向かっていく。
間近に右堂が来たことでようやく事の重大さに気づいた一兎だったが、もう遅かった。
雷そのものとなった右堂の命をかけた特攻が一兎に直撃!
命を燃やすことで魔力を生み、全ての力と雷を込めた体当たり。
さすがの一兎でも、無傷とはいかない!
奴の全身に電撃が伝わる!
「ぬっ! が、がああ! ご、ゴミの分際で!」
体当たりを仕掛けた右堂の首を掴む。
「死に損ないめ! くたばれ!」
右堂は横目で青春に微笑みかける。
そして心の中で思う……
(ありがとう。後は頼むぜ坊っちゃん)
一兎はそのまま特大の衝撃波を放ち、右堂の体を粉微塵に吹き飛ばした!
血と肉片が辺りに散らばる……
「ゴミの分際でこの一兎様に逆らいおって! 教団といい、何から何まで役にたたないクズ共があ!」
怒り狂う一兎。そして、初めて奴が見せたスキだった。
「無駄にはしません! 闇野!」
冬黒が叫ぶと、辺りは雷雲にすでに囲まれ、漆黒の闇を作り出そうとしていた!
まずいと判断した一兎はすぐさま青春に……
「させないよ~」
黄緑は背後から一兎を羽交い締め! 奴の動きを封じにかかったのだ。
「こ、小娘! ちぃ! なんて力……だが!」
一兎は弱点の付与を黄緑に仕掛けようとするが……
奴の両手を血の槍が貫く!
「――!?」
「セーフ……で、ござる?」
ボロボロの姿で秋葉が瓦礫の下から飛び出してくる。血の槍は彼女が投げたものだ。
「コーリちゃんが分析してくれたでござるよ。お前の能力始動方法」
「何ぃ!?」
「最初の付与は、命中や威力の大小関係なく衝撃波と共に放つ。二回目以降は衝撃波を直撃させる必要がある。……つまり衝撃波を放つ両手を封じればいいでござる」
一兎の手のひらを貫いた血の槍は、溶けて奴の手全体を包み込む。よって手のひらは真っ赤に染まる。
「ぬっ! ぐっ!」
血液が衝撃波の放出の邪魔になり、一兎は攻撃も能力も発動できない。
引き剥がそうにも、黄緑がバカ力で全身の身動きも封じてるためまともに動くことすらできない。
ならばと、両手に全魔力を放出し、無理やり血液を吹き飛ばしてやると一兎は思うが……
――もうそんなヒマは与えられていなかった。
すでに周囲は暗闇に満ち、青春は動き出していた。
黄緑の羽交い締めも、秋葉の血の槍も、一兎の動きをわずかでも作り、青春の邪魔をさせないがため。
すでにわずかな時間を彼に与えてしまった時点で……
一兎は詰んでいたのだ。
「
青春の影から妖猫ヒルダが出現。漆黒の闇空間が青春と一兎を包み込む……
「「宵闇の~満ちるとこしえの~」」
謎の詩を歌い、闇を駆け巡るヒルダ。
黄緑は一兎を離して距離をとる。
だが一兎は……
(う、うごけん!?)
もう自らの動きを封じる者はいないのに、奴は指一本動かせない。
「もう何をしても無駄だよ。切り札の空間術――
(ば、バカな……)
「対四鬼のために作り上げた切り札。妖魔王にも通じるなら奴にも届くかもね」
青春は握ったナイフに魔力を注ぐと、青白く長い、ビームサーベルの姿にナイフを変える。
「さあ、とどめといこうか」
青春が言うとまず、秋葉が動く。
「
地中から間欠泉のような大きな血液が放出され、一兎を貫く!
「がはっ!」
「
続いて黄緑が、青春に渡されてたナイフに、青春の見よう見まねで魔力を注ぎ、斬撃を一兎にぶつける。
その斬撃は一兎の左肩を切り落とす!
「がああああ!! ば、バカな……」
「残念ながら現実なんだよね。これ。そしてサヨナラ永遠に。
青春の青白いサーベルが、一兎の全身を何回も何回も切り捨てていく。
奴は全身から血しぶきを吹き出し、肩、腕、足が滑るようにズルッと切り落ちていく……
自身の敗北が信じられない。そんな表情を見せたのはごくわずかな間だけ。その後奴はニヤリと笑う。
「見事。としか言いようがないねえ……でも……こんなもので四鬼様に太刀打ちできると……思わないことだよ……」
一兎から青春の仇の名前が出た。想定外の発言に青春は血相変えた表情で問う。
「お前奴の手先なのか!? どこだ! 奴はどこにいる!」
「さてね……名をあげた君の始末を命じたのが、そもそも四鬼様なんだ……いずれ合間見える事あるかもよ……」
「奴が……僕の始末を?」
「でも、他にも配下の妖魔王は存在する。果たして……四鬼様の喉元に近づけるかね……あの世で見物させて……もら……う……よ」
一兎は白目を剥き、バラバラとなって地に沈んだ。
――その瞬間、学園の生徒や教師達の歓喜の声が響き渡る。
「「やった~!!」」
「もう大丈夫なんだよね!?」
「闇野くんありがとう!」
「闇野! 闇野!」
手のひら返し。そう思うものもいるだろう。でも、否定し凶弾された青春にとっては嬉しい歓声だった。
僕はここにいていいんだ。
僕は存在してもいいんだ。
そう安堵すると、力を使い果たした彼は倒れ……
「おっとっと」
る前に黄緑が大きな胸でキャッチする。
青春は眠るように気を失っている。無理もない。
連戦に次ぐ連戦。精神の疲労、拷問、心に傷も負った彼には休息が必要。
仇の四鬼がいずれ現れるにしても、今の彼には休む事が重要なのだ。
……かわいい寝顔をした青春を抱き寄せてる黄緑は、顔を真っ赤にして、少し鼻息が荒くなっていた。
「はーっはーっ……可愛すぎる……ちょっと、我慢できないかも……」
「やめんかい。でござる」
秋葉がチョップすると、
「あー頭が滑った(棒)」
そう言うと青春の唇を奪う黄緑。
「何してるでござるかセクハラ女! 通報するでござるよ! 抵抗できない相手にそれはアウト!」
「チューだけだから! それ以上はしてないからいいじゃない」
「よくねーわ!」
そんな二人に呆れるようにため息をつく冬黒。そして彼は散った右堂の肉片に向け頭を下げた。
「あなたのやってきた事はけして許されることではない。地獄行きでしょう。……でも、今回はあなたのおかげで勝つことができました。礼を言います」
もう返事を返すことのできない右堂に心からの礼。相手が悪だろうと、助けられたのは事実。それを受け止めているのだ。
「お礼といってはあれですが、あなたのお子さん、探して保護しますよ。子供に罪はないでしょうからね」
妖魔王一兎と教団との戦いはこれにて終幕。皆の協力あっての勝利だった。青春一人ではなしえなかったはず。
――だが、戦いは終わらない。
妖魔王という強大な妖魔を討ち取ったことで、あの仇の妖魔の影が見えてきたのだから……
♢
――都内某所。
ある場所にて駐車している、一つの選挙カーの内部。
「なに! 教団の教祖に妖魔王が死んだ!?」
そう叫んだ中年の男。
この男は
元々尾浜達とこの男を捕らえ、教団の情報を抜き取る手筈だった。青春が誘拐されたことで有耶無耶になり、結果的に教団は滅ぼせたのだが。
「そうか! それならわしは教団から解放されたのだな! 桜ヶ丘知事にまた都知事になってもらい、この騒動から抜けられる!」
教団や妖魔王の死に喜んでる口振り。どうやら信徒ではなく、脅されいいなりになっていたようだ。
「いや、でも教団関係ないなら都知事になるのも悪くはないか……どう思う?」
達田は運転手に問う。今の情報は運転手がもたらしたものらしい。
しかし、運転手は何も言わない。
「おい、どうし……」
すると運転手の首だけがぐるりと回り、後部座席の達田をじっと見つめる。
体は前方に向いてるのに、頭だけが後方を向いてるのだ。
「ぎぃやああ!!」
達田は絶叫。その後運転手の首がもげ、血が吹き出る。
車のミラーは血に染まり、達田は恐怖で震え上がる。
「教団や一兎が死んでも、解放なんてされるわけなかろう」
気づいたら隣に子供のような姿の、肌の真っ白な妖魔が座っていた。
「一兎と教団に代わり、このワシ、妖魔王――
「い、一体何が目的なんだ!? わしを都知事にしてなにをするきなんだ! なれたところで王様のような権力者じゃないんだぞ!」
「そのくらい知ってるさ。四鬼様のお考えはわからん。暇潰しかもしれんし、崇高なお考えを持つかもしれんし……貴様はいいから従えば良いのだ。クハハ!」
達田は、絶望していた……
(だれか、助けてくれ……)
――つづく。
「いや、おっさんとか助ける気にならないってば。でも~青くんが助けるって言うなら~あらあら~協力するわ~」
「次回は新章突入、その名も……」
「
「当て字いかつ、厨二病とはこの事かも。東京都知事選をもじってるのね。でも次回はプロフィール回だったり。教団連中のプロフとかいらんよね~でもでも青くんのプロフィール更新だから~あらあら~楽しみだわ~」
「次回 プロフィールその3」
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