第49話 力を貸して
「声援? ふっ下らない事するもんだよね人間って」
全校生徒達の青春への声援を聞き、一兎はバカにするように笑う。
「そんなことしてなんになんの? 強くなるの? 魔力でも高まるの? 傷が治るの? 無意味なこと……本当に下らなくて、虫酸が走るよね」
「……自分が人から慕われたり、応援されないからって僻むなよ」
青春は血にまみれボロボロの姿のまま立ち上がり、一兎を煽る。
まだそんな事言える余裕があるのだろうか。
骨も折れてるし、重症そのものなのだが……
「あ? 下らない挑発だね。これから無様に死ぬだけなのに、よくもまあ、そんな戯れ言吐く余裕あるものだね」
「あれ? 結構煽り効いちゃった? ざまあ」
一兎は手のひらから衝撃波を放つ。青春の腹部にクリーンヒットし、彼は吐血してうずくまる。
「状況わかってんの? お前は、土下座して命乞いする立場だ。まあそんなことしても生かしてはおかないけどね」
「……ふっ。ならそんなことするだけ無駄じゃん。なら煽るほうがイラつかせる事できて、気分も良くなるよ」
「嫌な性格してるね。クソガキ」
「「負けるな~!」」「「立って~!」」
声援は続いている。
耳障りに感じてる様子の一兎。
「妖魔王、あんたはさ、僕達の絶望が見たかったんだろ? もう見ることはできないよ。生徒のみんなは僕に希望をもってくれてる。そして、僕は……折れないからね」
実際は折れそうになっていた。
だが、みんなの声援に勇気づけられて、青春は気力を取り戻した。
自分がやらねば、みんな殺される。なら、やるしかないと。
「あんた言ったよね? この声援が無駄だと」
「……だったら?」
「僕はこの声援のおかけで、こうして立ち上がれた。無駄なんかじゃない。僕はこの声援を糧に……あんたを……倒す」
青春は一兎を指し、宣言した。
そんな青春を、体育館で見てた黄緑は黄色い声援をあげる。
「きゃあ~!! 青くんカッコいい~! 好き! 抱いて! むしろ抱かせて!」
だがすぐはっとする。
「……ワタシも手助けにいかなきゃ。だいぶ回復したし」
身体能力強化の能力持ちの黄緑は、自然治癒能力も高い。並みの怪我なら、少し休むだけでも治るのだ。
とはいえ一兎の一撃、万全とまではいかないが。
「助けにいって、勝てると思ってんのかい?」
やる気満々の黄緑に水を差す言葉。発言者は狂信四天王最後の一人、右堂だった。
汚い物でも見るかのように、眉間にシワをよせて黄緑は言う。
「なにあんた。生きてたの?」
「教祖の所に案内した後、放置してたでしょうが。そりゃあ生きてるだろ」
その後、一兎が学園襲撃と聞き成り行きで冬黒達と共にこの場にやってきていたのだ。
「妖魔王の実力は本物だ。ぼっちゃんがフルパワーを出せない限り、勝ち目はない」
「だったら指くわえて見てろと? おあいにく様。ワタシと青くんは一心同体。見捨てる選択肢なんてない。死ぬときも、死んだ後も一緒なの」
「そうは言ってない。……おれに協力させてもらえないかい?」
耳を疑った。
青春を捕らえ暴行し、殺そうとしていた教団の者が手を貸すと?
四天王は正確に言えば信徒ではない。金で雇われてる人間だ。
その事はスパイしてた尾浜からも聞いている情報だった。
……だからといって、青春に手助けする理由はないはず。
「何が目的よ。お金ならないわよ。尾浜のおっさんなら持ってるかもだけど」
「さすがに中高生にそんなこと期待してねえよ。ただ、あのぼっちゃんに借りができたからさ」
「借り?」
意味がわからなかった。
黄緑は青春が捕まってる間のことは知らない。その時に何かあったのだろうかと考える。
右堂は全校生徒達を結界で守っている冬黒の元に向かう。
「白髪のぼっちゃん、手伝ってくんねえかな?」
「手伝う? 何をです?」
怪訝な表情を見せる。
あたりまえだ。教団の仲間、ろくでもない奴なのはわかりきっているから。
すでに倒れた四天王の内三人は、クズそのものだった。
右堂も奴らと大差ない。そう思っているからだ。
だが、何をするつもりかは気になっていた。
右堂は口を開く。
「周辺を暗雲で隠す。そのために魔力を貸してほしい」
「暗雲? なんのために……」
冬黒は察する。
「擬似的に、周囲を暗闇に変えるということですか? 闇野青春の力のために」
右堂は頷く。
要は青春がいつもやってるように、昼間でも力を一部使えるよう、擬似的な闇を作ろうというのだろう。
だが、いつもと違うのは外だということ。
室内ならどうにかして暗闇に変える事はできるだろう。実際今までもそうしてきた。
対サイクロプスやカオルコとの戦いでわかる。
しかし、外となるとそうはいかない。室内と違い、光を遮断する方法がないからだ。
暗雲を作ると右堂は言った。
暗い雲に太陽を覆い隠せば、確かに暗くはなるだろう。
だが、闇と言えるほど真っ暗闇にできるのかと言われると、疑問が残る。それにそれだけの暗雲を作り出すことが、果たして可能なのだろうか?
「おれの属性は雷。戦った君ならわかるだろ?」
「もちろん。故に雲を作り出す事はできるでしょうが……」
「見てな。……はあああああ!」
右堂は魔力を集中していく。
彼の額には血管が浮き出て血が少しずつ吹き出していく。顔もリンゴのように赤くなっている。
鬼気迫る表情。相当無茶な術を発動しようとしているのかもしれない。
すると右堂の頭上から雲が現れだす。黒い雲だ。今にも雷でも落としてくるかのような雷雲。
雲はどんどん大きくなっていき、太陽を覆い隠す。すると、辺りが薄暗くなっていく。
「部屋と違い、外の広い範囲を暗くしていく……予想だけど、闇野の坊っちゃんは暗闇の範囲がでかければ、力をさらに発揮できるんじゃねえかな?」
右堂の推測は当たっている。
暗闇の範囲が大きければ大きいほど、青春は本来の力を使えるようになる。
例え昼間だとしても。
部屋一面の暗闇で五割近く。外を暗闇で満たせるのなら、七割か八割は固いかもしれない。
雷雲が太陽を隠しきる辺りで、雲の動きは止まる。
「これ以上はおれ一人では賄えねえ。そこで白髪の坊っちゃんの番よ」
「なるほど。……結界の分を考えれば、自分の魔力はこれで尽きてしまうかも。闇野青春に決着の全てを託す他、ないわけですね」
「託せねえのかな?」
「いえ、託しますよ。それに彼らは、闇野青春の勝利をご所望のようですし」
生徒達を横目で見た後、冬黒は右堂の肩に手を置き、自らの魔力を送り込む。
すると止まっていた雷雲がまた動きだし、膨らんでいく。
辺りが少しずつ暗くなっていく……
「あんた、借りとかほざいてたけど、なんの話?」
黄緑は問う。すると右堂は口を開く。
「昔々、あるところに両親を失った、年の離れた兄妹がいました。妹は赤ん坊で、二人は施設に送られました」
「……なんの話?」
「まあ聞いてくれよ。おっさんのお話をさ……」
そう言うと、右堂は話を続ける。
なんでも、施設送りにされた兄妹だが、養子として引き取りたい相手が現れたという。だがその人は、兄のみを引き取りたいという。二人も引き取れるほど裕福ではなかったらしい。
兄は悩んだ。しかし施設の方が、赤ん坊なら引き取り手多いから、あなただけでも養子になりなさいと説得された。
兄は了承し引き取られ、妹と離ればなれになった。
ある時様子を見に戻ると、妹は無事お金持ちに引き取られたと聞く。よかったと安堵し、兄は引き取られた先で幸せに暮らしていた。
だがしかし、兄が引き取られたのは外国。運悪くテロに巻き込まれてしまう。
義理の両親を失い、家族を奪った者への復讐を企み、兄は力を求めた。
紆余曲折あり、魔力を扱えるようになった兄は復讐を遂げる。
その後は力を生かせる傭兵稼業にいそしんだ。
各地の紛争地帯を回ると、自分と同じ身の上の少年を引き取る。
少年は病気だった。少年のために悪どい事をしてでも手術費を稼ごうと躍起になった。
そんな時、羽振りの良い教団の存在を知る。
すでに手を血で染め、悪事もやってきたのだ。教団の配下になることになんのためらいもなかった。
そこで教祖と対面すると……どうも初対面に見えなかった。
そして兄は察してしまう。
教祖は生き別れた妹だと。
なぜ? お金持ちに拾われたはずと思った。兄は妹に力を与えた妖魔王に尋ねた。どうやら引き取った両親は殺され、資産を親戚一同に奪われ、妹は虐待され続けていたと聞いた。
自分が見捨てた妹は、地獄の道をたどっていたと知ったのだ。
多額の報酬を得て、少年は助かった。だが償いのためか、兄は妹の下に付き、陰ながら支える事を決意した。
妹は地獄に堕ちるだろう。なら、生きてる間は幸せにいてほしい。他者を陥れ、踏み台にする最悪の幸福だとしても……
「まさかその兄って……教祖はその事は?」
黄緑が問うと、右堂は首を振る。
「知るわけねえさ。赤ん坊の頃だぞ? それに自分を捨てた兄なんぞ、憎悪の対象。殺されんのがオチさ」
「あんたはよくわかったものね」
「目の下のほくろ、それに不注意でつけてしまった小さい腕の火傷跡でな……」
「青くんの借りは?」
右堂は和花を見る。
「この戦いで、今までの報いとして無惨に殺されてしまうかもしれねえ。そう覚悟してたのに死に顔がとても安らかだった。だから見てたらしいそこの嬢ちゃんに聞いたんだ」
「メス猫に?」
「そしたら、闇野の坊っちゃんが精神的に救ってくれたんだとよ。あいつのために泣いてもくれた。そして妖魔王に怒ってくれてる。おれにできなかった事をしてくれた……それが嬉しくてよ」
右堂は吐血する。相当無理がたたってるのかも。
「地獄で償った後、闇野の坊っちゃんと同じ時代に生まれ変わって……幸せになってもらいたいもんだ。そのために……協力するぜ」
「生まれ変わっても青くんは渡さない」
「手厳しいな! 第二婦人とかでもいいから勘弁してやってくれよ」
この策が成功すれば、青春にとってこの上ないサポートになる。
皆の力が、青春を救うことになる。
――だが、この一連の行動、当然ながら……
一兎は見ていた。
――つづく。
「いきなり関係ない話すんな。あんな教祖、そう簡単に生まれ変われやしないってば。ただでさえ青くんといい雰囲気だったの許せないのに……嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬」
「次回 決着をつけよう。妖魔王。ようと妖魔王で舌噛みそう。噛んだら青くんに甘えよ」
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