第48話  頑張れ

(弱点の付与……厄介この上ないけど、無条件でなんでも付与できるはずはない。この世の中、万能や、全知全能なんてあり得ないからね。神様でもない限り)


 青春は、一兎の能力になにかしら穴があると推測する。

 条件があるなり、付与不可能な弱点があったりするかもと。

 

 だが、必ずしも穴だけとは限らない。能力の強みもまだ隠されてる可能性もある。

 例えば、付与できる弱点が一つとは限らない、など。

 もし複数弱点を付与されたら、目も当てられない。詰みだ。


「秋葉さん。弱点を付与されたとき、何か気づいた事はない?」


 すでに弱点を付与された者がいるのは幸い。どういう状況で弱点を付与されたか、わかるかもしれないからだ。

 そこに、能力の穴を見つける手立てがあるかもしれない。


 秋葉の答えは……


「わからないでござる……」


 最悪な答えだった。

 青春はつい、一兎から視線を外して秋葉を見る。


「わからない? 触られたとか、呪文みたいなもの唱えられたとか、何かないの?」

「ないでござるよ。少なくとも、ウチは気づいたら弱点を付与されてたでござる」


 気づいたら? まったくの無動作で能力を起動したと? それとも秋葉が気づけないほど、動作が小さいのか? などと、青春は逡巡する。


 その考えに至ったなら、なおさら一兎から目を、背けてはならなかった。


 青春は視線を一兎に戻す――が、時すでに遅し。

 青春の全身に魔力の手錠が、複数かけられたような感覚が襲った。


「はい、君の弱点は昼に能力を使った場合、出現させられるナイフの数が制限されるというもの。それは夜になっても変わらない」


 一兎の説明が終わると、手錠をかけられた感覚がなくなる。

 ――しかし、


(ナイフを……これ以上出せない!?)


 今青春が出現させているナイフは、握っている一本のみ。

 普段なら出そうと思えば、千本だろうが一万本だろうが出せる。例え昼間でも百本くらいなら軽いもの。それなのに……奴になにかされたとたんに、今ある一本を除いて出せなくなった。


 弱点付与をくらった証拠だ。

 あまりにもあっけなく、くらってしまった。


 ――だが、一つわかったことがある。


 おそらく、弱点付与は


 秋葉にしても青春にしても、付けられた弱点は能力による制約のみだ。個人としての弱点ではない。

 そう考えると、能力が使いにくくなるだけなのかもしれない。

 能力に頼る戦法を止めれば、さほど気にならないかもしれない。


 ……というのは油断だろう。

 そう青春は思った。


 先ほど言った通り、弱点付与が一度とは限らない。

 能力に対する弱点が付与されつづければ、影響はさらにでかくなる可能性もある。

 それに、能力に対する弱点というのもまだ憶測だ。絶対とは限らない。

 なんなら能力に付与しつづければ、弱点付与の対象を、人に変えるなんて事もできるかもしれない。


「考えてるね~良い心がけだ。しかし、そちらにばかり頭を働かせていると……」


 一兎は両手を開き……


「スキだらけになるよ!」


 手のひらから衝撃波を何発も何発も放つ!

 青春と秋葉は避けるだけで精一杯。


(どうする?)


 今の時間は四時。まだ青春はフルパワーをだせない昼間だ。

 黄緑は負傷。

 秋葉も能力を使えない状況……


(いや、待てよ)


 青春は秋葉を見る。


「ん~? お熱い視線でござるね。でも黄緑氏の嫉妬が怖いでござるからね~」


 冗談を無視して、青春は言う。


「奴は自傷だとダメと言ったよね? なら僕が秋葉さんに傷をつけて流血させればいいはず」

「あ、なるほど! でも、痛くしちゃ嫌でござるよ~?」


 青春はナイフで、適量だけ血が出るように切……


「させるわけないじゃん」


 一兎の放った特大の衝撃波が、秋葉に直撃! 勢いそのままに校舎の壁に激突、そして壁をぶち抜いて内部に入っていってしまう。


「秋葉さん!」


 青春の叫びはむなしく響く。

 返事は返ってこない……


「はい。今ので更なる弱点付与。味方の傷による流血でも、能力は発動せず」


 二つ目の弱点付与!

 やはり一度だけではなかったようだ。弱点付与は条件次第で何個も付け加える事ができるのかも……


 だが、今ので死んだなら弱点付与する理由はないはず。少なくとも、一兎は倒しきれてないと判断してるのかもしれない。

 青春はそれを信じるしかなかった。

 今奴に背を向けるわけにはいかない。狙い撃ちされるだけだから。


「そうだ。せっかくの舞台だ。公開処刑といこうか」


 何かを思いついたように、一兎は指を弾く。

 すると、校舎から大きなモニターが出現。そこには体育館にいる生徒や教師達の姿が映る。


「向こうからは逆に、こちらの戦闘が映ってるんだ」

「……なんの真似……」


 青春が言い終わる前に、一瞬で彼の目の前に現れ、蹴りを腹部におみまい!


「ごっ……ぐっ!」


 青春はなんとか耐えるが、次は衝撃波の乱舞!

 何発も何発も腕や足、顔に直撃していく。

 不意討ちの蹴りの痛みのせいか、反応が鈍く、避けきれず直撃している。


「言ったろ! 公開処刑とね! 闇野青春、君は生徒諸君らに見守られ、むざむざ死んでいく様を全員の目に焼きつけて殺してやろう!」


 悪趣味そのものだ。大罪人でもない自分が、何でそんな見せ物みたいに殺されなければならないんだと、怒りを見せる青春。

 ――それに、


(僕は拒絶された身だ。見せ物にすらならないよ……)


 自分を狙いにやってきた教団のせいで、巻き込まれたクラスメイト達の凶弾。まだ青春の心に傷をつけていたままだった。


 夜ではない状態の青春に、なす術はなかった。衝撃波の雨になぶられ、血が舞い、骨も折れていく。


 今まで、こんなにボコボコに青春がやられる事はなかった。

 いくら昼間とはいえ……


 青春自身も、心が折れそうになっていた。

 夜までは二時間近くもある。ここまで痛めつけられれば、ダメージのせいで逃げたりして、時間を稼ぐことすらできない。

 なら夜まで来るのを遅くすればよかった? いや、それだと全校生徒や教師の命が危なかった。

 

 たとえ拒絶されても、青春に人を見捨てるなんて選択肢など……なかった。

 故に、昼間であっても挑まずにはいられなかったのだ。


「さあ、重い一発をどうぞ!」


 一兎は渾身の衝撃波を青春めがけて放つ!

 ボロボロの青春に、避ける力はなかった。


 青春の腹部にクリーンヒット。

 口から血を吹き出し、一瞬白目を向いて……校舎へと吹き飛んでいった。

 吹き飛んだ場所は入り口。ガラスドアを割り、下駄箱を弾き飛ばして、青春は廊下を滑るように転がり止まった。

 青春の転がった廊下には血がにじんでいた。


 映像を見ていた生徒達は押し黙る……

 そんな時だった。


「「青くんを応援しろ!」」


 大声に反応し、生徒達は振り返る。そこには腹部を押さえた黄緑が立っていた。その表情は、鬼のように怒り狂ったものだった。


「はっきり言って、青くんを拒絶した奴らは全員ぶちのめしたい気分」


 そう言うと、一部の生徒は震える。


「……だけど、青くんはそんなこと望まない。だから今はしない。でもさ、」


 黄緑は映像内で倒れてる青春を見て、涙を滲ませてから指す。


「青くんは、あんたらのために、あんなに傷だらけになって戦ってるんだよ!? 見捨てたって責める人いないのに!」


 生徒一堂は、視線を映像に戻す。


 すると、青春はボロボロなのに立ち上がろうとしていた。

 心が折れそうだったのに立ち上がる。生徒達のため、教師達のため、戦ってる仲間のため……

 そして、人生を狂わされたカオルコのために。

 そんな者達を嘲笑う一兎への怒りで、彼は何度でも立ち上がる。


「……頑張れ、青春くん!」


 最初に言葉を発したのは……桃泉和花だった。彼女は遅れながらも今、この場に到着したのだ。

 

「頑張れ……」「頑張って闇野くん!」


 つられて何人かが応援する。

 ――そして、


「負けるな!」「お願い!」

「頑張れー!」「闇野~!」


 激しい声援へと変わっていく。

 ほぼ全員が同じ気持ちで青春を応援する。

 

 勝手な奴らだと、都合のいい連中だなどと思うだろう。

 ――でも、この声援は……


 拒絶され、心に傷を負った青春を癒すかもしれなかった……


 

 ――つづく。



「ねえ、今回ヒロインらしかったよね? あらあら~やっぱり青くんのヒロインは黄緑ちゃんだけみたいね~」


「次回 力を貸して。青くんのためならなんでもする~♡」

 

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