第47話 三体一
「命日だの、でかい口叩くね。さあ、どこからでもかかってくるがいいよ。三体一の卑怯者」
卑怯呼ばわりされたからか、今度は逆に言い返してきた一兎。
「悪党倒すためなら複数がかりもやぶさかではないよ。勝つことこそが重要だからね。だからお姉さん達も気にしないで」
青春にそんな挑発はきかない。
三体一が卑怯だろうが、敵を倒すためなら手段など選ばない。
「青くん戦隊ヒーロー好きだもんね~」
ニコニコと愛おしそうに言う黄緑。一方青春は怪訝な表情を見せる。
「お姉さんに言ったことないと思うけど、どこ情報? 甘いものが好きなこともバレてるし……」
「青くんの事ならな~んでも調べてるからね~」
少しゾクッとした青春。
ストーカーでもされてるのだろうか……
「卑怯な事するなら、こちらの卑怯な手にも何も言わんで欲しいところだがね」
一兎はぼやく。先程の生徒を狙った一撃の事だろうか?
「細かい事は気にしないで」
「いや気にするわ」
一兎は魔力を発する。
ついに戦いの火蓋があがる。
「とりあえず、僕が前に出て戦う。お姉さんと秋葉さんはサポート……」
「いっくよ~」
「え?」
黄緑は話を聞いてないのか、一兎に向けて特攻しかける。
「バカな小娘だ」
一兎は迎え撃つ構えを見せるが……
「ん?」
一兎の全身に突然、多量の血液が降り注いできた。
秋葉の仕業だ。
「大人しくしていて欲しいでござるね」
「――!? こ、これは……」
一兎にかかった血液は凝固する。そして奴の腕や肩の動きが鈍る。関節部分に血液が固まっているからだ。
固さは尋常ではない。
「スキあり~」
黄緑はかわいい声を出しながら、動きの鈍った一兎に……正拳突き!
一兎は衝撃で吹き飛び、体育館の壁をぶち壊し、外に飛び出していった。
「見て見て青くん! ワタシ強いでしょ?」
可愛くウインクしてブリッ子ポーズ。ため息つく青春。
「人の話聞いてよね。まあとにかく僕らも外に出よう。あの程度で殺れる相手じゃないよ」
三人は体育館の外へ出る。
すると一兎は校庭のサッカーゴールの中で寝そべっていた。
「あれ? シュートしてた? お姉ちゃんが1点ね青くん。ワタシが勝ったら~青くんにチューするからね」
「お姉さん、少し集中して。今までの相手とはレベルが違うんだからさ」
一兎はゆらりと立ち上がる。
唇からは血が出ている。
しかし、それだけだ。並みの妖魔ならあの一撃でお陀仏。今まではあの拳で、敵の腹をぶち抜いてきた。
でも一兎は血を少し吐いただけ。体を貫いてはいない。
黄緑は当然、本気の一撃を放った。それなのに……
「いや、これだけの一撃……くらった事ないかもね。恐れいった。闇野青春の連れ……やるじゃないか」
笑みを浮かべて余裕の表情を一兎はしていた。
黄緑は不機嫌そうに
「連れじゃなくて、青くんのお姉さん、もといお嫁さんだから」
「わかったわかった。すごいね、闇野青春の美人奥様」
「お、奥様……あ、青くんの……」
顔を赤くして、青春へと視線を動かしてしまう。
「マヌケ」
一兎は手を前に出し、衝撃波のようなものを、黄緑に向け放った。
完全に不意をつかれた黄緑は、その衝撃波に直撃! 体育館の方角に吹き飛ばされていった。
体育館の壁を、今度は黄緑がぶち抜き、飛んでいったのだ。
「お姉さん!」
青春は黄緑の身を心配し、体育館に戻る。
一兎の垂れてる耳がとんがるように立つ。
「ああいうわかりやすい子は、扱いやすくて、スキをつくのが容易でいいよね……フン!」
自らの体を縛っていた、秋葉の凝固していた血液を、力をいれて砕く。
「二人が戻ってくる前に、一人減らしておこうかな?」
一兎は秋葉を見つめる。
彼女の皮膚に冷や汗がたれる。
「一人じゃ分が悪いでござるね。ウチも体育館に戻ろ……!?」
「させると思うかね?」
一兎は瞬時に先回りし、体育館を背にする。
「確実に、一人一人の息の根を止めようかね……」
「ち、やるしかないでござるか」
秋葉はポケットからカッターを取り出し、自らの指の皮膚を切る。
指から出血し、準備を整え始めた。
能力の使用時間が切れたから、血を再び、流し始めたのだろう。
「血を流すことで使える能力……話は聞いてるよ。出血量に応じて使用時間が変わるとか。なら血を流させずに、殴打で殺してしんぜようか?」
「舐めてもらっちゃ困るでござる」
――一方、吹き飛ばされた黄緑と、それを追った青春。
黄緑は体育館内の壁にもたれかかっていた。床は抉れている。
勢いそのままに転がり、もたれかかってる壁に衝突したのだろう。
「お姉さん!」
青春は血相変えて、黄緑を呼ぶ。そして肩に触れようとすると……
ギュッと黄緑にハグされる青春。
「ハアハア……青くん、心配してくれたの? いや~んかわいい~好き~」
大きな胸に青春の顔を埋め、ナデナデする黄緑。
――しかし、
「お姉さん、無理しないで。いつものフリしてもわかる。痛いんでしょ?」
青春は大真面目なトーンで言った。黄緑は鼻をかく。
「す、すごいね~青くん。まあその、背中が妙に痛いけどさ……たいした事はないよ! でも~ワタシの様子がすぐわかるなんて~愛の力? キャー」
「愛の力でもなんでもいいから、大人しくしてて。僕が守るから」
そんなイケメン発言をしたら、命とりだと学ばない青春。
「青くん……好き。後でワタシに襲われても知らないからね……」
「わかったから、そこで休んでて」
青春は秋葉の元へ向かう。
おそらく一人ではどうにもできないはず……
現場に戻ると、案の定秋葉は一兎に防戦一方だった。
だが、それはともかく、一つ違和感があった。
(秋葉さん……何で
秋葉はいつもの血を使った戦法をとらず、素手で一兎と戦っていた。
秋葉は青春に気づくと……
「闇野氏! 早く手を貸してよ!」
青春は頷いて、一兎にナイフで切りかかる。奴は軽くいなして二人から距離をとる。
「秋葉さん、どうしたの? 能力も使わないで」
「使わないんじゃなくて、使えないんでござるよ」
「使えない?」
一兎は笑みを浮かべる。
「そう。その女はねえ……自傷での出血では能力を使えないのさ。そして、ボクは血を流させないように攻撃してる。だから使用不可って事だよ」
初耳だった。
「弱点あるなら、教えておいてよ秋葉さん」
「いや、そんな弱点ないでござるよ」
まさかの否定をする秋葉。
首をかしげる青春。
「え? じゃあ奴が適当言ってるってこと? でも現に能力使えてないじゃない」
能力が使えないなら、何も間違った話ではないはず……しかし、
「ウチの能力にそんな弱点はない。でもなぜか今は、あいつの言うとおり使えなくなってるでござるよ……意味わからないでござるが……」
どういう事なのだろうか? と、青春は疑問に思う。
「……もしや、奴の能力?」
「せーかい」
一兎は拍手する。
「ボクの能力、
つまり、一兎が考えた自傷では能力を使えないという弱点を、秋葉が付与されたということだ。
それにより、本当にその弱点を持ってしまったわけだ。
「弱点を追加する……能力?」
「そう。でも教えてあげるのはここまで。さて、どんな弱点も付けれるのかな? 弱点は何個付けられるのかな? よーくかんがえよ~」
イラつく煽りをしてくる一兎。
ただでさえカオルコを煽動し、教団での悪事を行わせていた元凶。青春の怒りはそれだけで頂点に達するレベル。それに付け加えての煽り……普段冷静な青春のはらわたも煮えくりかえっている。
「さあて……闇野青春、だったっけ? 君にはどんな弱点を付与してあげようか?」
――つづく。
「……愛の力と認めたうえに、襲われてもわかった発言ってさ! そういう事だよね!」
(違います)
「ところで青くんの弱点ってさ、ワタシに弱いとかにしてくれないかな~」
「次回 頑張れ。そりゃ頑張らないとだけど……ん?」
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