第46話  対決妖魔王

 ――虹色学園。


 青春が誘拐された後、警察が事後処理なり、青春の行方の捜索を行っていたのだが……

 生徒に事情を詳しく聞いたりしていたため、全員帰宅せずに学園に残っていた。

 ――それが仇となる。


「要はさ。闇野青春がこの学園に戻ってくる状況を作りたくなかったわけさ。奴にはその気がなくとも、実質的にこの学園のボディーガードになってたわけだからね。奴は意図してなかったろうが」


 妖魔王一兎は体育館の壇上に座りながらそう言った。

 そこには全学年全生徒全教師が集められていた。当然縛られ、入り口は結界を張られ出られないようにされている。

 体育館の外には倒れてる警官が多数。


「奴がいることで、妖魔が近寄れないようになってたわけだ。サイクロプス討伐辺りから周囲の妖魔は闇野青春を恐れだしたからね」


 虹色学園はいい餌場。支配してたサイクロプスがいなくなったなら、本来取り合いになるような場所だったのだ。

 しかし、青春が通う学園だ。サイクロプスより弱い妖魔が近寄れるわけがない。

 青春がいることで、この学園の平和は保たれていたと言っても過言ではないわけだ。


「断っておくけど、オレは闇野青春を恐れてたわけではないよ? ただ儀式の邪魔とかされると面倒でしょ? だから教団に誘拐させたんだよ。まあいずれ始末するけどね」


 生徒や教師はみな恐怖で身がすくみ、一兎の言葉をただただ聞いてるだけだった。

 そんな様子を見て、一兎は不機嫌になる。


「ちょっと、聞いてんの? まさか、オレが闇野青春にびびって遠ざけたとかさ! 思ってるのか?」


 一兎は魔力を軽く全身から発する。この場にいる全員がその圧を受けるだけで、体調不良と恐怖を感じる。

 攻撃ではない。ただの威嚇だ。それでも常人ではまともではいられなくなるほど恐怖を刺激されてしまうのだ。


「お、おもってません!」

「あなた様の方が、つ、強いです~!!」

「だから助けて!」


 悲鳴をあげるもの、懇願するもの、太鼓持ちして命を助けてもらおうとするものと、様々。


 一兎はそんな人々の様子を見ながら満足そうに笑みを浮かべる。


「そう! それなのだよ! 無様に懇願する姿、恐怖に赴くその姿! 気分がいい……」


 一兎は腕を軽く振るう。

 その瞬間、一人の生徒の腕が宙をまって吹き飛んだ。


「うぎゃあああああ!!」

「「いやあああ!」」「「うわああ!」」


 腕を失った生徒は痛みに震え叫ぶ。それを見た生徒や教師達は恐怖により絶叫!

 阿鼻叫喚。そんな様子に感無量な一兎。満足そうに笑い手を叩く。


「愉快愉快! 最近は大人しくしてろって命令あったからさ~楽しくて仕方ない!」


 そんな時、体育館の床にいつの間にか浮かび上がっていた魔方陣、それが輝きだしてくる。


「お、儀式の準備が終わりそうだ。皆さーん、儀式が始まれば全員の命はなくなりますが、何か言いたいことはありますか?」


 言い残すことはあるか、辞世の句はあるかと一兎が聞くと、さらに悲鳴と叫びが体育館に響き渡る。

 誰もが死にたくないと泣き叫ぶ。

 そして、ある生徒が口に出す。


「闇野~!! 助けてくれよ!」


 この生徒は青春を凶弾した、クラスメイトだ。

 その言葉を聞き逃さなかった一兎。


「ええ? 追い出したのは君達じゃないか。笑えるよ。都合のいい時だけ助けてもらおうって?」


 一兎は嘲笑う。叫んだ生徒も自分がいかに勝手な事を言ってるかは理解していた。……それでも助けを懇願するしかなかった。

 死にたくないからだ。


「そんなお人好しいるわけねえのに……ほんと人間ってのはつくづく笑わせる。自分勝手な傲慢な連中さ。闇野青春も笑ってるだろうよ」


 すると他のクラスメイト達も叫び出す。


「ごめんなさい!」

「闇野助けて!」

「お願い闇野くん!」


 そんな生徒達が不快になってきた一兎は顔を歪ませる。


「この期に及んで助けなんてくるわけねえだろ。さっさと諦めてさ、オレに懇願……」

「「助けるよ」」


 どこからともなく聞こえた小さな声。一兎は聞き逃さずに反応。


 ナイフが一兎の皮膚をかすめる。そしてそのままナイフは魔方陣の中心に突き刺さる。

 すると魔方陣の光が消えていく。


「封呪のナイフ……それ引き抜かない限り、魔方陣は起動しないよ」


 まだ幼さの残る透き通った美しい声……

 一兎は声の主に舌打ちして呼びかける。


「闇野……青春!」

「どうも妖魔王。初めまして、そしてさよなら。今日がお前の命日だ」


 青春にとっての安い挑発。

 しかし、多少効果があったかのか、一兎の顔が歪む。


「笑えない冗談、言うんだね。そういう奴には……」


 一兎は片手をあげる。その動作がキーとなっていたのか、生徒と教員達のいた地点が大爆発を起こした!


「はい! これで守る人間は全滅だ! 儀式はやり直しになるのは難点だがな!」


 一時の怒りで儀式に使うはずだった人質を、爆殺。

 それだけではない。救出に来たヒーローの青春を嘲笑いたかったのだ。助ける事ができずに自らの無力さを知れと……


 薄ら笑う一兎だったが……

 青春の表情に変化はなかった。


「――まさか!」


 今は煙がすごくて状況がわからない。

 しばしの時が経ち、爆炎の煙が晴れていくと……

 生徒と教員はすべて傷一つなく無事な姿を確認できた。


 彼らの周りにはバリアーのような結界がはられていた。これが先程の爆炎を防いでみせたのだろう。


「お前達みたいな卑怯者のすることくらいわかってるんだよ……」


 青春はどうやら一兎がどう動くか読んでいたようだ。


「とはいえ、間一髪でしたがね。まさかいきなり攻撃するとは思いませんでしたし」


 バリアー内部には冬黒の姿が。

 彼のおかげで人質はみな無事だったようだ。


「悪いけど、みんなを守っててあげて。……こいつは僕が殺る」


 生徒達を放置していたら一兎がなにしでかすかわからない。

 さっきのように殺しにかかるか、それとも盾にするなり人質にとる可能性も。


 冬黒という戦力が使えないのは痛いが、この際仕方ないこと。

 冬黒も静かに頷く。


「任されました。でも、言うからには妖魔王、仕留めてもらいますよ?」

「当然……ねえ、お姉さん?」


 青春は振り返りもせず呼びかけると、体育館の天井を突き破り、上から黄緑が降ってきた。


「あ~おくん! 受け止めて!」

「は!?」


 勢いよく落下してくる黄緑を、言われるがままに、お姫様抱っこの要領で青春はキャッチ。

 重さで表情が崩れそうになるが、なんとか耐える。


「あ、のさ……お姉さん。僕、魔力での身体強化は苦手なんだ。それに元が非力だから……その、さ……情けないけど……」

「キャー! 青くんにお姫様抱っこされちゃった~。あらあら~もうお嫁さん確定~! 幸せにしてね青くん!」


 聞く耳もたない女。いや、気づいてないだけかもしれない。

 すると、同じく上から降りてきた秋葉が煽る。


「お~い、青春氏は重いって言いたいらしいでござるよ。デブ」

「ああ!? 太ってません~胸が大きすぎるから、少し体重人よりあるだけです~」

「デブなのは事実で草」

「ワタシのウエストの細さ見えねえの? メガネ買い換えろ」


 やいのやいのと、女同士の言い争いが始まっていた。そんな状況ではないのに。


 そこで申し訳なさそうに青春は言う。


「あのさ、もう……降ろしていいお姉さん」

「あ、う~ん名残惜しいけど~」


 やっとお姫様抱っこが終了する。

 青春は一息ついてから一兎を睨む。


「よくこのスキに攻撃してこなかったね」

「面白い茶番だったからね。もうできないと思うとかわいそうだから待っててあげたのさ」

「茶番が終わるのはお前のほうだろ」

「は?」


 右手にナイフを握り、一兎へと向ける。


「人を嘲笑うお前の腐った茶番は今日限り。死んで償いな妖魔王」



 ――つづく。



「お姫様抱っこされたからもう告白されたようなものだよね? あらあら~お似合いカップル~」


「次回 三体一 あれ? これなら余裕で勝てるんじゃない?」

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