第45話 どこだ! 妖魔王!
「ここが教祖の部屋なの?」
黄緑達は右堂の案内により、教祖カオルコの部屋の入り口前に来ていた。
質問に右堂は頷いていた。
中からは何も聞こえない。
「教祖って女なのよね?」
「そ、そうだが?」
「……青くんの身が心配……何かされてないかしら……いや、そもそもあんなにかわいい男の子なんだから、教祖が男だったとしても危ないわよね!」
黄緑の顔が青ざめる。青春の身が心配で心配でたまらなくなった黄緑は、重厚な扉を無理やりこじ開け、右堂の立ってる方向に扉を投げ飛ばした。
それによって右堂は扉に挟まれた。
「青くん青くん青くん青くん青くん!」
すぐさま部屋に侵入し、青春がいるか辺りを見回す。
この間一秒にも満たないのだが、すぐさま青春に気づく黄緑。
ちなみに、同じくこの場にいた和花の存在にはまったく気づいていなかった。
黄緑の感覚としてはとても長い期間、青春に会ってなかったかのように感じていた。体感感覚で1ヶ月、いやそれ以上の。
実際は昨日会ってるのだが。
そんな黄緑にとって、青春との再会は待ちに待った出来事……
「青くん成分……摂取しなきゃ……ハァハァ……」
黄緑の顔は真っ赤。動悸もすごい。遠目に見てる冬黒と秋葉はなにしでかすかと気が気でなかった。
背を向けてる青春に、全速力で抱きしめに向かう黄緑。
「速っ!」
秋葉の目には、黄緑が青春の元にワープしたかのように見えた。
――しかし、意外にも黄緑は青春の前で止まっていた。
「ん? どうしたでござるかな黄緑氏?」
秋葉の予想としては、黄緑が青春を抱きしめた後、セクハラ三昧しまくると思ってた。
しかし、黄緑は何かする様子がなかった。
黄緑は、青春の顔を見てフリーズしていたのだ。
彼女の視界にうつった青春の目には涙が見えた。
彼の泣く姿など、黄緑は今まで見たことなかった。
何があったのだろうかと思っていると、教祖カオルコの死体が見えた。体は両断されており、青春の手にはナイフ。彼が殺したと察する。
黄緑は事の事情はわからない。おそらく、人の命を奪った事にショックを受けてるのだと彼女は思った。
実際それもあるのだが、カオルコとの戦いの顛末からしてそれだけではない。
母性か、彼に対する愛情か、黄緑はたまらなくなり、彼女は青春を優しく抱きしめる。
けして欲望の結果ではない。
……多分。
黄緑の大きな胸に顔を埋める青春は、抵抗せず聞く。
「……お姉さん、どうしたの」
「こっちのセリフだよ? 詳しくは聞かないけど、傷ついたんでしょ? お姉ちゃんが慰めてあげる。エッチなお願いでも聞いてあげるよ?」
「なに、言ってるんだか……」
でも、青春は黄緑の優しさに感謝していた。
落ちつく……癒される……
青春は少しだが救われる気持ちになる。
黄緑は青春のおでこに軽くキスする。
「お姉ちゃんは、青くんの味方だからね? ワタシの胸の中でおもいっきり泣いていいのよ?」
「……遠慮するよ。カッコ悪いからね」
「あらあら、そんなことないのに」
ごく自然にあらあらが出た。違和感なく使いこなせるようになってきたのかもしれない。
――そのまま数分経過する。
未だに抱きしめてる黄緑だったのだが……
さすがに母性、優しさの気持ちだけのままでいられなくなっていた……
少しづつ顔が赤くなり、はあはあと息をもらす。
(か、かわいすぎる……も、もうさ、我慢しなくてよくないかな? こ、この弱ってる青くん慰めなきゃだしさ! はあはあ……)
欲望が出てきてしまった……
さっきまで良い話になりそうだったのに……
「あ、青くん!」
「え」
暴走ヒロイン復活。
舌なめずりして、青春を補食しようとしてきたので、秋葉が動く。
「そこまで! でござるよ! セクハラ女!」
血の鞭で首をしめ、黄緑を背中から地面に叩きつける。とっさの事だが青春を離したため、青春は倒れなかった。
「いったい!! クソ……ござる女ぁ……」
「黄緑氏、ほんといつか逮捕されるでござるよ」
「あらあら~同意なら問題ないでしょ~?」
「頭大丈夫でござるか?」
戦闘モードの人格だから、辛辣な秋葉。
その間に和花は青春に駆け寄る。
「青春くん、大丈夫?」
「……うん。桃泉さんは怪我とかは?」
「あたしのことはいいって……カオルコさんはかわいそうな人だったけど、仕方ない事だった。青春くんが気に病む事ないと思う」
「……」
「それに、青春くんの言葉にあの人は救われたと思う。とても、穏やかな顔してたし……」
「ありがとう……」
そんな二人を見て歯ぎしりする黄緑。唇から血が出てる。
「メス猫……いたのかよ……あらあらムカつきますわね~」
「それでもあらあら辞めないところは評価に値するでござるよ」
青春はオカリナを取り出す。
そしてカオルコの死体の前でオカリナを吹く。穏やかな死をもってあの世へ旅だてるように。
彼の気休め、彼の優しさの旋律……
「久しぶりに見たかも……」
青春は死は平等といつか言っていた。だが今まで倒してきた妖魔は悪鬼そのものだったり、オカリナを吹く余裕がなかった。
とはいえただの気休め。この旋律に何の意味もない。自己満足だと彼は思ってる。
でも、奏でてあげたい……そう、思ったのだ。
綺麗なオカリナの旋律、そして青春の優しい表情に癒される黄緑と和花。二人は見惚れて赤くなっていた。
旋律が終わると……青春は怒りを見せる。
「……どこだ、妖魔王……」
上墨達は青春を監禁してた時漏らしていた。教団の影の支配者は妖魔王一兎と。
カオルコ自身の言い分も聞いたからこそ間違いないと確証があった。
奴のせいでカオルコは狂った。奴がいたせいで。
青春は怒りに身を震わせていた。
許せない、許さないと……
「妖魔王は、ここにはいない」
右堂が口を開く。
青春は視線を右堂に向ける。彼にとっては自分をさらった人間。信用などできない。
だが、右堂は話を続ける。
「奴は昼間力の出ない間、君を教団に監禁させておくのが狙いだった。何も倒せるなんて思っちゃいなかったんだよ」
「……つまり、僕を遠ざけておきたかったってこと?」
「そう。学園からね!」
「――!?」
学園……青春の通う虹色学園の事だろうか?
「君が以前倒したというサイクロプス。奴は元々小さな妖魔だったと聞く」
黄緑と初めて組んで倒した、学園に潜む妖魔の事だ。
※学園に潜む妖魔編参照。
奴は二百年も生き続けてきた、巨大な力を持った妖魔だった。
それが元は小さい妖魔? にわかに信じがたい。
そんな妖魔が二百年も生きてきたというのかと疑問だからだ。
「あの学園はよくわからないが、妖魔が身を隠すには最適な地らしい。魔力が外敵に漏れないだとかなんだとかでな」
だから小さな妖魔でも生き残れたと右堂は言いたいのだろう。
そこで身を潜め、ひそかに人を襲い、力を得ていたのかも。
「その上、魔力を周囲から集めるのに最適な地でもあるらしい。サイクロプスはそれプラス、契約で人を食い力を得ていた。言いたいことはわかるかい?」
「妖魔王は、学園で魔力を集めようとしてる?」
右堂は頷く。
「それには儀式を行う必要があるらしくてね、その生け贄として、学園の生徒と教員全てを使うつもりらしい」
「――!?」
学園のみんなの命が危ない。青春はすぐさま学園に戻ろうとするが、
「助けるのかい?」
右堂は問う。
「原因作ったおれらが言うのもなんだけどさ、生徒諸君は君を凶弾したじゃないか。死ねとも言ってた連中もいた」
奴らの襲撃は青春を狙ったものだった。故に巻きこまめれたと思った生徒の一部は青春の精神を傷つける暴言を吐いた。
そのため、青春は学園に戻れるか気が気ではなかった。
一方、黄緑は今の発言聞き捨てならなかった。
「あらあら~。……ちょっと待って。誰死ねなんて言ったガキ。青くんへの暴言は許さない。そいつ殺す」
「お姉さん、後にして」
「は~い」
可愛く、ぶりっ子ポーズ決めて青春の言う事を聞く黄緑。うざっ、……と秋葉は思った。
右堂は話を続ける。
「そんな連中、助けるのかい? そういう奴らはさ、助けてあげても感謝なんかしないかもよ?」
「関係……ない」
「なんだって?」
「それで許してもらおうとも思わないけど、殺されるとわかってるクラスメイトを見捨てるなんて選択肢は、僕にはない」
まっすぐとした目つき。そして純粋な瞳……
右堂は少し、感化されそうになる。
他人にどう思われようが、誰かのために戦う純粋な少年。まさに穢れをしらないかのよう。
薄汚れ、金のために人を殺してきた自分とはまるで違う青春が眩しく感じていた。
一方、黄緑はカッコいいカッコいい連呼してくねくねしてた。
――つづく。
「やっと会えたからさ、セクハラしたかったんだけど……しょうがないか……全部終わるまで我慢我慢……」
「次回 対決妖魔王。あらあら~さっさと倒しにいかないとね~。クラスメイト達は覚えてなさいよ……」
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