第39話 青春の行方
黄緑達はまず、尾浜から聞いていた教団の支部を近い順に襲った。
黄緑の怒りはすさまじく、教団のドアを突き破り無理やり侵入。
「青くんの居どころ……吐け」
――と、信徒連中に言い放つ。信徒達はカオルコから敵襲の可能性を聞いていた。故に、黄緑達を敵と判断し、虚ろな目のまま黄緑達に襲いかかる……が、
「死ねゴミ共」
当然ながら有象無象の信徒達など、何人束になろうが黄緑の敵ではない。おまけに冬黒と秋葉もいるのだ。万が一にも敗北はありえない。
殺しかねないほどの拳の乱打で信徒達をばっさばっさとなぎ倒す。信徒には女も混じってるが、当然問答無用で殴り飛ばした。同性だから関係ないという頭だからだ。
殺しても罪に問われないという話になってるからとかではおそらくない。そんな事考える余裕ないほどキレてる黄緑は、本気で皆殺しにしかねない勢いだった。
だが、黄緑は殺しまではしなかった。フルボッコというか半殺しレベルにぼこぼこにしてはいるが。
理由は青春の居どころを吐かせるためだ。
「青くん、どこにさらったの?答えなさい。答えないと殺す」
一人の信徒の胸ぐらつかんで脅す。信徒は目線をそらす。
「洗脳されてんのか知らないけど、ワタシは容赦しないよ?」
金属性魔力を少し注ぎ、信徒に強烈な痛みを与える。
「うぎゃああああ!!」
死なないレベルに痛覚を刺激させているのだ。外傷事態はないものの、常人じゃ耐えるのも難しいほどの痛み……まさに拷問に近い。
近くで見てる冬黒と秋葉はドン引きしていた。
「お、恐ろしい女性ですね……こんな技まで身につけてるとは……」
「さすがに怖いでござるよ黄緑氏……」
「味方としては頼りになりますがね……闇野と同じく、仲間入りしてもらいたいですね。心から」
対妖魔としても、人間相手としても心強い戦力。そして万が一にも彼女と争うことだけは避けたいと、冬黒は思っていた。
実際やりあったらわからないが、単純に怖いと思いしらされたのだ。
「ほら、痛みで洗脳解けて来たでしょ?居場所を……!?」
黄緑は驚愕した。信徒は虚ろな目のまま動かなくなっていたから。
――自殺したのだ。舌を噛みちぎったか、毒薬でも口に仕込んでたかわからないが……信徒に息はすでになかった。
周りを見ると、意識ある信徒は皆自殺していた。
情報を吐き、カオルコを裏切るような事を避けるため、信徒は死を選んだのだろう。
共信党……恐ろしい忠誠心の信徒を作りあげたものだ。
「他のところ行こ。今度は死ぬ前にどうにかして吐かせる」
黄緑は眉一つ動かさずその場を後にする。ドン引きしてた二人もワンテンポ遅れてからついていく。
♢
しらみつぶしに支部に殴りこむ黄緑達。だが、なかなか居どころをつかめない。
信徒が口を割らないからだ。いや、そもそも聞かされていないのかもしれない。そうだとこの行動は意味をなさないかもしれない。
教団事態にはダメージが行くかもしれないが。
「我々を警戒して、近くの支部には連れていってないのかもしれませんね」
冬黒は予測する。
奴らも青春の仲間の存在くらい認知してるはず。ならばすぐに救助に迎える場所に連れていくとは考えづらい。
国内ならまだましかもしれない。支部は海外にもあると聞くから。
とはいえ、どこに連れてかれたかを判明させなければ事は始まらない。
冬黒達の組織の情報網と、支部をしらみつぶしして、なんとか居場所を突き止める他なかった。
――都内最後の支部。
都内にはもう1つしか支部は残っていなかった。時間にして一時間程度しか経ってない。なのに都内各所の支部はすでに潰しきっていた。
黄緑の身体能力強化による移動速度はすさまじく、各所への移動にたいして時間はかかっていなかったからだ。支部一つ潰すのも数分で可能だったし。
冬黒と秋葉は黄緑に捕まれて共に移動してた。女子高生が男子中学生と女子高生を掴んで運ぶ様子は大変シュールだった。
最後の支部もやはりあっという間に制圧。その後内部の部屋をくまなく探す。すると一部だけ、厳重に鍵がかけられている部屋を発見した。
――もしかしてと思い、黄緑はドアを無理やり突き破る。
すると中には……
全身傷だらけ、むち打ちにあったようなアザの数々が見受けられた、尾浜が縛られた姿で発見された。
「尾浜さん!」「叔父さん!」
冬黒と秋葉が駆け寄る。黄緑は青くんじゃない……と、落胆してた。
「捕まってたんですか!?」
「す、すまんね……ふがいなくて……まさか教団にここまでの実力者いるとは思ってなくてさ。スパイなのもバレてて……」
役にたてなかった事を悔いてる様子だった。スパイとして潜り込んでいたのにみすみす青春は捕らわれ、自分はやられたのだ。情けなくて仕方ないのだろう。
とりあえず冬黒は、尾浜を縛っていたロープなどを切り裂き、解放する。
「油断でもしたんですか?数が多いとしても信徒、たかが人間相手でしょ?」
尾浜も妖魔退治をこなしてきた実力者。人間相手に負けることなど考えられなかった。
「それはそうなんだけどさ、まあヤバい連中で……爆弾巻いて飛びかかってくる奴もいれば、仲間いようと毒ガス撒いてくるのもいてさ……」
人間爆弾の爆発は尾浜が魔力で抑え込んだため、周囲の被害は少なかった。毒ガスも今はない。
自らの命をかえりみず動く信徒……洗脳はかなり行き届いているもよう。
「たださすがだねえ。信徒はともかく、左井川も倒してきたんだろ?オイラとは物が違うね」
「左井川?」
「そうそう。目がイっちゃってる戦闘狂で武器は斧で……」
「そんな奴、見てませんけど」
「……え?」
尾浜は信徒の特攻プラス、左井川にやられたようだった。しかし黄緑達はそんな奴に出くわしてない。
「――まさか!?」
尾浜が察っした直後、部屋に隠れていた斧を持った男、左井川が黄緑の背後をついた!
「げひゃひゃ!まず一匹ぃ!!」
「うっさい」
黄緑は振り返りすらしないまま裏拳。振り下ろされた斧は拳によって砕かれる。
「へ!?」
驚愕してる隙に、黄緑の右ストレートが左井川の腹部を貫く。
拳で腹を貫いたのだ。左井川は血反吐吐いて意識は朦朧とする。
「おっと、お眠はダメだよ」
黄緑は頭をつかんで揺らす。
「おじさん、こいつ幹部~?」
一瞬で自分を倒した相手を仕留めた黄緑に驚き、唖然としていた尾浜。しかしすぐはっとして頷く。
「そ、じゃあ色々知ってるかもね~青くんの居場所とかさあ~」
目のハイライトが消えている。静かに、しかし恐ろしい活火山のような怒りを感じる。
尾浜は少しだが、左井川の予想される今後に同情した。
左井川は件の青春誘拐現場にいた。その後、スパイの尾浜が暴れてると知り、ここに駆けつけ彼を捕らえ遊び半分に拷問していたのだ。
それが運のつき。いつまでも遊んでたから黄緑達に見つかりこうなった。この男がこれからどうなるか、想像に難しくはない。
「し、しかしお嬢ちゃん、また強くなった気がすんな。元々オイラよりは強いと思ってたけど、左井川を瞬殺なんて」
「少し、わかりましたよ彼女の強さの秘密」
冬黒は一人納得した。
「ど、どういう事だい冬黒?」
「彼女は妖猫ヒルダに力をもらった。でも契約者は闇野青春、となるとそこまでのパワーアップは本来ありえない」
100%ヒルダから力を得られるのは青春のみ。黄緑はわずかばかし力と能力を得たにすぎない。その割にはあまりにも強くなりすぎている。
「自分の推測としては、妖猫から力を得たさい同調するものがあった。それゆえに、妖猫のパワーアップも彼女に影響を与えたのかも」
「同調?」
「闇野青春への深い愛情ですよ」
冬黒自身、前の手合わせでヒルダは身を犠牲にしてでも青春へ尽くす深い愛情を見ていた。そしてそれは黄緑にも当てはまる。
二人の共通点、青春への深すぎる愛情が同調し、ヒルダのパワーが黄緑にも流れ込んでいると推測した。
倒した妖魔の魔力を吸収し、青春への愛で成長するヒルダ。その成長が黄緑にも影響を与え、彼女もまた強くなっている。
実際先の人知れずの妖魔との対決も、奴の能力に捕らわれてたのにもかかわらず、青春を見ればすぐ解除された。彼女は愛ゆえにと言っていたが、あながち間違いではなかったのだ。
※30話参照。
「闇野への深い愛という共通点が、パワーアップを促進している。愛ゆえに、闇野のピンチで怒る。その怒りもまた愛ゆえ……だからこそ強化され続ける」
「お嬢ちゃんの愛がなくならない限りは、猫からの魔力供給は続くわけね。ま、このようすだと愛は永遠だろうけど」
「同意します」
――つづく。
「そう……夏野黄緑からの青くんへの愛は永遠……イヤン!照れちゃう!」
「次回 教団本部殴り込み。教団……叩き潰す……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます