第40話  教団本部殴り込み

 ――教団本部。


 そこに青春と和花は連れてこられていた。

 本部の場所は信徒には知らされていない。故に、裏切る者がいたとしても、本部を誰かに漏らす事はできない。

 尾浜もスパイとして潜り込んでいたにも関わらず、本部の場所は把握できていなかったのはそのため。


 洗脳かなんなのかはわからないが信徒はカオルコに忠実。だが彼女は信徒を誰一人信用などしていない。

 コレクションの美男子たちは誘拐に近いため、本部がどこにあるかはわからない。ずっと中で閉じ込められる生活を強いられてるためだ。

 ちなみに彼らはカオルコの身の回りの世話などもさせられている。

 

 信徒に指示を出すときは映像か、自ら赴いているのだとか。


 本部の正確な位置取りを知るのは妖魔王一兎とその配下の妖魔。それと金で雇われた四天王だけだ。

 四天王も信用などしてないが、金というわかりやすいつながりに、妖魔に見張らせてるため心配はない。


「う、う~ん……」


 和花は目を覚ます。

 彼女は誘拐されたとき、眠らされていたのだ。そして今ようやく目を覚ましたのだが……


 辺りは豪華絢爛な芸術品。きらびやかなシャンデリアが天井に輝き、白いカーテンが部屋全体を覆い隠している。そして赤く長い絨毯じゅうたんが大きな椅子の前に敷かれていた。


 椅子には人が座っている。近くには半裸の美男子がその人物を囲っている。

 座っている人物、それはもちろん教祖カオルコだ。

 彼女は絨毯の上に寝転んでた和花が目を覚ますと声をかける。


「気がついたようね小娘」

「だ、誰……?」


 美男子を侍らせ、優雅に座る露出の高いドレスに身をまとう美しい女性……怪しい事この上ない。

 和花は警戒心の塊だった。


「わたくしは共信党の教祖カオルコ。お前を捕らえた連中の雇い主ってところかしら?」


 和花は思い出す。自分は学園から怪しい連中にさらわれた事を。


「あ、青春くんは!?」


 彼女の第一の心配は青春の身だった。自分を助けようと共に捕らえられた彼の姿がここにはなかった。


「無事よ。今のところはね」

「い、今のところ……?」

「それがね、捕らえた連中の一人がいたぶりたいとか懇願するからさあ……顔に傷をつけなければって条件で多少は許したの」

「そ、それじゃあ!」


 青春は今、拷問されているのではないかと察する和花。

 助けにいこうとするが、手足が縛られてることにようやく気づく。身動きが取れない……


「あらまあ。ご立派ね。彼を助けに行こうとしたの?なんの力もないくせにバカみたい」

「青春くんを……どうする気!」


 カオルコを威圧するように睨み付ける和花。彼女に恐怖の感情は微塵もなかった。


「一兎様には殺すよう言われてるけど、四天王程度じゃ殺せはしないでしょうし、かといってわたくしが殺るのもねえ……」

「なら……どうする気……」

「一兎様に献上かしらね?来るまではいろいろ楽しませてもらおうかしら」

「い、いろいろ……?」


 和花にはあまり想像がつかなかった。ただ、今拷問されてるならそれに近いことだと彼女は察する。


「でもあの子……とても良いお顔してるのよね。殺した後はあの顔だけ綺麗に保存して、わたくしのコレクションとして残そうかと思うの。ふ、ウフフフ」


 妖艶な笑みに身震いする和花。

 普通じゃない。イカれてる……そう和花は思った。


 ――どうにかしてここから逃げ出し助けに行けないかと和花は考える。


「ところでお前、いじめられっ子だったんですわよね?」


 突然話題をカオルコが変えてきた。

 あまりこのイカれ女とは話したくはないのだが、和花は一応答えた。


「だ、だったら……?」

「奇遇ね。わたくしも昔いじめられてたの」

「……えっ?」


 少し意外に感じた和花。いや、逆にそのせいでここまで歪んだのかと思うと、わからなくもないのかもしれないと納得もしていた。


「同性からも、異性からも関係なかったわ。教師は無視。両親は亡くなってて親戚たらい回しで味方なんていなかったわ」


 自分より環境悪かったのかもと和花は思う。彼女の場合は言えなかったが、さすがに両親は味方だったし、家には居場所があったからだ。


「お前はあのかわいい男の子に助けてもらったんですって?いいわね……まるでヒーローじゃない」


 ヒーロー……和花にとっては確かにそうだった。青春のおかげでイジメはなくなり、日々を幸せに過ごせるようになったし、友人もその後できた。

 ヒーローそのものだ。


「その上あんなに顔の良い男の子なんだものね、好きになるわよね……」


 実際はその前から気にはなっていたのだが、こと細やかに説明する必要ないため和花は黙っている。ただ、初めて会った相手にもバレバレなのかと、和花は少し顔を赤らめた。


「うらやましいわ……妬ましい……何でお前にはヒーローが現れたの?」


 歯ぎしりするカオルコ。同じ境遇ながら助けてもらった和花に嫉妬と憎悪をみせている。


「わたくしには助けてくれるなんていなかった。自ら命を絶とうかと追い詰められてたくらいだからね……」


 物思いにふけるカオルコだが、すぐさま卑しく、笑みを浮かべる。


「そんなとき現れたの。妖魔王一兎様がね。あの方はわたくしに力をくれた。そして言ったの『憎い者共に報いを与えるといい。お前にはその権利がある』ってね」

「……」

「だからわたくしは殺ってやったわ!いじめっこも、うざい親戚も、無視した教師も!生まれた事を後悔させるくらい徹底的に苦痛を与えて殺してやったわ!」


 過去の所業を高笑いして語るカオルコ。殺った事への後悔は微塵も感じない、狂気な笑い。

 

 だが、和花は彼女の気持ちがわかる。自分も青春に救ってもらわねばここまで歪んでいたかもしれないと。


「それからはわたくしは自分のしたいように生きてきたわ。自らの欲望を叶えるために数多くの人間を犠牲に、捨て駒に、破滅させてきたわ……」


 カオルコは囲っている美男子の顔を優しく触る。美男子は少し震えてる様子だった。


「この子達は献上品だったり、わたくしが誘拐手配したりときた理由は様々ね……」


 おそらく、教団教祖としてやってきた聞くに耐えない悪事は数知れないだろう。

 悪鬼そのもの。

 

 でも和花は同じ境遇故か、あまり悪とは思えないでいた……

 同情しているのかもしれない。


 ――ドドドン!!


 ――突然教団本部全体が大きく揺れた。地震……いや違う。


「何事?」


 カオルコが呟くと、影から妖魔が現れ報告。


「侵入者のようですぜ」

「は?侵入者?そんなまさか……」

「侵入者は闇野青春の仲間数名。左井川……四天王を盾に現れました」


 四天王と言い換えたのは名前を覚えていないからだ。


「……つまり、そいつがチクったわけね。その左なんとかもろとも始末するよう他の三人に伝えて」

「御意。すぐ我々も迎撃に向かう所存」


 妖魔は部屋から姿を消した。


 和花は安堵する。助けが来たと。


「なにお前、これで助かるとでもお思い?教団本部にどれだけの妖魔がいると思ってるの?」

「……そっちも、青春くんの仲間達の実力知ってる?特に青春くんのお姉さんはその程度じゃ抑えられないよ?」

「は?」



 ♢



「あ、青く~ん。た、助けにきましたわよ~?あらあら~どこにいるのかしら~」


 ……いつものように暴言吐いて大暴れするかと思いきや、怒りを抑えてあらあらお姉さんを演じる黄緑。ちなみに死にかけの左井川を盾がわりにしながら。


 冬黒は不審がる。


「夏野さん、どうしたんですか急に」

「急に?あらあら~わたくしはいつもこうじゃないですかー嫌ですわ冬黒くん」

「……」


 戸惑う冬黒の肩に手をおく秋葉。


「闇野氏がどこにいるかわからないから、いつどこで出くわしても言いようにあらあらお姉さんになってるんでござるよ。哀れな女にツッコミは野暮でござるよコーリちゃん」


 あらあらお姉さんが青春の好みと知ったために、あらあらお姉さんになろうとする一途さは評価に値する。そして好みをしゃべったのもまた自分。

 ――ということで、冬黒はスルーしてあげることにした。


「あらあら~とりあえず手当たり次第壁破壊しまくって~邪魔者も掃除して~探すしかないのかしら~?……おい」


 急にドスの聞いた声で呼び掛け左井川を揺する黄緑。


「お前は~場所知らないの~?」

「し、知らん……」


 抵抗する力もない左井川は口を開くのもやっとな様子だった。


「あらあら~使えないわね~用済みになったら海にでも捨てましょうか~」

「海を汚さないで頂きたい。刑務所にぶちこむか、どうせ殺すならここで殺ったほうがいいですよ」

「あらあら~そうかもね~海なら最悪生き延びるかもしれないものね~」


「二人とも怖いでござるよ……」


 普段の秋葉ゆえに、二人の物騒な発言にはドン引きしていた。



 ――つづく。


「あらあら~……どこにいるのかな青くん。お姉ちゃんがきましたわよ~!!」


「次回 対決四天王。すでに一人は死に損ないだけどね~」



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