第38話 青春誘拐事件
「おとなしく、我々と来てもらえるなら、生徒達を見逃してやってもいいぞ坊っちゃん」
右堂は青春に上から目線で告げた。偉そうに……そう青春は思った。
しかし、和花が人質にとられてるこの状況……下手な事をすればみんな殺されてしまうかもしれない。
だが、こいつらが約束を守るのか?そんな疑問も青春にはあった。
口だけのでまかせで、自分の動きを封じたら全員皆殺しにするとかしかねない。
そんな青春の考えを察したか、右堂は……
「信用、できないかい?わかった。じゃあこのお嬢さん以外の人質は解放しようじゃないか」
「え!?いいのかよ右堂さんよ!おれからしたらかわいい子以外、皆殺しにしたい気分なのによ」
「上墨!お前は話に入るな!」
右堂は一喝。上墨は青春の決断を鈍らせるような事しか言わない。交渉の邪魔と思い黙らせた。
上墨本人は相当不満顔。こいつは殺しを楽しむような奴だと青春は判断した。
「ほら、生徒諸君も助かりたいなら彼に頼むんだ。我らの元に来るようにね」
右堂は生徒達を先導するように煽る。こんなこと言われれば皆命は惜しいのだから……
「闇野!捕まれ!」「お願い闇野くん!」「助けて!」「お前の身とかどうでもいいんだよ!」
懇願はともかく、暴言を吐いてくる同級生もいた。
――でも、だからって見捨てることは……
この場を穏便に済ますには……捕まるしかないのかもしれない。そう青春は判断した。
だが、あきらめたわけではない。捕まろうと、悪人の好きにはさせない。必ず……眼にもの見せてやると、唇を噛み締めながら……右堂の目の前に向かった。
「よし、良い子だ。生徒諸君、教室から出てっていいよ」
右堂は笑みを浮かべて生徒達を解放した。皆一目散に教室をから出ていく。
良かったと安堵するもの、泣きながら両親の名を呼ぶもの、何も言葉が出ない子もいた。
だが……
「闇野がいたからこんな目に!」
「ホントだよ……巻き込むなよ」
「疫病神だあいつは!」
当然心ない言葉を浴びせる者もいた。
「おいおい君たち、気絶してる子や、先生も連れ出しなって」
右堂がそういうと、言われた通り恐る恐る連れ出していく。
気絶してる子とは、上墨が蹴り飛ばした女の子だ。
教師は撃たれて死にかけている。
上墨への怒りが増してくる。
そんな青春に気づいた上墨は舌打ちしてにらむ。
「んだよクソガキ。てめえよくも顔に蹴り入れやがったな。教祖の許しでたら直々に殺してやる」
「……こっちのセリフだよ」
青春の全身から、刺すような魔力が滲み出てくる。
「クラスメイトを怯えさせ、苦しめ、殺そうとまで……ただじゃおかない」
たかが中学生の脅し。だが、青春の闇魔力により、常人なら失禁しかねないほどの恐れを抱くことだろう。
上墨は常人ではないため、耐えてはいるが、少し圧倒はされていた。
「じゃあ行くとしようか。坊っちゃん、お嬢さん。教団本部に」
……こうして、青春と和花は教団へ拉致されることとなった。
青春はこの状況事態はなんとかできると思っていた。自らの力とヒルダがいれば、逆境くらい跳ね返せる。だから悲観することはない。和花も守って見せると。
――だが、懸念があるとすれば……
(僕は……学園に戻ってこれるんだろうか……)
理由はどうあれ、自分が狙われた事でこんな被害が起きた。生徒は痛め付けられ、教師に至っては死ぬかもしれない。
関係ない人達を巻き込んだ。みんなには、これから拒否される生活になるかもしれない。
――自分は、この虹色学園に通えなくなるかもしれない……
そう青春は思った。
別に学校は好きなわけではない。でも、拒否させるというのは心が傷つく……
それに今は居場所として認識できるようになっていた。
ヒルダは認めてないが、友達のように接してくれる和花。
――そして、相棒ともいえるお姉さん、黄緑……
二人と別れる事に、二人に拒否される……そんな最悪な未来を想像してしまっていた。
(疫病神……そうなのかもしれない。僕は……誰かと一緒にいてはいけないのかも……しれない)
♢
「は!?狂信四天王が学園襲撃!?」
尾浜は、仲間から先ほどの事件の連絡を受けていた。
「おいおい!あんなろくでもない連中が襲撃なんかしたら、死人だらけになんぞ!特に上墨の最低野郎とかなら尚更だよ!」
スパイとして潜り込んでいたのに、肝心な襲撃については何も聞かされてなかったし、前もって探る事もできなかった自分を恥じる尾浜。
「くそ、下っ端じゃそこまで情報手に入れられないか。都知事選の事考えてたから、冬黒も赤里も学校休ませてたのがあだとなったね……」
そう、よりにもよって戦力となる二人は出払っていたのだ。
冬黒なら中等部だし、助けに行けた可能性は高かった。尾浜の失態だった。とはいえこんな襲撃読めというのも酷な話だが。
「嘆いてもしょうがないか。ここはスパイとしての情報を頼りに闇野くんがどこに連れてかれたか調べ……」
尾浜は振り向くと、周囲に教団の信徒が数名自らを囲んでいる事に気づく。
「……あはは。まずいな。スパイってバレてたみたいだね~」
冷や汗が止まらない。教団は尾浜の狙いや動きをすでに察知していたようだ。
「教祖カオルコ……恐るべしだね~」
信徒はさらに数を増やし、尾浜に向かってくる。……なにやらヤバそうな武具を持ったまま、虚ろな目で……
「へへへ。やってやるよ!大人の意地、見せたるわ!!」
――ドゴッ!!
♢
――秋葉宅。
青春が捕らわれてから一時間ほど経過していた。
あれから生徒達からの通報で、警察や救急車が搬送された。それにより、妖魔対策本部にも連絡が行き、尾浜や冬黒達に今回の事件が発覚した。
撃たれた教師は生死をさ迷うほどの重症らしい。
騒動すぐ黄緑は駆けつけ、青春がいないことを瞬時に見抜き、生徒達を問いつめた。そこで初めて警察や学園側も青春が誘拐されたことを察知したのだ。
ぶちギレた黄緑が暴走するかもしれないと、冬黒と秋葉が抑えつけ、とりあえず秋葉宅で情報整理をすることとなった。
抑えなければ見捨てた生徒達を殺しかねないと二人は思ったから相当必死に彼女を連れ出していたもよう。
「情報整理とか……どうでもよくない……?早く、早く早く早く!青くん助けに行かないと!」
黄緑はあまりにも冷静さをかいていた。はらわた煮えくり返り、冷たい表情と声で今にも暴れ出しそう。
「夜中まであらあらお姉さんになる練習してなければ、授業中に爆睡せずにすんだのに……。そしたらこんな事には……あーもう!早く助けに行こうよ!」
「もちろん救出には行きますよ。でも、どこにいるかわからないでしょ?尾浜さんからの連絡を待たないと」
冬黒は宥める。どこにいるかもわからないのに救出もクソもない。落ち着けと何度も黄緑を落ちつかせようとしていた。
「こうして、待ってる時間が惜しくない……?もし拷問とかされてたら……。しらみつぶしに本拠襲って全員皆殺しにすればいいんじゃない?情報吐かせてから……」
静かなヤンデレ的な怒りが恐ろしい。本気で全員皆殺しにしかねない、冬黒は肝を冷やす。
それだけ青春が黄緑にとって大事な存在なのかと理解する。
「でも叔父さん連絡こないでござるね」
秋葉が待ちくたびれたようにもらす。
冬黒もそれは感じていた。情報事態は自分よりも先に伝わっていたはず。いや、教団にいたのだからもっと早く知った可能性も高い。まだわからないにしても連絡の一つくらい残すはず……
「まさか、何かあったのだろうか……?」
「もう、いいよ」
目からハイライトが消えた黄緑が立ち上がる。
「奴らの本拠、全部教えて?敵から吐かせればいいんだから」
「……こうなれば、仕方ないですかね。事は一刻を争いますし」
「クラスメイト連中からどの方向に逃げたか吐かせよう。まずね。……もし通報すらしてなかったらクラスメイトも同罪にするとこだったわよ。ふ、フフフ」
あまり恐怖を感じない冬黒ですら、寒気がした。
夏野黄緑の怒りは最高潮。教団を壊滅させても収まらないかもしれない。
青春救出のため、三人は行動を開始した。
――つづく。
「青くん心配……教団潰す潰す潰す潰す。上墨とかいうカスは念入りに殺す他三人も殺す……」
「次回 青春の行方。まず近くの信徒共を……」
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