第37話  最悪の集団

 上墨が教室内に入ると、教師と生徒達は騒然とした。当然の事だろう。見知らぬ謎の男がドアを突き破って入ってきたわけだから。

 続けて下納、右堂も入ってくる。


「な、なんだお前達?じゅ、授業中だぞ?」


 うろたえながら、担任のマッチョ教師が三人に聞いた――が、


「うるせえ」


 上墨は背中に背負っていた猟銃のような物を教師に向け、躊躇なく発砲!

 衝撃で窓際の壁に吹き飛ぶ教師。下腹部からは多量の出血……弾丸は貫通していた。


「「きゃあああああああ!!」」


 生徒達の大絶叫が教室全体に響き渡る。

 無理もない。目の前で発砲され、教師が撃たれたのだから。

 教師は気を失っているが……まだ息はあるように思える。


「うるせぇ!!がたがたわめくと!こいつみたいに撃ち殺すぞ!!」


 上墨の脅しに、生徒たちは皆口をふさぐ。

 恐怖のあまり、泣き出して震えてる者も多い。


「上墨、いきなり撃つなバカもんが。結界が間に合わなかったらどうするつもりだったんだ」

「その言い方やと、間に合ったんだろ?ならいいじゃねえかよ右堂さんよ」


 結界とは、この教室内の罵詈雑言全てを遮断するというもの。カオルコに渡された杖、それを教室に差し込むことで結界は貼られたのだ。

 あらゆる音の遮断。それはつまり、今この教室で起きてる出来事に隣のクラスの教師や生徒は気づかないということになる。なぜなら何も聞こえてないから。

 よって、邪魔者に気づかれることはなくなるわけだ。


「……で、どいつが闇野青春?」


 上墨が震え上がる生徒達をざっと目文する。


「青髪で、たしか背の低い面のいいガキだっけ?……どいつだよ」


 この場の全生徒を確認するが、そんな特徴の少年はいないと気づく。


「おい、クラス間違えてねえよな右堂さんよ」

「間違いない。だがいないとなると……?」

「ガキども、教室の角っこに集まって座れ。しないと撃ち殺す」


 上墨は生徒達を脅し、逃げられないよう窓際に集めた。

 生徒達は恐怖で失禁するものもおり、まともな精神状況なものはほとんどいなかった。ゆえに皆素直に指示に従い移動した。


「闇野青春はどこだ?誰でもいい。答えろ。言わないと端から順に撃ち殺す」


 生徒達に銃を向ける上墨。すると、


「せ、先生の!授業に使う用紙!と、とりに職員室に!」


 一人の少年が涙ながらに答えた。

 この状況で青春不在。最悪のタイミングだった。

 彼がもしこの場にいたら、こんな状況にならなかったかもしれない。青春なら、すぐに四人の存在に気づき、行動できたはずだからだ。


「なら、待とうではないか。いい人質もできたことだしな。見張りもいらんな。左井川も入ってこい」


 右堂は薄気味悪く笑い、左井川も教室に招く。


 ――そして、唯一この状況にビビらず、どうすればいいか冷静に考えてる女の子がいた。

 桃泉和花だ。彼女は青春と行動を共にしていたから、それなりの度胸がついていたらしい。


(青春くんが狙い……何者なのこいつら。奴隷三人と協力して……)


 余談だが、黄緑が奴隷扱いしてる、青春を過去にいじめた三人の事、和花も奴隷呼ばわりしていた。彼女もいじめられてたし仕方ない。


(あ、茶谷の奴は休みか……つかえないんだから)


 茶谷は教団に青春の事を吐いた。今日この日、何が起きるか想像に難しくない。故に彼は家で震え、引きこもっているのだ。

 彼自身、自己嫌悪には陥っている。下手すれば生徒みんなが殺されてしまうかもしれないから。



 ♢



「失礼しました」


 ペコリと職員室から出ていく青春。教師はその様子を見て手を振ったものもいた。女教師にはわりと評判がいいのだこの子は。


「……しかし、なんで僕が取りにいかなきゃいけないんだろ」


 担任にパシられたのが少し納得いっていない様子の青春。あのマッチョ教師は青春が個人的に気に入らないから、こういうことするんだろうと、青春もなんとなく理解していた。

 まあ、自分は愛想ないからな……と、当人は仕方ないかと思っていたりする。

 理由としてはそうではなさそうなのだが。


 ――教室近くまで戻ってくる青春。すると、なにか異変を彼は感じる。


 別に物音も、なにも聞こえてはいないのだが。


 ――いや、むしろなにも聞こえないことこそ怪しい。今は授業中だ。教師の声がなにも聞こえないのはおかしい。テスト中でもないのに。


 青春はそっとドアの近くに耳を寄せる。やはりなにも聞こえない。

 黄緑を呼ぼうか迷う。だが、どことなく、事は一刻を争う……そんな予感がした。


 ……意を決し、ドアを開け、勢いよく中に飛び込む!


 青春の目に飛び込んできた光景は、見知らぬ四人組、撃たれ死にかけてる教師。

 そして今まさに銃口を向けられ撃ち殺されそうになっている和花と奴隷二号三号の姿だった!


 青春はナイフを射出!上墨の猟銃を弾き飛ばしてみせた!


「なにぃ!?」


 驚く上墨のスキをつき、飛び蹴りを奴の顔面にお見舞い!勢いそのままに上墨は窓に激突した。

 青春はすぐさま猟銃を確保し、和花の前に守るように立つ。


「桃泉さん、これは?」


 状況説明を要求する青春。

 和花はすぐさま話す。


「青春くんを狙ってみたい……」

「……僕を?」

「うん。それで、人質は一人いればいいって……来る間に暇潰しと称してみんなを撃ち殺そうとしたから、あたしとこの二人で抵抗しようとしたら……」


 よって、この三人が邪魔者として撃たれそうになったのだろう。なかなか無茶をする……そう青春は思った。


「いやいや、君はかわいいから殺す気ぃなかったで~?」


 上墨は卑しく笑う。和花は気味悪くゾクッとする。


 ――その時、逃げるチャンスと思ったか、一人の女子生徒が悲鳴をあげながら走り、閉められたドアに走る!――が、上墨が先回りして、ドアの前に立ちふさがった。


「逃がさねえよ。ってブス女か~失せろ」


 上墨はその女子生徒の顔面を蹴り飛ばした!転がるように吹き飛び気絶してしまった。


「お前!」


 青春はぶち切れた。なんの罪もないクラスメイトが理不尽な暴力をふるわれた。彼にとって、許せない出来事だった。

 ナイフを数十本射出!――しかし、上墨はどこからか取り出した長い棒を回し、全てはたき落とす。


 青春は構わず特攻!返り討ちにしようと構える上墨だが……

 ドスっと、鈍い、刺さる音が響く。自らの肘、足首、肩にナイフが刺さっていたのだ。

 見えないナイフだ。痛みに怯む上墨。まさにスキだらけ。

 そのスキを――つく!青春の飛び蹴りがまたも上墨の顔面にクリーンヒット!ドアを突き破り、教室から吹き飛んでいった。


 追撃する!青春はここで上墨を再起不能にしてやろうと動いた。

 しかし!右堂が動く!

 屈強な自らの身体で上墨を守るように青春に立ちふさがり、彼の拳を全身で受ける。


「末恐ろしい坊っちゃんだな。この細腕のどこにこんな力が……一割程度の魔力とは思えないねえ」


 青春は素手で倒せる相手ではないと判断し、ナイフを手に切りつけにかかる。

 対する右堂は両腕に鉄甲を装備し、迎え撃つ。

 青春の斬撃の雨、右堂の拳の乱打が乱れ舞う!


 青春は察する。


(……できる。こいつらただ者じゃない!)


 いかにしてみんなを守りつつ倒すか……そう考えてる時だった。


「待ちな僕!」


 背後からの声……右堂から距離をとって振り替えると……

 下納に首を絞められそうになってる和花の姿が!

 青春は敵を近寄らせないよう配慮して戦っていた。しかし、青春を助けようと和花は自主的に動いてしまっていたのだ。よって、捕まってしまった。

 役にたちたい和花の気持ちがあだとなった。


「わかるよね僕~?」

「……」


 これではどうしようもない。そう思ったとき、まさかの追撃の言葉が青春を抉る。


「闇野!早く捕まれよ!」


 一人の生徒が叫んだ。続けてほかの生徒も涙ながらに叫びだす。


「お前が狙われてるせいでこうなったんだぞ!お前のせいだ!さっさと捕まって出てけよ!!」

「そうだそうだ!死ぬならお前だけ死ねばいいんだ!」

「余計な事すんな!」


 クラスメイトの男子達の、心ない言葉が青春の心をえぐった。

 

 この状況、恐ろしいだろう、怖いだろう。だから気持ちはわかる。……でも、青春はみんなのために動いていたのに非難された。

 中一の少年である青春にはあまりにもショッキングな出来事だった……

 なんで、僕が責められるんだ?と……

 悪いのはこの四人組、自分に罪なんてないのに……



 ♢



 そんな状況の一方、黄緑は授業中に爆睡。そして都合の良い夢を見ていた。


「あ、青くん~エッチ~もう結婚するしかないよ~エヘヘ~」


 

 ――つづく。


「ちょっと何寝てんのワタシ!!青くんのピンチだよ!気づけ!」


「次回 青春誘拐事件。は、はあああ!!あいつら殺す!!」

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