第36話 学園襲撃事件
「闇野青春は昼間に力を出せない。となれば日中彼を捕らえればいいわけですわ」
カオルコは、妖魔王一兎に言った。一兎は顎に手を当て、見下ろすように問う。
「そう簡単に行くのかい?奴もその弱点は百も承知のはずだろう?」
「でしょうねん。だからこそ、それなりの作戦は考えておりますことよ。――入りなさい」
カオルコが指を鳴らすと、部屋に四人の人間が入ってくる。
「狂信四天王。我が共信党の幹部ですわよ」
「とはいえ人間。ただの人間に、サイクロプスらを討伐した闇野青春を倒せるとは思えないんだがね」
一兎は四人の実力に疑問があるようだ。午前に襲うというアドバンテージを鑑みても、いささか力不足と思われてるようだ。
「彼らは並みの人間では考えられないほどの身体能力に、魔力を持つものもおります。その上に、」
カオルコは、自らの座る豪華絢爛な椅子の裏からなにかを取り出す。それは剣や槍、斧、銃といった武器の数々であった。
「これらはすべて魔力を秘めた武具。魔力で劣っていても、闇野青春に傷をつけるには充分すぎる代物ですわ」
一兎は武具の一つを手に取り、魔力を肌で感じとる。
「魔具か……なるほどね。かなりの代物ではないかい。どこでこれ程のものを……」
「信者共から提供されたものなので出所はわかりませんわ」
「ふん。世界各地に信者を持つ共信党ならではだねえ」
一兎は片手をあげる。すると影から数体の妖魔が現れる。
「我が配下だ。妖魔契約を結び、そこの四人をさらに強化させるとしようか」
「ありがたきお言葉ですわ。必ずご期待に答えさせて頂きます」
カオルコの言葉の後、一兎は影の中に入るようにして、この場から姿を消した。
残された妖魔たちは、指輪に姿を変え、地面に転がった。
この指輪をはめれば妖魔契約となるのだろう。
妖魔契約……おそらく人間が妖魔から力を得る契約。
サイクロプスと和花が結んだ契約とは別の。
※学園に潜む妖魔編参照。
青春が妖猫ヒルダとしてる契約と同じものと考えられる。彼はヒルダの力を手に、戦っていることから察せられる。それは黄緑も同じこと。
四天王の一人、長身で肌が浅黒く、チャラそうに耳と唇にピアスを開けた男が指輪を拾い、くるくる回す。
「たかがガキでしょ?そんなまどろっこしい事せずとも、寝込みでも襲えばええでしょうに」
舐めた態度を取るこの男の名は上墨。カオルコはため息ついて呆れる。
「ホントバカね上墨。夜に力を得る子の寝込み襲ってどうするの。返り討ちに合うだけ。寝てるときにもスキなんてないでしょうしね」
「教祖さん、そうは言うけどプライドってのもあんの。ガキ相手に作戦練るとか、力出せない時を狙うとかよ」
「寝込みなんて話出す時点でプライドもへったくれもあるもんですか」
「それは楽に仕留めれるって話だからよ」
ああ言えばこう言う上墨に嫌気がさし、カオルコは話を変える。
「とにかく、四天王のあんたたちは、闇野青春をわたくしの元へ連れてくればいいの。決行は明日の朝、どんな手を使ってもかまわないけど、」
「けど?」
「写真で見たのだけど、わたくし好みの綺麗な顔をしてたわ。よって顔だけは傷つけないようにね」
始末する相手なのでは?という疑問を浮かべる四人だったが、口には出さず頭を下げた。
どちらにせよ、その場で殺すわけではないのだから。
ちなみにこの四天王は、教団の信徒ではない。金で雇われた選りすぐりの暗殺者だ。
人間の中では敵がいないと称される無法者。
下納は紅一点。前髪が長く、目元すら見えないため容姿がわかりづらい。わりと小柄。
左井川は両目が白く、近寄りがたい雰囲気を醸し出す男。
右堂は四人中一番体格のでかい大男。そしてこの中のリーダー格だ。
右堂が口を開く。
「我々としては、報酬さえ頂けるなら、どんな命令も速やかにこなしてみせましょう。相手が子供だろうと容赦はしない」
「そうそう!」
汚く笑う上墨。
「男だろ?ガキだろうが関係ねえよ。拷問するくらいボコボコにしたるわ」
「あんたは女でも美人以外容赦しないカスでしょ。それに、教祖さんの命令は生け捕り、顔に傷つけるのも禁止言うてはるでしょ」
下納は呆れた様子を見せた。
上墨はつまんねーのと不服そうな表情を見せる。
「そういや、山田の爺さんも奴らに殺られたんだよな?」
「妖魔かその男の子かどうかは知らへんけどね」
「しゃあねえ、敵討ちしようかねえ。まあまあ気があったし。ねえ教祖さま?」
上墨がカオルコに聞くが……
「山田?……誰それ」
首をかしげるカオルコ。……完全に記憶にない。そんな様子だった。
そもそもカオルコは信徒の顔などほとんど覚えていない。周囲に侍らせてる顔のいい男達以外、どうでもいいからだ。
信徒には、自身に面会に来るときはまず、名乗るよう言いつけてある。このように覚えていないからだ。
先ほどの茶谷父のこともいちいち覚えていない。
そんな教祖になぜ従うか?
まず、カオルコのカリスマ性、美貌に魅了された者。カオルコの特異な能力に救われた者などだ。
茶谷父は後者だった。特異な力により、妻の病気を直し、共信党に忠誠を誓わせた。
最初こそそこまでの忠誠心ではないものの、気づいた頃には本人の意図かどうかに限らず、洗脳されたようにカオルコを神様のように崇拝するようになってしまう。
カオルコの能力なのか、一兎の能力なのかはさだかではないが。
無論信徒にカオルコがなにか褒美を与えることなど稀。覚えていないことからわかるように、信徒など、ただの手駒、雑兵にすぎないから。
それがわかってるからか、この四天王は極力カオルコに関わらないようにしていた。
全員は内心カオルコに恐れを抱いていた。
♢
狂信四天王は朝に青春を捕らえる算段だが、あえて家には襲撃しなかった。
なぜか?それは彼自身、弱点のことは宣告承知。朝狙ってくる相手など読めているはず。故に対策の一つでも取っていておかしくない。
両親を人質にするといったことも無駄だろうと考えていた。
ならどうするか?
右堂の考えはこうだった。
「学園を襲撃する」
「あん?なんで?人目につくじゃねえかよ」
「それゆえに、奴の油断があるはず。基本朝は警戒心の塊だろうし、下手な不意打ちなど通用せんはず」
右堂の目論見は合っている。
青春は朝、家、両親に対する対策は万全をきしている。この四人が何をしようと無駄なほど完璧に。
しかし学園内だとどうだ?
人目につく。生徒や教師も多いから怪しい奴の出入りなどすぐにわかる。それゆえにわずかな油断があると読んだのだ。
――そして、
「果たして、全校生徒や教師、守りきれるかね?」
右堂は関係ない人達を巻き込み、青春を捕らえるつもりだった。
奴は青春が甘い人間と聞いていた。それゆえに、関係ない人物が自分のせいで巻き込まれ、死ぬような事があれば耐えきれるだろうか?
上手く行けば自主的に捕らえる事も可能と右堂は考えたのだった。
「虹色学園襲撃……まず最初は隠密に、そして闇野青春の教室に進行した瞬間作戦を開始する」
――授業時間。
グラウンドにも、廊下にも
用務員やわずかな教師の目を欺くくらいなら、奴らにとっては造作もなかった。
そして、なんの障害もなく、四人はあっさりと青春の教室前に辿り着いてしまった。
「よし、左井川は見張りをしておけ。行くぞ」
上墨が教室のドアを蹴り飛ばし、三人はクラスに侵入してしまった……
――つづく。
「え、これ……ピンチ!?中等部に行って助けに行かないと青くんが!」
「次回 最悪の集団。ホントだよね!なにかしたらぶっ殺す!」
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