第33話 青春の姉
尾浜達が所属してる組織に、青春の姉がいたかもしれない。あまりにも想定外な話が出てきていた。
「僕の姉さんが?なんでそう思うの?」
青春の疑問はもっともだった。
何故なら姉は、記憶や存在全てを喰らいつくす妖魔、四鬼に喰われた。それにより、姉の存在はこの世から消え去り、全ての人の記憶から消え去ってしまったのだ。
仮に組織に所属してたとしても、青春の姉がいたという事実も皆が忘れてるはず。
なのにいたかもと思えるのは何故か……?
「根拠1」
冬黒は口を開く。
「組織は基本二人一組で行動する。でも自分は赤里さんと組む前、一人で行動してる記憶しかない。妖魔相手に一人で挑むことは禁止されているのに」
つまり相方が四鬼に喰われた事で、一人で行動してる記憶しかなくなったと冬黒は言いたいのかもしれない。
「自分も四鬼を追っていてね、だから奴の特性は理解しています」
だが、その相方が青春の姉とは限らないはず……
「根拠2、自分は闇野青春、君を知っていた」
青春は首をかしげる。何故なら二人に面識はないから。これに関しては四鬼に喰われる喰われないは関係ない。二人は四鬼に喰われてないのだから。
「互いに会ったことはないですよね?同じ学校とはいえ、クラスは違い、君はあまり目立つタイプではなさそうですし」
部活には所属してないし、委員会も違う。それなのに冬黒のみ一方的に知ってるのは不自然と思ってるらしい。
ちなみに黄緑はこんなにイケメンなのに目立たないとか嘘でしょと思ったが、話の腰を折りそうなので珍しく黙っていた。
「なぜ知ってるか、自分自身わからないんです。考えられるとしたら、失った相方から聞いていたとか……」
「僕の事をどこまで知ってるの?名前くらいなら別に聞いたことあってもおかしくないし……」
「
急に青春の趣味嗜好を語り出す冬黒。怪訝な表情を見せる青春。
「それくらいなら、調べられる範疇でしょ」
確かに、姉でしか知り得ないなんてほどの秘密ではない。
ならばと、さらに続ける冬黒。
「小学校はずっと一組。幼い頃はよく女の子と間違われ、近所の人からは未だにちゃんづけで呼ばれてる」
眉がピクリと動く。事実のようだ。しかし、まだそれでも……と、思っていたら。
「好みの女性はあらあら系の優しいお姉さんタイプ。さらに胸が大きければ特に……」
「ストップ!」
青春がわりと必死な形相で止める。無表情な彼が珍しく慌てている。図星ということだろうか?
はっとする青春。皆の視線を感じる……。
これ程動揺すれば、真実だと言っているようなものだ。冷静になれと……
「ちなみに好みのタイプの由来は当時通ってた幼稚園の先生……」
「わかったって!」
さらに続けようとした冬黒に少し怒りの表情を見せる。
だが、すぐに冷静さを取り戻し、咳払いする。
「まあ、その……うん。それだけ知ってるのなら、あり得るのかもね。君の相棒が姉さんだと」
青春は顔が真っ赤になっていた。
「失礼、遊びが過ぎました。なかなか信じてもらえなかったものでつい……」
冬黒は頭を下げた。ちゃんと謝罪できる男なのかと少し意外に思った青春。
秋葉が軽く冬黒の頭を小突く。
「めっ!でござるよコーリちゃん!」
「だから謝ったじゃないですか」
どことなく気安い仲に思える。どういう関係なのだろうか?
そうしていると家のチャイムが鳴り、おじゃましますの声が聞こえた。誰かがやってきたらしい。
「すいません!遅れました!」
息を切らせて秋葉宅に入ってきたのは桃泉和花だった。尾浜が彼女も呼んだと言っていた。
和花は青春に笑顔で挨拶し、秋葉と冬黒に気づく。二人はまだやいのやいの言ってたため、先程の疑問をかわりに口にしてくれた。
「秋葉先輩、冬黒くんとはどんな関係なんですか?」
「え?近所の子……幼なじみみたいなものでござるよ~」
秋葉は高三、冬黒が中一ならわりと離れた幼なじみだ。
「家族ぐるみの付き合いあるから、よく面倒見てたでござるよ?オムツ変えてあげたことも……」
「ストップ」
立場逆転。今度は冬黒が辱しめられることに。
「ギャースカ泣くコーリちゃんをあやした事もあるでござるな~おもらししてるとことかも」
「ちょっと、赤ん坊の時の話でしょうが」
「赤里ちゃん赤里ちゃんってトテトテついて回って可愛かったのに、今じゃこんなにひねくれて……お姉ちゃん悲しいでござるよ」
「誰がお姉ちゃんですか。あんたなんて、急にオタク化したと思ったら周囲にBL布教なんてことして人に迷惑かけてるくせに」
「あんたって!そんな呼び方ないでござるよ!それに素晴らしいものを布教して何が悪いでござるか!」
「それに自分が巻き込まれて、着せ替え人形扱いされたり、売り子させられた恨みは忘れてないので」
「幼馴染の頼みに恨みとか!悲しいでござるね!」
やいのやいの大騒ぎ。
話が進まない……
「仲いいんですね〜」
和花は和やかに見てる。まあ、そう見えなくもないのだが、少しズレてる。
くるりと青春に視線を動かし、また微笑む和花。以前の彼女と考えたら嘘のように積極的に見える。こんなに笑う子ではなかったし。
妖魔との一件で度胸でもついたのかも。
「青春くん。所でお姉さん、今日はおとなしいね」
その言葉にハッとする。そういえば、やけに静かだ。今は重要な話をしてるわけでもないのに。
黄緑に視線を移すと……?
「青くんの初恋青くんの初恋青くんの初恋青くんの初恋青くんの初恋青くんの初恋……」
ヤンデレ化していた……
小声で連呼していて恐ろしい……
目がハイライト当たっていない……
「羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい羨ましい……嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬」
「あ、あのさお姉さん。幼稚園の頃の話だよ?」
幼い時の淡い初恋くらいあるでしょ?という態度。――しかし、
「ワタシの三次元の初恋は青くんだよ?」
ニヘラと笑う。……怖い。
「青くん、じゃあそのメスのこと、もうなんとも思ってない?」
その問に対し、青春は少し黙ってしまう。すぐに肯定するべきだとは自分でもわかっていたのにだ。
青春は視線をずらし、言いづらそうに答える。
「未だにあ、憧れてはいるけど……」
嘘はつけない性格なのかもしれない。黄緑に対してだからなのかは不明だが。
「青くんに未だに想われてるとか……許せない許せない許せない。嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬」
「いや、でもすごいイケメンの旦那さんいるから、フラレてるようなものだよ?」
「……青くん傷つけたってこと?」
どないすればええんやという気分になることだろう。想われてるのも振るのもだめとは……
「ちなみに旦那ってどんな人?」
「どんなって……線の細い感じの……」
「それでイケメンって、青くんみたいじゃん……。気に入られてて会えば過度なスキンシップとかされてるんじゃないの?」
「……未だに撫でられたりはするけど」
「よくあるおねショタ漫画とかみたいに、油断したら喰われるんじゃないの?」
「く、喰われる?何言ってるの?」
瞳孔が開き、消えたハイライト。完全にヤンデレ化した黄緑は青春の肩を掴む。
「その前に……ワタシが!!」
「ストーップ」
黄緑は赤い鞭のような物に縛られる。
驚愕する黄緑。鞭の先を見ると、秋葉の姿がある。どうやらまた人格交代したようだ。これは彼女の能力。血液を鞭に変換し、黄緑を縛ったようだ。
「話は終わってないでしょ?そういうのはウチの家ではやめてよね……でござる〜」
そもそも話が進まなかったのはそっちのせいだろと思う青春だった。
黄緑はやろうと思えば鞭をちぎれる。だが、なんとか耐えて冷静さを取り戻そうとする。青春の邪魔はしたくないという彼女の愛ゆえの行動だ。……我慢の限界は近かったが。
ちなみに黄緑はヤンデレ属性を手に入れた。
軽く咳ばらいする冬黒。
「話を戻すと、自分が書いた組織の人員名簿……そこにこんな名前もあったんですよ」
スラスラと紙に何かを書き記し、青春へと見せる。
「
――つづく。
「青くんに想われてるとかね〜許せないよね〜まあそのメスが出てくることはないだろうけどさ……」
「次回 依頼とスカウト。ワタシと青くんスカウトする気?青くんのOK次第かな」
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