第34話 依頼とスカウト
「
四鬼によって存在が消え去り、誰の記憶にも残っていない青春の姉。それゆえに名前を聞かされても、それが本当に姉の名前かどうかわかるはずはない。
だが、青春はその名前を聞くと……どこか、懐かしい気分になる。心が安らぐ……
「闇野という名字は珍しいですし、名前も春がつくことで君と共通点あります」
青春の母、巳春は自分の春の字から名前をとり、彼に名付けたと聞かされている。となると、姉も同じく春の字が入ってる可能性はある。
父親はあまり発言権ないため、名付け親が母親の可能性は大きいと青春は思う。
ちなみに両親の仲は良好だ。
「その人物が誰かと思っていた時でした。学園に隠れ潜む妖魔の存在を知りましてね」
学園の妖魔……青春は察する。
「調査に向かうと何者かに討伐されていました。200年も生きた怪物だというのに」
やはり、青春が2ヶ月前に倒したサイクロプスの事だった。
それがきっかけで自分の存在が彼らに露呈したのだと納得する。
「誰が殺ったか慎重に調べましてね。先日に闇野青春、君だと判明しました」
「……」
「闇野春火と同じ名字、そして四鬼を追っているとの情報を得て、確信したんですよ。自分の相棒、闇野春火は四鬼に喰われ、我々の記憶から消えたのだとね」
「四鬼の事、詳しいの?」
青春にとって四鬼は仇だ。冬黒達が奴に詳しいというのなら、その情報は手に入れておきたい。
もしかしたら自分よりも、奴の事を知っているかもしれない。なにせ青春個人と違い彼らは組織。一人と多数では持ってる情報に差があるかもしれない。
「さほど詳しいというわけではありません。……ですよね?」
冬黒は尾浜に話を振る。
「そうだねえ~何もかも喰っちゃうって事以外は特に……」
尾浜は頭をかく。少し申し訳なさそうに。
つまり自分の持ってる情報と大差はないという事かと、青春は落胆する。
「ちなみにですけど闇野、君は四鬼の情報をどこから?」
「……それは、」
わずかながら残っている四鬼の記憶と……
「四鬼の事がかかれた文献かなにかだったりします?」
冬黒の問いにギクリとする。
自宅に置いてあった謎の文献。それは数多くの妖魔について記されていた。
何故こんなものが家に?最初はそう思った。だがすぐ理解した。これは姉の所有物だと。
姉は今の青春のように人知れず妖魔と戦っていたのではないかと察した。
「それ、組織の所有物なんですよ。おそらくお姉さんの春火さんが持ち出したものでしょう」
組織の所有物を持つ。さらに姉が冬黒達の仲間だったという証拠になりそうだ。
「別に返す必要はないです。ただ……」
冬黒は言葉につまる。
見かねた尾浜が代わりに口を開く。
「闇野青春くん、夏野黄緑さん。オイラ達の仲間になってくれねえかな?」
深々と頭を下げだした。
「危害加えておいて何言ってんだって思うだろう。でも二人のその強さが組織には必要なんだ!」
尾浜が必死の懇願。冬黒も続けて頭を垂れる。
青春は少し呆気にとられている。黄緑は無反応。
悪い人たちではないかもしれない。青春は直感だがそう感じる。しかし、組織そのものは別だ。何も知らない、聞いたこともない組織にくみすることなどできやしない。
だからまず聞いてみる。
「組織ってなんなの?」
「妖魔特別対策部署。……要は警察の妖魔専門部署さ」
「……警察?」
あまりにも意外すぎる事実だった。独立した、人知れず行動してる組織かなにかだと青春は思っていたからだ。
「と、言っても普通の刑事とかがそこに配属される事はまずないし、独立した組織みたいなもんだけどね。いろいろやりやすくするために警察名乗ってもいい許可もらってる組織みたいな?」
「……?」
「大昔に警察に協力してた別組織が吸収されたとかなんとかって話さ。詳しくはオイラも知らんよ」
組織が出来た馴れ初めなんかどうでもいい事。とりあえず警察だって事だろうと納得する青春。――しかし、
「警察なのに猟奇殺人鬼の事件、妖魔に仕組まれたって気づけず放置してたの?」
先日の妖魔達の話だ。
警察なら犯人の事情聴取もするだろうし、犯行現場も調べるはず。それなのに長い事気づかなかったのか?そう青春は言いたいのだろう。
尾浜は苦笑いする。
「いや〜その点については面目ないというかなんというか……ただの事件だろうと、オイラ達の部署は調査に出向いてなかったからね」
「あの日、現場に現れた理由は?」
「オイラが潜入捜査してる教団が、君の存在に気づき討伐命令出したからだね。ついでにあそこの妖魔と手を組んでたと知ったのはその時初めてだったんだ」
つまり青春があの日現場に来たからってだけのようだ。
「疑い晴れたのならさ、考えてもらえないかな?仲間になるの」
「僕もお姉さんも未成年ですよ?それに警察ってそんな簡単になれるもの?」
「まあ、正式な警察ってわけじゃないからそこら辺は適当で」
適当って……それ大丈夫なのかと不安になる。
「でもうちに所属して、二人とも働ける年齢になったらさ、世間的に警察に就職したと言えるよ?警察内部の組織だからね!面倒な学校とか試験とか受けなくていいんだぜ」
面倒って、警察として働くために必要な事でしょうが……と、半ば呆れる青春。
「将来的には警察に、それに今から所属するなら当然給料も払うよ。警察の初任給くらいはね」
なかなか魅力的な話だろう。
将来の就職先斡旋、お金ももらえる。仕事内容はすでにやってる妖魔退治。
断る理由はあまりないように思える……
だが、
「今の話が全部嘘の可能性もあるし、そう簡単には信じられないかな」
青春は冷静だった。簡単に餌に釣られる魚ではなかった。
尾浜は落胆する。そして納得してるようにも見える。
「やっぱりこの前の戦闘が余計だったかあ。全くクソ上司達のせいで」
上司命令で仕方なく青春達の力を試した。そのせいで信用はマイナス。小言の一つ言いたくなるのも当然だろう。
「嬢ちゃんも同じだよね?」
念のため黄緑にも問う。
黄緑は秋葉の鞭に縛られていたのだが、今力づくでちぎる。
そして青春にひしっと抱きつく。
「うん。ワタシは何があっても青くんの味方だし、意見を尊重するもん」
それは言うなれば、青春が所属するというのなら、黄緑も入るという事になる。
ならば青春に信用してもらう事が一番だと尾浜は思う。
「ならさ、一度仕事を手伝って見ないかい?」
「仕事?」
「ちょうど妖魔関連の仕事あるんだよねん。妖魔退治なら、捨て置けないでしょ闇野くん」
痛いところをつくおっさんだなと青春は思う。
彼にとって、妖魔は捨て置ける存在ではない。四鬼かどうかとかは関係ないのだ。
妖魔によって苦しんでる人がいたら助けたい。それに倒した妖魔はヒルダの血肉になる。
消滅した妖魔の魔力は自動的にヒルダの元に向かうようになっているからだ。
どちらにせよ四鬼討伐にはまだ力も足りないから、余計捨て置ける事ではない。
「仕事内容はオイラがスパイしてた供信党殲滅計画。奴らは他にも妖魔と組み悪事を働いている。そしてトップの教祖は、ある妖魔につかえてるって、話でね」
「妖魔に、人間が……?」
人を従える妖魔など今まで聞いたことなかった。
いや、妖魔と戦う組織があることも知らなかったのだ。少ない自分の見識では聞いたことないのもおかしくないのかと納得する。
組織は尾浜が真実を言ってるならの話だが。
一通りの話を終えると、今度は冬黒が頭を下げて頼み込む。
「自分達が怪しい素振り見せたら殺しにかかっても構わない。だから協力してもらえませんか?」
青春に殺されるリスクをおいつつも、協力を頼む彼らに邪気は感じない。……信用してもいいのかもしれない。
――だが、青春には気がかりなことがある。
「……皆さんを殺してもいいってのも嫌だけどさ、教団って人間中心組織でしょ?教団の悪人はどうす、」
「殺していい」
「――!?」
「許可は出てるし、殺しても罪には問われない。妖魔と共に悪事を
……それは中学生の少年にとって、あまりに重い依頼だった。
――つづく。
「というか大人でもキツイでしょ。悪党とはいえ人を殺すのは。あー青くん心配~お姉ちゃんがついててあげなきゃ!」
「次回 闇野青春の弱点。き、気になる……ワタシだったりする?」
違う。
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