教団殲滅、妖魔王一兎編
第32話 尾浜達の目的
前回までの闇夜の少年挽歌。
猟奇殺人鬼のニュースを見た青春は、その事件の裏に妖魔の影を見た。
事件現場にて大量の妖魔が根城にしており、ボスもろとも無事退治に成功。
しかし、共信党と名乗る教団に属する尾浜なる人物と、黄緑の先輩秋葉、謎の少年冬黒と一悶着起こす。
戦う事になったが、青春は無事勝利したのだった。
ついでに青春は黄緑にくちびる奪われた。
◇
騒動の後、ある事情で気を失ってしまった青春。(黄緑のディープキスのせい)
目を覚ますと彼は黄緑宅にいた。彼女が連れ込んだらしい。
あの三人とは現場で別れ、後日謝罪に来るとの事を黄緑から伝えられた。そして話を聞いてもらいたいとも言っていたらしい。
山田の爺さんは青春の命を狙っていたが、尾浜達はまた別の目的があるようだった。
共信党なる組織とは別件の話なのだろうか?
――などと考えていた青春に対し、黄緑は不意に言う。
「青くん、泊まっていきなよ」
真顔で告げてきた。……どことなく顔が赤い。
……キスされた事で少し身構える青春。身の危険を感じないわけじゃない。
「だ、大丈夫だよ?な、何もしないから……」
ならなんでしどろもどろなのだと言いたくなる青春。
――すると黄緑は……
「お姉ちゃん、頑張ったのにな……敵の親玉倒したのになあ」
涙ぐんで同情を誘ういつもの手を使ってくる黄緑。慣れたのか、目薬も使わずに涙眼にできるようになっていた。かなりの演技派だ。
青春はやはり、女性の涙に弱いのか少しうろたえる様子を見せる。……案外騙されやすいのかもしれない。無論騙されるにしても信用してる相手に限るのだろうが。彼は人を簡単に信用する男の子ではないから。
青春は顔を赤くして、照れた様子で口を開く。
「き、キスしたじゃん。それでチャラじゃ……」
「え~?それで終わりなの~?命からがらだったんだよ?」
「うっ……」
ちなみに、ダメージは秋葉に撃たれた狙撃くらいだったし、あの程度の傷はとっくに治ってる。
黄緑の身体能力強化は自己回復能力も高まるからだ。
――つまり、命からがらなんかではない。
でも……
「わ、わかったよ……泊まらせてもらうよ。母に連絡させてね」
押しに弱い青春だった。
青春は部屋から出て席を外す。黄緑はガッツポーズしていた。
彼女の思惑通り泊まった青春は、風呂場で着替えてる最中偶然突入してきた黄緑に全裸見られたり、写真とられそうになったり、ご飯食べさせてもらったりといろいろあった。
詳しいお泊まり事情は機会があれば語る事にしよう。
※読者様のご意見しだい。
ちなみに母の紫に黄緑はやりすぎだと折檻された。
♢
ある日の夕方。青春と黄緑は秋葉の自宅に招待された。
前回の騒動の謝罪と事情を聞いてもらいたいとの事。
ちなみにそのときの秋葉はいつものオタク腐女子だった。ただ叔父の尾浜にそう言われたからと伝えに来たのだ。
やはり普段の秋葉はもうひとつの人格が表に出てる時の記憶はないもようだった。
招待された秋葉宅は普通の一軒家だった。表札に秋葉の文字も見えたから間違いない。
家のチャイムを鳴らすと、少しふくよかな女性が出てきた。
「あらあら?赤里の言ってたお友達?」
女性の質問に青春と黄緑は同時に頭を下げる。息ぴったり。
「あがってあがって」
女性の許可が出たためお邪魔する二人。リビングに通されると、すでに冬黒、秋葉、尾浜の三人がそれぞれ座布団に座り待っていた。
「おっ、まってたよん」
尾浜が手を振ってくる。青春はお辞儀するも、黄緑は無視した。
「まあとりあえず座り……」
「ちょっと則夫!!」
ふくよかな女性が尾浜に大声をあげる。
「え、な、なによ姉ちゃん……」
「あんたもお茶出すの手伝いなさい!」
「あ、いや、でもオイラ達はこの二人と話す事が……」
「大して時間かからないでしょ!!」
「わ、わかったよ……そんな怒鳴んないで」
びくびくするように尾浜はふくよかな女性についていった。
飄々とした態度が一変。明らかに頭が上がらない相手とわかる。
尾浜の姉ということは、彼女が秋葉の母親なのだろう。
「叔父上は母上に頭上がらないでござるからなあ」
秋葉はケラケラ笑っている。
今現在も、もうひとつの人格ではない普段の腐女子、秋葉赤里のようだ。
「ところでお二人は今日なに用で?いつ叔父さんと知り合ったでござるか?」
何も覚えてないというのも厄介な話だ。何から何まで話すのも面倒だし、かといって無関係というわけでもないし。
だが、黄緑にとってはそこはひとまずどうでもよかった。
まず、彼女は手のひらを秋葉の前に出してくる。
秋葉は手のひらをじっと見てから問う。
「なんでござるかこの手?」
「報酬のお金出してください」
「は!?」
「言ったじゃないですか。報酬もらうって」
※21話参照。
まさか本気だったとは……と思う秋葉。黄緑がそんな冗談言うわけはない。彼女は本気だ。
5万がどうのと言っていた。恐る恐る秋葉は聞く。
「ちなみに……い、いくらでござるか?」
質問に黄緑は両手を前に開いて見せる。ジャンケンで言うパー。もちろんパーという意味ではない。いくらか聞かれてのパー。
つまり指の数……。両手の指の数は10。ということは……
「じゅ、10万円!?ちょっと横暴すぎではござらんか!?」
金額の高さに驚愕し、思わず立ち上がる秋葉。
「横暴?いやいや。ワタシを撃っておいてそりゃないですよ先輩。これでチャラにするんだから優しいほうですよ。ね~青くん」
ウインクして青春に同意を求める黄緑。青春からしてみればこっちに振るなと言いたいだろう。
「う、撃たれた?なんの話でござる?」
首をかしげる秋葉。能力の銃で黄緑を撃ったのは別人格。よって主人格の方は寝耳に水な話なのだ。
「とぼけないでくださいよ。いたいけな乙女のワタシに銃を……」
「待った待った!」
尾浜が茶請けを持ちながら黄緑を止めに入る。
「言わなかったっけ?赤里はもう一つの人格がやったことは憶えてないんだってば」
「知らないよ。ワタシを撃ったのは事実でしょ?」
「うぐ……」
別人格だろうが、撃ったのは間違いなく秋葉だ。だから責任はあると黄緑は言いたいのだろう。
別人ではなく別人格であり、同一人物なのだから。
ただ当人はというと……
「別人格?なに言ってるでござるか?厨二病でござるか?」
なんの話か理解していない。
秋葉本人は別人格があることを知らないのだろうか?
「こっちの赤里は戦えないし、巻き込みたくないんだ。だから黙っててくれよ」
小声で拝むように頼む尾浜。姪っ子が大事なのかもしれない。ただ別人格は戦ってるようだし、結局秋葉は巻き込まれてるようなものなのだが。
「別にワタシはどっちでもいいってば。もらえる物もらえれば」
「わかったわかった!オイラが払うからさ!」
「交渉成立~」
したたかな娘だと、尾浜は思った。
「で、なんの話だっけ?」
貰う物もらえれば、後はどうでもよさそうな黄緑。元々尾浜達から事情を聞くのが目的だったというのに。
「桃泉の嬢ちゃんまだ来てないけど、とりあえず始めるか」
「は?なんでメス猫が?」
聞き捨てならない様子の黄緑。
「いや、君らと一緒にいたし、彼女も聞きたがってたからさ」
黄緑としては、青春と和花の仲が進展するのは面白くないから不満なようだ。
だが、青春が許可出してるように見えるし、黙るしかなかった。
考えてる事がヒルダとあまり変わらない。
「とりあえず、この前はすまなかった」
尾浜、それと冬黒も頭を下げた。
「上の連中黙らすためにも、君らの実力を試す必要あったんだ」
「上って、共信党とかいう教団の?」
青春が問うと、尾浜は首を振る。
「教団はオイラがスパイとして潜りこんでるだけさ。本来は別組織に所属してる。妖魔討伐を主目的としたね」
「聞いたことないけど」
「そりゃそうさ。秘密結社だしね。それに……」
尾浜は青春をじっと見る。
「君のお姉さんが、所属していたかもしれないんだよ」
「……え?」
――つづく。
「お姉さん……え、ワタシ?……冗談よ」
「次回、青春の姉。ワタシもお姉ちゃんだもん」
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