第25話  青春対赤里

 青春は、割れ目のできた空間をナイフで切り刻む。

 すると……


 大きな騒音と共に、空間が開く。


 ……そして消えた。


「え?どういう事?中に入れるんじゃ……?」


 頭の中がクエスチョンマークでいっぱいになる和花。


「別空間が壊れたんだよ。それにより、空間内にいた人達はこの殺人現場に引き戻されたはず」


 青春は丁寧に説明。

 そうなると、この先に黄緑や、妖魔の親玉も戻されたはず。


 青春は見上げる。


 そこには、崩壊しかかってるボロいビルがあった。さっきまではなかったもの。


「このビルごと、空間に移動してたってところかな?なら中にお姉さんがいるはず」


 と、青春は推測した。


「でも、敵も気づいたかもね」



 ♢



 ――黄緑side。


 青春の推測通り、秋葉達は空間を破壊されたと気づく。


「おやおや。壊されちゃったねえ~これじゃあ闇野青春がここに来ちゃうよ」


 尾浜はそう言いながら秋葉を見る。彼女はため息をつく。


「ウチが行けってことね~ハイハイ。コーリちゃんは何やってるの?さすがに一人で青っち倒すのは難しいよ?」

「冬黒は……何やってるんだろ?」


 ズルっと転けそうになる秋葉。

 芸人芸みたいなノリだった。


「なんで把握してないの!おじさん上司でしょうに!」

「えー形だけだしい、おじさん弱いからさ~お強いお二人が作戦練るべきだと思うし~」


 ……おっさんがくねくねして低い声で、ギャルっぽいしゃべり方をしだした。


 ……秋葉と黄緑はドン引きしてる。目線もやけに冷たい。


「いや、その、そんな汚物を見るような目で見なくても……ギャグだよ?そこはのらないとさあ!」

「ギャグ以前にキモい」

「ガーン!」

「まあいいや。じゃあコーリちゃん来るかもしんないし、青っち倒してくるでござるよ~」


 あえて、黄緑に目線をあわせて煽るように言った赤里。


 脳筋でキレやすい黄緑だが、あえて何も言わなかった。


(不意つかれたから攻撃くらったけど、ワタシでも倒せないような相手とは思えないし、青くんなら大丈夫。ワタシはその間にボスの面拝みに行こうかな)


 邪魔者がいないスキに、ボスの元へ向かうのを優先したようだった。


 ――でも本音は……


(ていうか、全員倒してワタシを助けに来る青くんが見たいだけなんだけどね!あ~王子様みたいな青くん……○○○ピー)


 不適切だったり、過度な下ネタ、エロ系な発言には伏せ字対応します。

 黄緑が何を思ったかはご想像にお任せします。


「山田のじいさんも来る?」


 秋葉は黄緑にボコられたじいさんに聞くが、じいさんは首をふる。


「わ、わしは小娘を妖魔に引き渡すわい」


 顎が割れしゃべりづらそうにしている……

 秋葉は言う。


「そ、来たほうがいいと思うけどなあ。ま、いいけどね」

「?」


 どういう意味か、山田のじいさんは知るよしもなかった。


 秋葉は、走って青春の元へむかっていった。

 彼女がいなくなるのを確認すると、


「なに考えてるかわからん女じゃの。二重人格な事もそうじゃし、恐ろしくも感じる近寄りがたい女じゃぜ」

「じいさま~そりゃないって。オイラにとってはカワイイ姪っ子なんよ~身内の前でそれは酷いってば」


 尾浜と秋葉は叔父と姪の関係だったようだ。


「ま、女好きのエロジジイにカワイイ姪近寄らせたくないから万事オーケーなんだけどねえ」

「ワシにも好みがあるからのう」


 二人の雑談中、黄緑はまたまたドン引きしていた。


(んだよこのジジイスケベなの?何かセクハラでもしてきたらマジで殺そうかな……)


 一応相手は妖魔ではなく人間なのだが、黄緑ならガチで殺しかねない。最低でも半殺し。

 無論触る前に殺られるだろう。素振りを見せた時点でTHE END。


「じゃあ行こうかお嬢さん。安心して、オイラが運ぶからさ」


 と、尾浜はなにかされると心配してると思って、黄緑を安心させるように言ったが、


「いや、あんたも信用できないんだけど。というか自分で歩けるし。抵抗しないからボスの所つれてけば?」


 黄緑はにらみつけて、そそくさ歩きだす。

 頭ポリポリかく尾浜。


「撃たれたっていうのに元気だねえ」


 あまり元気な様子を見せるべきではない。ボロボロのフリしないと素直にボスの所につれていかないかもしれないし。


 だが、二人は気にせずボスの元へ連れてく様子なので、問題はなかったが。



 ♢



 ――青春side。


 空間破壊後、すぐにビルに突入しようとしていたのだが……


「闇野氏~」


 ビル入り口から秋葉が出てくる。


 普段の様子で青春に話しかけたが、人格はそのままだ。

 戦闘できる人格が、主人格のフリをしてるのだ。


 おそらく、青春を信用させて不意打ちするつもりなのだろう。

 青春はまだ、秋葉が二重人格だという事は知らないわけだし、ひっかかる可能性は高い。


「……秋葉さん。お姉さんは?一緒じゃないの?」

「はぐれちゃったでござるよ!今探してる途中で……」

「……ふーん」


 どことなく、青春は目つきが悪い。にらんでるようにも見える。

 ……なぜだろうか?


「合流できたことだし、一緒に探そうでござる!」

「……なんではぐれたの?」

「えっ?」

「やけに普通にビルからも出てきたし。お姉さんとはぐれたならもっと慌てても良さそうだけど?中は妖魔だらけでしょ?」

「……」


 怪しんでいる。青春の態度で察せる。


「というかさ、わかるんだよ。はぐれる前には感じられなかった魔力がひしひしとね。……本当に秋葉さん?」


 魔力を使える人格で表に出てきたのがあだとなったようだ。

 高い魔力が、青春の不信感を加速させたのだろう。


「めんどくさ」


 秋葉は即座に真っ赤な銃を作り、発砲!

 ――が、青春は首を少し動かして避ける。


「ひゅー。不意打ちだったのに良く避けたね!」

「……誰なのあんた」

「秋葉赤里だよ。正真正銘ね。別人格だけど」

「二重人格?」

「そ、主人格は魔力使えないからねえ」


 銃をもう一つ生成する秋葉。

 真っ赤な2丁拳銃だ。

 赤いが、火属性ってわけではなさそうだった。


「ウチの銃の腕、見せてあげる」

「結構です」

「そう言わないの!」


 秋葉は銃を乱射!

 青春はまず、和花の安全確保に動く。


「ヒルダ、桃泉さんを安全な場所に!」

「「任せて青春」」


 青春の影から巨大な妖猫が顕現。

 妖猫ヒルダはすぐさま指示通り和花を拾いあげる。


「青春くん!」


 和花の叫びに、青春は口元だけ笑って見せる。

 "大丈夫"、そう伝えたいのだろう。


「猫ちゃんいない今がチャンス!」


 乱射乱射乱射!銃弾の雨を降らせる秋葉。

 青春は大量のナイフを生成し、自らの体を守る盾のようにナイフを移動させる。


 ナイフの刃が、弾丸を弾いていく。


「うっそ。マシンガン並みの弾速と連射数だってのに、そんなナイフも貫けないなんて……」


 ナイフなんて粉々になるはず、そう秋葉は思っていたのだろう。

 だが、青春のナイフは彼の魔力で作りあげた物。現実のナイフと一緒にされては困るというもの。


「お返しだよ」


 青春は、ナイフを弾丸のように飛ばし、秋葉の脇腹を掠める。


 制服がわずかにさけ、脇腹付近から血が流れる。


「痛っ!」

「すきあり」


 痛みで銃の乱射が止まる。そのスキを逃さず青春は秋葉にむかって飛び込む。


「な~んちゃって!」

「――!!」


 秋葉の脇腹から流れる血が、蛇のようにくねくね動いて、青春の体を瞬時に縛りあげる。


「――くっ!」


 縛られた状態で、青春は地に倒れる。


「驚いた?ウチの能力は血液を自在に操る能力。名付けて血操舞ブラッティダンス


(かなり強力だねコレ……)


 ロープのようになった血液はかなり頑丈。青春が認めるほど強力な能力のようだ。


 攻撃し、血を流させる度に襲いかかってくる力……厄介この上ないだろう。


「そのままおとなしくしてね。黄緑氏と一緒に連れてくから」


 黄緑の名を聞くと、目の色が変わる青春。


「お姉さん……捕まってるの?」

「そだよ~ウチにやられてね。おっさん連中に連れられ妖魔のボスのところにね」

「……」


 血のロープが軋むような音をだす。


「連れてかれて、何されるだろ?無惨なことになるかもしれないでござるねえ。おっさん達もやられてイラついてるし~そりゃあヤバい目に……」


 青春を縛っていた血のロープが、爆発したかのように、はじけ飛ぶ。


「……え?」


 驚愕の反応をする秋葉に、青春は冷たい、冷徹な悪魔のような視線を浴びせて……言う。


「お姉さんに、何かしてみろ……。全員、殺すよ」



 ――つづく。


「こ、この場にいたかった……青くんの怒り見たかった~!」


「次回 人知れずの妖魔現れる。あ、ボスやっと出るんだ」

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