第26話  人知れずの妖魔、現れる

「驚いた、ウチの血のロープをいとも簡単に引きちぎるなんてね」


 秋葉は自らの能力に自信をもっている。この能力で仕留められなかった敵は今のところ存在しない。

 組織の中でも、一名を除いて自分と渡り合えるものなどいなかった。

 ゆえに傲慢というか、自信に彼女は満ち溢れていた。


 だからこそ、今のこの光景を信じられずにいたのだ。

 そして、そのスキを逃す青春ではない。

 大量のナイフを生成し、空中へ浮かべる。射出してくると秋葉は思い構えるが――


 背後から、ナイフに刺される!

両腕、両足に2本ずつ。


「うっ!?」


 想定外の一撃。防御もしてなかったため、手痛いダメージ。

 いつの間に背後にナイフを?と思わなくもなかったが、それは一度置いておき、攻勢に出る秋葉。


 刺された事で更なる出血。血を操る秋葉にとってそれは都合のいい事。

 流れる血の量が増し、腕を守る手甲のような物を形どる。


「へえ。血をいろいろな物質に変換できるんだ」

「そう。面白い能力でしょ?結構変幻自在なんだよ?」

「あっそ」


 青春が指を弾くと、秋葉に刺さってるナイフが伸びる。

 伸びたナイフは地面に深く突き刺さる。


 ――抜けない。

 刺さってるナイフも抜けない。

 よって、両腕が動かせなくなる。


「えっ!?くっ、くっ……」


 必死に抜こうとするもびくともしない。


 ――動けなくなった相手は、青春のナイフの格好の的だろう。


「ハリネズミみたいにしてあげようか?」


 要するにハリネズミのハリの数の分、ナイフを突き刺してやろうかと言いたいのだろう。


「血を操るから致死量とかはないのかもだけどさ、心臓とか刺されたらさすがに死ぬでしょ」


 青春の冷たい発言に冷や汗を垂らす秋葉。


「ちょ、ちょっと待って……」

「待たないよ。お姉さん助けに行かないといけないからね」

「いや!実はさ!」


 秋葉が何か言いかけたその時、まばゆい光が二人を包み込んだ。


 ……まぶしい。青春は目を閉じずにはいられなかった。


 わずか数秒で、まばゆい光が少しずつ輝きを失いだすと、目を開けるようになる。


 そこで見えた光景は……


 秋葉の前に立つ、雪のように白い髪をした、青春と同年代くらいの子供の姿があった。

 整った顔立ち。白い肌に美しい髪。服装も真っ白の、全身真っ白な姿の子供だった。


「闇野青春……さすがですね。赤里さんに完勝するなんて」


 子供は称賛の声をあげた。


「コーリちゃん!ウチはまだ負けたわけじゃ……」

「そのざまでなに言ってんすか。身の程わきまえなさい」


 確かに強がりにしか聞こえない。あの状態の秋葉になにか出来たとは思えないし。


 ……青春は警戒する。

 おそらく、秋葉より強いと。


「と、冬黒光李とうごくこうりくん?」


 身を潜めていた和花が、コーリと呼ばれた子供を見て、そう言った。青春は問う。


「知り合い?」

「そうじゃないけど……学校じゃ有名人だよ?学園人気投票で一位なうえに、子役として芸能界に所属してたくらいだし……」

「へえ」


 青春は基本人に興味がない。その人気投票にも参加しなかった。だから結果だって見ちゃいなかった。


「そこの女の子、よく子役だったなんて知ってますね。幼い頃の時だけですよ?同年代でしょ?」


 冬黒は少し驚く。

 いつまでやってたかは知らないが、例えば幼稚園くらいまでの話だとしたら記憶もおぼつかないし、認知してなくてもおかしくはない。


「ファンクラブに属してる子が言ってたから……」


 真相はファンの受け売りだった。ファンなら細かく調べててもおかしくはない。


「で、その子役さんは敵って事でいいのかな?」


 青春は握ってるナイフを向けて言った。

 どことなくイライラしてるように見える。早く黄緑救出に行きたいのに新手が来たのだ。仕方ない。


 冬黒は髪の毛をいじりながら頷く。


「赤里さんの仲間だから、そういう事になるかな」

「ならすぐに叩きのめすまで。邪魔せず先に行かせてくれるというなら、話は変わるけどね」

「連れのお姉さんが心配なんですか?」

「当然でしょ」


 照れもせず、はっきりといい放つ。対し、和花は思う。


(そうだよね……お姉さんなんだし、心配で気が気じゃないよね……)


 ちなみに和花や三バカなどの青春のクラスメイトは、いまだに青春と黄緑が姉弟だと勘違いしている。


「手荒な真似はしないと思いますよ?だから、闇野青春、君にはここにとどまってもらう」

「断る」


 青春の否定のセリフの直後、冬黒の背後に見えないナイフが大量に、襲いかかっていた。


 ――が、


 冬黒にナイフが直撃する前に、ナイフは焼けるように溶けて消失してしまった。


 青春は少し驚く。

 不意をついた、見えないナイフだった、加減したわけでもなかった。


 ――なのに、防がれた。

 いとも簡単に。


「仕方ないですね。少し、手荒な方法で黙っててもらおうかな。闇野青春」





 ――黄緑side。


「お、どうやら冬黒が合流したみたいだ。さすがに闇野青春も二人がかりではどうしようもないかもね」


 尾浜が独り言のようにつぶやく。黄緑はその発言に腹が立ち、否定。


「青くんがわけもわからないクソ組織の連中に負けるわけないでしょうが!」

「く、クソ組織じゃと!」


 尾浜ではなく山田の爺さんが怒る。尾浜は爺さんを軽くなだめた後に黄緑に言う。


「あの二人はうちのトップ、なめちゃいかないよお嬢さん。それに冬黒はだよ?」

「光?」


 黄緑は思い出す。

 前、青春が言っていた……


―――――――――――――――


『僕は相手が上級妖魔でも一対一で勝てる。僕が追う、四鬼レベルの妖魔でもなければ心配いらないよ。あ、でも相性の悪い光属性だと厳しいかも。妖魔の光属性なんて聞いたことないけどね』


―――――――――――――――


 特質三大属性の闇は光に弱い。冬黒が光だと言うのなら、青春が危ないかもと思い、ボスは置いといて助けに向かおうとする――その時だった。


「「その子、だあれ?」」


 どこからともなく声がする。

 声は鳴り響き、どこにいるか皆目検討つかない。


「これはこれはボス!お初にお目にかかるよ!」


 尾浜はどこにいてもきこえるように大声で呼びかける。


(お初?何こいつら、会った事なかったわけ?)


 そう、実は尾浜と爺さんはボスとは面識がなかったのだ。

 共信党なる胡散臭い組織の窓口として、彼らに協力していたのは部下の妖魔。ボスとは面識がないどころか名前すら知らない。


「「誰よ君たち」」


「ちょっと、ワタシとこいつらは仲間じゃないんだから一緒にしないでよ」


 ボスの発言にご立腹な黄緑。


「ちょっとお嬢さん黙ってて……。おいら達は共信党の者ですよボス」


 尾浜は素性を話した。――が、


「「共信党?知らないなあ」」


「えっ?いや、でも……」


 尾浜は山田の爺さんを見る。


「いや、ワシらはボスとは対面しとらんのじゃ……部下と組んで悪事をしてただけじゃし、奴らがボスに何も言ってないなら知らんのも無理はないわ」

「マジ?ちょっとじいさん聞いてないよ?」

「まあええじゃろ。ワシらと協力を断る理由なんてないじゃろうし」


 どこからくるのかその自信。

 そしてじいさんは前に出る。


「ワシらはおたくの部下と共に、活動してたものじゃよ」

「「活動?」」

「いろいろじゃよ。金のためだったり、邪魔な人間の始末だったり……お前らにとっても人間は喰いたいエサじゃから一石二鳥じゃろ?」

「「はあ?なんで僕ちゃんが……さあ」」


「「下等生物の協力しなきゃなんないの!!」」


 ボスの怒号と共に、じいさんは急にかなしばりにあったかのように、ぷるぷる震えだす。


「お。おが、おががごが!!」

「どうしたの?このじいさん」


 黄緑は敵のじいさんの様子がおかしくなった事に気づくが、まったく興味なさそうにしていた。



 ――つづく。



「ジジイなんかどうでもいいから青くんに会いたい……」


「次回 ボスの能力 大した事ないでしょ」

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