第24話  青春、和花の行方

「闇野青春も、まったく警戒してなかったろうね。なにせ普段の秋葉は魔力をろくに持ち合わせていないから」


 尾浜は上手く出し抜いたと言いたげだ。


「彼女は二重人格でねえ。普段のござる口調の主人格は、まったく戦う事はできない普通の女の子なんだよね」

「だから……青くんも怪しまなかったって?」


 腹部の出血を手で抑えながら黄緑は聞いた。……少し顔色が悪い。


「そう。だから少なくとも危険性はないと思ったんだろうねえ」


 尾浜は肯定した。


「逆に今の人格はまさに真逆。能力を操り、組織内でも一、二を争う実力者なんだ。ねえ?」


 秋葉に問いかけると、彼女は頷く。


「そ。ちなみに主人格はウチが表に出てる時の記憶はない。でも、主人格が表に出てる時はウチの意識も中にあってね。黄緑氏に不意討ちできるタイミングだから出てきたのん。ごめ~んちゃい」


 あまりにも謝る気ゼロの態度でウインクしてきた秋葉。

 イライラが増す黄緑。


「先輩さ~ボコボコにされる覚悟あるんだよね?」

「いやーんこわーい。黄緑氏のマネね」


 ブチブチ!黄緑の血管がわき出る。


「そんなブリッ子みたいな態度、とったことないわよ……そもそもそういう女嫌いだし」

「あれ~そうだっけ?闇野氏に対してはしてるイメージなんだけど」

「……青くんがそういう子好きなら、ブリっ子になるのもやぶさかではないけど」

「恋する乙女でござるか?似合わね~」


 ケラケラ笑う秋葉。

 主人格とは違い、人を小馬鹿にするようなタイプに見える。


 一人称はウチ、語尾のござるは普段は使わず、今のようにバカにするときだけ使用するもよう。


「秋葉、とりあえずそんくらいにしときな。お嬢ちゃん連れて、妖魔のボスの元へ向かわないとさ」


 尾浜は二人の口喧嘩を止める。


「は~い。じゃあ行こうか黄緑氏」


 秋葉は銃を黄緑の頭に当て、前を歩くよう指示する。


 黄緑は聞く。


「ワタシ連れてってどうする気?」

「さーてね。後のお楽しみ」

「ぺっ」


 黄緑は秋葉につばをひっかけた。せめてもの抵抗か。


「うわっ!汚な!なんなの!?下品な子……おっちゃん、少しいたぶりたくなるんだけど!いい?」

「止めとけ止めとけ。あまり傷つけないほうがいいし」

「ちぇ……」


 あからさまに不服そうな秋葉。

 しかし、


(もしこれ以上、ワタシに危害加える気なら暴れてやろうと思ったけど……まあいいわ)


 黄緑も別に戦闘不能というわけではない。だから抵抗くらいはできるのだが……


(とりあえずこいつらの目的知りたいし、ここは素直に従うかな)


 あえてもう戦えないフリをするようだ。


(どうやらボスのところに案内してくれるみたいだしね……)


 狙いはボス。ならば道案内させるのも手。そう黄緑は判断したのだった。


(青くんもそっちに向かってるかもしれないし……あっ!この状況で青くんに会えたら、囚われのお姫様みたいじゃない!?)


 まあ捕まってる状況に近いし間違ってはいない。


(王子様の青くんが、姫のワタシを白馬に乗って救出してくれるのね……ロマンチック……)


 勝手に恍惚としてうっとりしている黄緑。白馬なんてどこにもいないのだが。


 そしてこの状況で頭お花畑な妄想……神経図太いのか、余裕があるのか……


 一方、顎が割られた山田の爺さんは状況が理解できてないのか、尾浜に問う。


「お、おい、お、浜……」

「どしたん山田のじい様」

「その女は……?」

「気にしない気にしない」


 山田の爺さんが言ったその女とは秋葉の事だ。

 どうやら面識がなさそうだ。


 一体どういう事なのだろうか?



 ♢



 ――青春side。


 青春と和花は周囲を警戒しながら辺りを見回し、歩いていた。


 二人は特殊な空間送りにはされてないため、ただの殺人現場内にいる。


 青春は思う。


(わざわざ分断させたんだ。各個撃破が目的のはず……つまり妖魔はここにも潜んでるだろうね)


 非戦闘員の和花がいるため、より一層警戒を強めている。


(分断させた張本人……は、さすがにここにはいないかな?でも、何かしら移動方法はあるはず)


 周囲を調べる青春と、それについていく和花。どことなく距離が近い。ただ、あまり怖がってる素振りはない。

 先日の一件で和花も、妖魔に慣れたのかもしれない。

 とはいえ彼女は黄緑と違い、戦う力はないのだが。


 そんな二人を目文するようにしている妖魔集団の姿があった。

 身を瓦礫などで潜め、そちらの様子を伺っている。


「青髪のほうが厄介な奴なんだよな?なんでも200年生きてた石化妖魔を仕留めたとか」


 人の顔と、獣のような体つきの妖魔が言った。

 石化妖魔とはサイクロプスの事だろう。

 妖魔達の間でも噂になっているようだ。


「ああ。でも、もう一匹はただの人間だぜ。いい餌だ」


 もう一人の、複数の動物の頭を宿した混合獣のような妖魔が笑う。

 キマイラといったところだろう。


「とりあえず、おれが、小娘を捕らえる。そこで人質にして小僧を始末しよう」

「お、いい考えじゃねえか。もちろん最後に小娘喰うんだよな?どっちが喰うかはジャンケンだな」

「ああ。でも、知っての通りおれの時止めはわずかに2、3秒だからな。お前は小僧の意識、そらしとけよ?」

「了解」


 人面妖魔は動く。

 あえて大きな物音をたて、青春の意識を向ける。


 そしてその物音と逆から、人面妖魔は襲いかかる!


「ぬらあっ!!」


 青春はすぐさま反応し、臨戦態勢。


(今だ!時間停止タイムストップ!)


 キマイラは能力を発動する。

 わずか数秒、時が静止する。


 それにより、使用者以外は動くことができない。青春ですら。

 ゆえに、和花は捕まるのを避けられない……


 ――はずだった。


 仲間の人面妖魔が気づく。


(あれ?まだ小娘捕らえてない?オイオイ、まだ能力使ってねえのか?早くしろよ)


 和花は無事。作戦通りなら、すでに能力を使用し、気づいた時には和花は囚われの身になっているはず。

 時を止めてる以上、誰も反応できないからだ。


 ――しかし、和花は捕まっていない。

 ならまだ使ってないのか?そう疑問に思う人面妖魔はふと、和花の周囲に気づく。


(あ?地面が真っ赤じゃねえか。なんだ?色なんてついてたか?それにしては今ついたかのように鮮やかな赤……)


 絵の具かなにかと最初は思った。

 だが違う。

 赤の正体は……


「――血!?」

「遅いよ、なにもかも」


 和花の周囲の血、それはキマイラのものと気づいた時にはもう遅い。

 人面妖魔もすでに青春の前に姿をだしていた。青春の視線引き付けるための行為だったが、もう、彼の射程圏。


「ジ・エンド」


 青春が指を弾くと、人面妖魔の腹部から大量のナイフが飛び出し、妖魔の腹をかっさばいた!


「ごばっ!!」


 上半身と下半身が分かれ、絶命した。


「こういう不意打ちもあるんだね。気をつけないとね」


 ふう……と、肩をなでおろす青春。

 何がなんだかわからない和花は青春にかけより、聞く。


「闇野くん、一体何が……?」

「おそらく、時間を止められる妖魔が君を狙ったんだ」

「え?あたしを……?」


 和花はさっきまで自分の立っていた地点を振り返ろうとするが、


「見ないほうがいいよ」


 青春が手で和花の両目を隠す。

 隠して正解かもしれない。


 そこには、大量の血しぶきと、バラバラになったキマイラの姿があったから。


「僕は桃泉さんの周囲に罠をはっていたんだ。前のサイクロプスの時と同じくね」


 前と同じ……あの時は和花の周囲に、見えないナイフが仕掛けられていた。


 ――つまり、


「時を止めてようと、ナイフはそこにある。つまり、勝手に罠に飛び込んで、勝手に妖魔はバラバラになって死んだんだよ」


 静止した時の中で、キマイラは死んだのだ。それゆえに血しぶきも止まった時間内に辺りに散ったから、和花は状況に気づいてなかった。


 返り血も浴びないように青春がコントロールしていたし。


 今回の罠は夜状態の青春が作り出した物。弱い妖魔ならその罠だけで始末するなどお手のもの。


「カウンタートラップ。敵の能力発動のタイミングで始動する罠、裁きの刃罠ジャッジメントナイフこういった相手にはよく効くんだよね」

「と、時止めって相当チートだと思うんだけど……」

「そうだね。とても厄介だ」


 肯定するが、それをいとも簡単にしとめた男のセリフではない。


「す、すごいんだね……あ、


 どさくさに紛れて名前呼びした和花。彼女、少し積極的になったのかもしれない。


 対し、気づいたか気づいてないかはわからないが青春は、


「ありがとう。大したことじゃないけどね」


 礼と謙遜の一言を残した。


 青春は視線を前に向ける。すると、目の前に空間の裂け目というか、割れ目が見えた。


 妖魔が死に、残るはボスだけとなった事で、別空間が壊れようとしているのだ。


 妖魔達の魔力で作っていた空間、それゆえに、妖魔が全滅したことで、黄緑を引き入れたそこが壊れようとしてるのだ。


「虎穴に入らずんば虎子を得ず……か。お姉さん探し開始だね」



 ――つづく。



「囚われのお姫様はここだよ青くん!ていうかそこの小娘なに名前呼びしてんだ!」


「次回 青春対赤里。え、先輩ならワタシが倒すよ青くん!」

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