第14話  100%

(この化け物なんなのだ!?ワ、ワシが全力で抵抗してるのに身動きがとれんなんて……)


 サイクロプスはヒルダの両手両足で踏みつけられ、身動き1つ取れない状況。


 その状態でどれだけの時間がたっただろうか?

 数時間は経ったと思われるが……

 それでもヒルダの力は全く緩まない。疲れを知らないのかと疑うレベル。


(小娘とガキを喰って魔力を高めるしかない……どうやら夜にならねばこいつは力を使えんようだし抜け出せれば……)


 抜け出す方法を考えるサイクロプス。


(こいつらにどこかスキがあればよいのだが……)


 まず、青春達の様子を伺う。


「「青春青春~」」


 ヒルダは甘えるように青春に呼びかける。


「なに?」

「「このブサイク仕留めたら、頭撫でてほしいですわ」」

「いいよ」

「「ウフフ……」」


 ヒルダの腕に力が入る。


(こいつといい小娘といい……青髪の小僧をやけに大事に思ってるようだな……ならば!)


 サイクロプスはなにか思いついたようだ。


「でもなんか退屈だねー」


 黄緑がぼやく。


「思ったよか簡単だったしさ、青くんとワタシのコンビって最強なんじゃない?」

「……さあね。でも運が良かったのもあるよ。ご隠居の戦闘力は今まで僕が相手にしてきた妖魔の中でも上位に位置するし」

「なら尚更ワタシと相性抜群なんじゃん!何から何まで!」

「何から何までかは知らないけど、まあ初めてとは思えないくらいうまくいったね」

「じゃあ〜ご褒美に……」


 黄緑が何か言いかけた時だった。

 上の教室から物音がしたのだ。


 他に妖魔の気配はない。だが警戒して、黄緑が空けた穴を見つめる青春。


 すると、穴からこちらを覗き込んでくる人物が見えた。

 先に逃げ、青春に助けを願った悪ガキの一人だ。こいつは捕まってる二人と違い、逃げれる状況だったはず……


 なら何故戻ってきた?


「――まさか!?」


 青春は何かを察し、悪ガキを止めに向かおうとするが、遅い!

 悪ガキは上の階のカーテンを開き、大きなライトスタンドを、青春達のいる薄暗い地下教室を投げ入れた!


 闇の暗さがなくなり、辺りが明るくなる。


「しまった!」


 サイクロプスを抑えてたヒルダが消えた。

 よって、奴は自由に!


 ニヤリと笑ったサイクロプスは、青春に突進攻撃!

 ショルダータックルのような一撃をもろにくらった青春は、


「ごほっ!?」


 吐血!そのまま壁に激突。壁も脆いため、衝撃で崩れる。


「青くん!?」


 黄緑は叫んでからすぐさま青春の元へと駆け寄る。

 崩れた瓦礫を投げ飛ばし、青春を抱きかかえる。


「青くん!青くん!しっかり!お姉ちゃん残して死ぬのはダメだよ!」


 黄緑はギュッと抱きしめる。

 ……まあ青春の意識はあるのだが、目も空いてたし。


「お姉さん、だ、大丈夫だから……結構きいたけどね……」

「ホントに?無理してない?」

「大丈夫だよ。だから離してね」


 名残り惜しそうに離れる黄緑。

 この女、大丈夫とわかってて抱きしめたのかもしれない。


 青春はサイクロプスの姿を確認しようとするが、


「逃げられたね……いないよ」


 もぬけの殻だ。ヒルダが消え、青春に一撃加えれば黄緑の意識はそっちに行くと奴は読んだのだろう。

 そのスキに逃げたわけだ。


「ちょっとクソガキ!なんで敵を助けんのよ!」


 黄緑はぷんすかしてる。息も荒い。

 このまま悪ガキをボコボコにしそうな勢い。


 青春は黄緑を手で止める。


「操られてるだけだよ」

「操られてる?」

「うん。おそらく奴が生んだ子供みたいなのいたでしょ?多分アレがあいつにくっついて指示したんだと思う」


 サイクロプスは言っていた。一人はわざと逃がしたと。

 二人の怒りを引き出し魔力を吸うために。でも逃がした奴も捕えると言ってた。


 遠隔操作で操れるなら、逃がして問題ないのも当然の話だろう。


 黄緑は青春を背負って、天井の穴へ大ジャンプして上の階に上がる。身体能力が大幅に高まってるため、容易に上がれたようだ。


 ライトを投げた悪ガキは動かない。


 青春は悪ガキの耳の穴を確認。

 すると穴から先ほどの、サイクロプスの子供みたいな気味悪い生物が見えた。


 子供を瞬時に捕まえ、握り潰す。

 そうすると悪ガキは電源オフにでもなったかのように、ぶっ倒れた。


 ……やはり操られていたようだ。

 だが、死んではいない。

 ならとりあえず放っておいても問題ない。


 となるとサイクロプスを追うのが先決。青春は推測する。


「奴はおそらく、桃泉さんの所だ」

「え?どうして?」

「対価の前借りに行ったんだよ。おそらくね」


 妖魔と人の契約。桃泉和花はおそらくサイクロプスとそれを行ったと青春は推測した。


 契約の儀式を完了し、願いを叶える。そして妖魔は対価としてその人間を喰らう。

 その手順を踏むことで妖魔は普通に人を喰らう以上の魔力を得たり、能力を強化することができる。


 そして青春が言った対価の前借り、それは願いを叶える前に契約者を喰らうこと。

 正式な手順を踏むよりは力の強化は望めないが、それでも普通に人を喰らうよりは強くなれる。


 一応制限時間内に願いを叶えなければ、妖魔自身にデメリットが発生する。


 悪ガキ三人を喰らわず、この場から姿を消した。つまり願いを叶えていない。

 となると、その前借りに行ったと青春は考えたわけだ。


 奴の性格上、青春達に恨みをもったはず。ただ逃げたとは考えづらい。


「……まあ、先手はうってるけどね」



 ♢



 和花は下校時間がとっくに過ぎていたのに、学園の敷地内のベンチに座っていた。

 青春達を待っていたのだ。


 結局授業には戻って来なかったし心配して……


 そんな彼女の元に、悪意をもった悪鬼が近づいてきていた……


「「いたあ!?小娘!」」


 サイクロプスは和花を発見し、大きな口をあける!


「「前借りすれば、奴らを一網打尽にできるわ!ガハハ!」」


 和花はサイクロプスの接近に全く気づかずにうつむいていた。


「「イタダキマス!」」


 もう射程距離!

 背後から和花を丸飲み……


「「アレ?」」


 サイクロプスの視界が突然一回転した。ぐるぐる回り、止まる。


 今見えてるのは和花の足。

 視界は地面から足が見えてる状態。


 そのまま視界を動かせない。

 何故?


 そしてサイクロプスは気づく。


 ――自分の首が落とされてる事に。


「「な、なんだあ!?」」


 サイクロプスは和花に近づいた瞬間、首が切り落とされたのだ。


 一体……


『仕掛けておいたんだよ。罠をね』


 ゆっくりと姿を表す青春。その後ろには黄緑の姿も。


「桃泉さんの周囲に僕のナイフを設置して周囲に浮かせ、姿形を消しておいた。そして今タイミングよく実体化させ、切り落とした」


 顎を動かし、サイクロプスは視界を移動させると、自分の胴体近くに大きなナイフの刃が宙に浮いていた……


「怪我はない?桃泉さん?」


 青春が優しく聞くと驚いた表情のまま、声を出さずにブンブン首をたてに彼女は振った。


「「バカな!?だからといって、何故首が落ちた!?貴様のナイフ程度でそんな切れ味あるはずがない!さっきの手合わせで確認済みだぞ!?」」


 目玉は潰せても、自らの太い首を一瞬で切断するほどのものではないと奴は思っていた。


 ――しかし、


「お姉さん。今、なーん時?」


 黄緑は校舎の時計を見た。


「……6時になってるね」

「つまり、そういうことさ」


 青春の力が100%使える夜になっていたからだ。


闇空間ダークサイド


 瞬間、辺りが漆黒の闇に覆われる。


 青春の影から巨大な妖猫が出現する。……それがヒルダだ。

 今まで暗さなどでまともに見えなかったヒルダの姿。


「「宵闇の~美しき光、輝き、とこしえの~」」


 突然くるくる回り、謎のうたを歌うヒルダ。


「下手くそ」


 ボソリと黄緑は言った。


「「ああ!?」」

「なんでもないですー」



 青春は1本のナイフを生成。

 刃が長剣のように伸び、青白いオーラが刀身に輝く。


「さよなら。ご隠居」


 サイクロプスは体を動かし、落ちた首をもって逃げようとするが、突然体が固まる。


「「な、なんだあ!?う、動け……」」

「ていうかさ、首落ちた時点で死になよ。普通生き物ならそれで死ぬでしょ。まあさらに心臓とか切り裂けば死ぬだろうけどね」


 ゆっくり近づく青春に、サイクロプスは恐怖の表情を冷や汗だらだらで向ける。


「「や、やめろ!よ、寄るなあ!!」」


「ちゃんちゃんちゃーん。ダンダンダーン。ランランラーン」


 黄緑が何故か口で何かの音楽のようなものを奏でだす。


 青春は射程距離に来ると、ナイフを振り下ろす。


闇光死斬デビルサーバー


 サイクロプスを一刀両断!


 ――瞬間、体は裂かれ、サイクロプスは青白い炎に焼かれるようにバラバラになって消失していく!


「「うぎゃああああええ!!な、ば、バカな!ワシが!?ワシがごんなゴゾウニ……」」


 断末魔の叫びと共に、少しずつサイクロプスの姿が消えていく……


 青春はくるりと振り返り、黄緑に質問。


「お姉さん、さっきの口ずさんでた音楽、何?」

「処刑用BGM。必殺技だす時アニメとか特撮につきものでしょ?某戦隊ヒーローのロボの必殺テーマなんだけど嫌い?」


 きょとんと首をかしげる黄緑。

 ついカワイイと青春は思った。


 そして少し照れ臭そうに言う。


「まあ、そういうの好きだけどね」



 ――つづく。



「青くんカワイイ!カッコいい!カワイイカッコいい!」


「次回 和花の感謝。いや、そんなのどうでもいいから」

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