第15話  和花の感謝

 サイクロプスは無事撃破。

 今回の騒動は無事終結したと見える。


 青春の作った闇空間ダークサイドが、ガラスが割れるように崩れていき、辺りが晴れる。

 能力を解いたのだろう。


 まだ6時ちょっとなため、辺りは少し明るい景色に変貌する。


 その後、この騒動を引き起こした張本人、依頼主の桃泉和花は青春に駆け寄った。


「や、闇野くん……一体今のは?」


 和花は今起きた出来事の全てが理解できていなかった。


 依頼していた悪魔こと、サイクロプスが自分を狙ったこと、青春の力、急に辺りが暗くなったこと、青春から出てきた悪魔のヒルダ。


 全部わけがわからなかったはず。


 青春は少し考える。


(まあ、別に内緒にすることもないか……)


 青春は和花に全てを話す事にした。


「……実はね、」



 ♢



 今回の騒動の全てと、自らの能力について青春は話した。

 そして、


「じゃ、じゃあこれでいいの?」


 和花は缶ジュースを青春におごった。

 青春はもらった缶ジュースを開け、さっそく飲み始める。


 青春は半分くらい飲んでから言う。


「うん。これでいいよ。プラス百円もらったし、報酬としては充分だよ」


 110円のジュースと100円、計210円で依頼完了。


 命がかかってたとは思えない安い報酬だ。


「そ、その、なんて言ったらいいか……あたしが勝手にやった事なのに、闇野くんに全部尻拭いしてもらって……」

「うんうんほんとほんと」


 関係ない黄緑が頷いている。

 いや、手を貸したから関係はあるか。


「お姉さん、ちょっと黙ってて」

「はーい」


 黄緑は一歩下がる。


「……元はと言えば僕の撒いた種だし、気にする事ないよ。報酬もらったし」

「報酬ってこんなものじゃ、返した気にならないんだよ……」

「悪魔討伐でヒルダと僕の強化もできてるから、210円以上の価値はあったよ」


 強化?と、黄緑は疑問に思った。

 悪魔討伐で強くなれるのだろうか?


 今は話の腰を折るから黙っておく事にする黄緑。


「闇野くん……ありがとう!」


 和花は青春に抱きついた。


 ――さすがにこれには黄緑は黙ってられなかった。

 黄緑は和花の服の襟をつかみ、キレぎみに……


「邪魔だメス猫!」


 和花をはるか上空に投げ飛ばした。


 ……はるか上空に。


「え、」「え?」「え?」


 何故か投げた黄緑まで驚いていた。

 あまりにも高く飛んだから驚いたようだ。


 投げ飛ばされた和花は、校舎の屋上付近に飛んでいってしまった。


「な、なにしてんのお姉さん!」

「え、えええ?あんなに飛んでくとは思わなかったんだもん!」

「だもん!じゃないよ!」


 青春は急いで屋上へかけ上る。

 階段など使わず、外部の窓付近に足をかけ、すいすい屋上へと登っていく。


 黄緑も必死に追いかけた。


 黄緑が屋上につくと、ちょこんと座りこんでた和花が見えた。


 運良く飛んだ最高到達点が屋上付近だったため、特に怪我はなく、擦り傷が少しできていただけだった。


 でも、さすがに天高く飛ばされたことは怖かったようだ。プルプル震えてる。


 青春が駆け寄ると、和花は引っ付いてきた。


 ……さすがに今回は邪魔できなかった黄緑。


「ぐ、グヌヌヌヌヌ!!」


 唇噛み締めて血が流れている。

 悔しくて悔しくて仕方ない黄緑だった。



 ♢



「で、このガキ共はどうする?」


 助け出した悪ガキ三人は、地面に正座させられている、


 黄緑は腕くんで、三人をにらみつけながら見下ろす。


「……別にいいよ。報酬はもらったし」


 青春は三人から1000円づつもらった。少し割高なのは、恨みもあるからかも。


「よくないよ青くん!ね、ヒルダ?」

「「当然ですわ」」


 ヒルダが悪ガキ三人の背後につく。今にも食い殺そうかと牙を三人に向けて。


「ひええええ!!」「た、たすけて!」「ごめんなさい!」


 三人は涙ながらに訴える。


「ぜ、全部茶谷の指示なんだよ!」「そ、そうそう!おいら達は嫌々闇野をいじめてたんだ!」


 二人に売られるリーダー茶谷。


「て、てめえら!モテるこいつが、気に入らねえって言ってたろ!」

「言っただけだ!」「そうそう!あんな酷いいじめするとかドン引きだったんだぞ!」

「何を!!」



 黄緑は、強く地面のアスファルトを踏みつけた。


 ド、ゴン!!

 隕石でも落ちてきたかのような、凄まじい爆音が鳴り響いた。

 アスファルトは大きく穴を空け、ひび割れている。


「うるせえんだよ……」


 ぶちギレてる黄緑。血管浮き出るほど怒りに震えてる。

 彼女の背後には鬼が見える気がする。


「「同意しますわ。ワタクシの青春をいじめてたとか、万死に値しますしね……」」


 ヒルダも頷いている。


「「いやああああ!!」」


 悪ガキ三人は抱き合う。


 青春はため息をつく。


「いいって別に……」

「青くん!まさか許す気!?ダメだよ!青くんが許してもワタシは許さない!」


 鼻息荒い黄緑。

 ――だが、


「いや、別に許すつもりはないよ」


 悪ガキ三人はそろって「え?」と言った。


「許す許さないは別の話。そもそもちゃんと謝られてもいないしね。あれだけやられて、簡単に許せるわけないじゃん」


 意外と、厳しい意見が飛び出した。青春の性格なら、あっさり許しそうと思われたし。


 青春は冷たい視線を三人に向けていた。

 三人は震え上がり、


「「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」」


 土下座と謝罪の連呼。

 マジで殺されると思ったのかもしれない。


「口だけの謝罪にしか見えないんだよね。殺されるから謝ってるだけ。心の底から謝罪が感じられない。桃泉さんと僕に対して」


 冷徹な表情を見せる青春。

 そんな青春の顔を見て、ニコニコしてる黄緑。


「青くんのこんな顔、レア!カッコいい!カメラカメラ!」

「「ホントですわねえ。これはゾクゾクしますわ!」」


 青春ファンクラブに属してる二人はウキウキしていた。


「お、お願いだよお!」「許してくれよお!」「ごめんなさい~!」


 涙と鼻水垂らして懇願する三人。


「……なんか、こっちが悪者みたいじゃん」


 頭をかく青春。


「青くん!良心なんて気にしなくていいよ!悪いのはこいつら!」


 泣いてる子供相手に容赦するな、なんて言うヒロインは前代未聞かもしれない。


「許す気はないけど、だからってとって食うことはしないよ。助けた意味ないし」

「……じゃあ、この三人奴隷にしない?」

「は?」


 またもやヒロインとは思えない発言が飛び出した。


「これからも妖魔退治するでしょ?こいつらにも協力させようよ!」

「「いい考えですわね!さすが青春の姉と認めただけはありますわ」」

「でしょでしょ!」


 ファン2人が勝手に盛り上がる。


「奴隷として、いろいろこき使うの!雑用とか必要だろうし!」

「「ならワタクシの力で契約として縛りましょう」」

「やっちゃえやっちゃえ!」


 なんか勝手に話が進んでいく。


「ちょ、ちょっとお姉さん!?ヒルダ!?」


 青春は止めようとするが……


「いい?ガキ共、拒否権は貴様らにはない」


 ――その後、三人の悪ガキの悲鳴が響き渡った……


「「いやああああ!!」」



 ♢



 ――同時刻、旧校舎。


 2人の男女の姿がそこにあった。


「あら?」

赤里あかりさん?どうしました?」

「サイクロプスの気配がなくなってる」

「……どういう事です?」

「誰かが討伐したのかも」

「あれほどの妖魔を?どこの誰が?」

「わかんないわよん。そんなこと」


 男は旧校舎に入る。

 すると何かを感じる。


冬黒とうごくくん?」


 冬黒と呼ばれた男は言う。


「あれほどの妖魔を仕留める者か……会ってみたいものですね」



 ――つづく。


「誰?この二人。ま、いっか!次回は新章突入~」


「その前に、次回はプロフィールだってさ。キャラまだあんまりいないけどね」


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