第13話  裏技

「「お、おのれおのれおのれおのれ!!」」


 サイクロプスは怒り狂い、目玉に刺さったナイフを抜き、投げ捨てた。

 目玉の刺し傷は徐々に治り始めている。自己回復能力でもあるのだろうか?


 青春は感心する。


「へえ……だてに200歳じゃないね。あれくらいじゃ潰せないか。一応毒入りナイフだったんだけど……」


 サイクロプスの目玉が少し紫に変色したものの、すぐ色は白に戻っていた。

おそらくその紫が毒だったのだろうが、すぐさま解毒されたもよう。


「「この毒……ただの毒ではないな?」」

「うん。能力によって作ったものだからね。といっても解毒されたから意味ないけど」

「「能力?」」

「そう。僕の能力はナイフを自在に操る能力なんだ」


 ナイフを自在に操る?

 抽象的で黄緑はピンとこなかった。


 サイクロプスはというと、ケラケラ笑いだす。


「「クハハハ!どんな能力かと思えばナイフを操る!?ちんけな能力じゃのう!」」

「青くんを笑うな!」


 黄緑は激昂。サイクロプスの態度に相当頭きているようだ。


「で、でも青くん。能力ばらしてよかったの?」


 黄緑としては、能力は隠しておくのがセオリーと思っている。だからわざわざ手の内をさらす必要あったか疑問に思ったよう。

 青春は頷く。


「あれだけじゃそこまで想像つかないよ。現になめてくれてるし」


 油断を誘うための発言だったようだ。確かにナイフを操るだけじゃ何が脅威かもわからない。


「とりあえず、場所移動しようか。あの二人巻き込みそうだし」


 二人とは、いたぶられてた悪ガキ連中の事だ。


 黄緑は別に巻き込んでもよくない?と思ってたが、青春がそう言うから素直に言うことを聞く。


「う~ん素直な良いお姉ちゃんだなワタシ」

「何言ってんの」


 青春と黄緑はすぐさま背を向けて逃亡するフリ。

 サイクロプスはまんまと引っ掛かり、後を追う。


「「なんじゃ?勝ち目ないと思って逃げるのか!?逃がさんわ!」」


 壁という壁を粉砕して、真っ直ぐ二人を追いかけるサイクロプス。

 無理やり破壊して進むので、天井が崩れ、上の階の机なり椅子なりが落下してくる。


 そんな様子を見ながら走る黄緑。


「あーあ。旧校舎崩壊しちゃうね。しーらない。青くんとりあえずどこで戦う?外?」

「外はダメだね。裏技使うのに支障でる」

「裏技?そういえば最初にそんなこと言ってたよね」

「うん。……確かここ地下にも部屋があるはず」


 逃げながら辺りをキョロキョロする青春。


 すると、カーテンなどでしきられて、光が部屋の中に差し込まない、とても薄暗い教室を発見。


「……ここがいい。お姉さん。合図したら……」


 青春は黄緑になにかを指示した。


 その後、二人は教室の奥に陣取る。そこにサイクロプスも侵入。入り口を広くするために、壁と窓ガラスを粉砕しながら。


 教室の入り口は1つだけ。

 サイクロプスはその入り口を背にしている。

 故に奴は逃げ場なしのところに二人を追い詰めたと錯覚。


「「ガハハ!もう逃げ場はないぞ?さあ嬲り殺しにしてくれようぞ……」」

「嬲り殺しになるのはそっちだよご隠居」


 青春の周囲に大量のナイフが出現!ナイフはすべてポルターガイストのように宙に浮いている。


百連剣ハンドレッドナイフ


 青春の一言で、大量のナイフが一斉にサイクロプスへと射出された。


 サイクロプスは余裕の笑みを浮かべる。


「「百?バカめ、半分もないではないか」」


 射出されたナイフの数は多いが、確かに奴の言う通り、百には程遠い数だった。


「「かあっ!!」」


 口から音波のような衝撃波を放ち、ナイフを全て弾き飛ばしてみせた。


「「多ければ直撃すると思ったら大間違い……グハっ!?」」


 突如吐血するサイクロプス。


 なにかが刺さった感覚を感じる。それが吐血の原因かと思い、視線を向ける。


 刺さった痛みを感じたのは首、そこに10本近くのナイフが刺さっていたのを確認できた。

 いや、首だけではない。目玉や腕などにもだ。


「「ば、バカな!?全弾はじいたはず!」」

「「何い!?」」

「言ったでしょ?僕はナイフを自在に操る能力を使うと。ナイフを見えなくしたり、消したりも自由自在なんだ」


 つまり一部のナイフは見えなかったため、弾きそこねた。もしくは衝撃波が当たる直前にナイフを消し、回避した。……ということだろう。

 そうして弾きそこねたナイフの数々に刺された。


「もちろん毒入りだよ」


 にこりと微笑む青春。

 そんな彼をかわいいかわいい連呼してる黄緑。

 その後、なにかに気付く黄緑。


「……あれ?青くん能力使えてない?」


 夜になるまで使えないのではなかったのだろうか。


「能力は僕に紐付けされててね。ナイフを操ることだけなら昼夜関係なくできるんだ。まあ魔力は微々たるものだから、こんな大物相手だとダメージはろくに与えられないけどね」


 ダメージが大したことないのなら意味がないのでは……

 と、思われるがそうではない。


 目玉にまた直撃したため、石化を少しの間防止できるはず。

 おそらく目に魔力を集中しないと石化攻撃は不可能。

 ダメージをわずかでも受けると魔力が漏れる。故に回復を待つ必要があるはず。

 と、青春は推測していた。

 おそらく正解。


 それに毒もある。治療にも魔力を使うため、力を減らす役割にもなってる。


 わずかでも、疲弊させるための行動なわけだ。


「「小細工小細工小細工!そんなお遊び攻撃ではワシを仕留める事など不可能と知れ!」」

「なら何発も何発もくらわせてあげるよ」


 青春はまたナイフを大量に出現させる。

 サイクロプスは突進!

 ナイフの直撃を無視して青春に近づいて仕留めようという魂胆だろう。全弾喰らってもたかがしれた威力とたかをくくって。


 もちろんそう来ると青春は読んでいた。

 ナイフが全て飛んだ後に、黄緑が動く。


「せーの!」


 黄緑は振りかぶり、全力の拳をサイクロプスに振るおうとする。


「「甘いわ!そんな大振り当たるか!」」


 高笑いして拳を避ける――が、


 空振った拳はボロボロの床に直撃。

 その瞬間、床の崩落が始まる。


 黄緑の重い一発が床に大穴を空けたのだ。それにより、黄緑とサイクロプスは地下の教室に落下する。


 土煙が舞い、視界がぼやける。


 いや土煙などなくても、暗くて視界が悪い。ただでさえ薄暗い教室のさらに下の地下の教室だ。当然だろう。


 この暗さ……


 青春もまた地下の教室に降りる。……そして、


「さあヒルダ。君の大好きな闇だよ」


 青春が言うと、彼の背後から何かが飛び出してくる。

 暗闇のため姿形はわからないが、おそらく青春に力を貸す悪魔、ヒルダで間違いない。


 ――夜にしか力を発揮できないと青春は言った。

 今はまだ昼間。だが辺りは暗闇……


「裏技ってそういう事だったんだ!」


 落下したが、傷ひとつない黄緑が納得するように手を叩いた。青春は頷く。


「そう、擬似的な夜を作ることで力を使えるようになるんだ。まあ当然夜ではないから100%の力は出せないけど……」


 青春がサイクロプスに指差すと、ヒルダがサイクロプスの上に乗り、力づくで押さえつけた。


「ご隠居くらいなら充分さ」

「「ぬがあああ!なんだこの化け物は!う、動けん……」」


 必死に抵抗するが動けないサイクロプス。ヒルダの力はそれだけ強大なのだろう。


「おはよう愛しの青春。どうしましたの?今日の獲物ですの?このブサイクは?」


 ヒルダはさわやかに言った。


「ヒルダ、夜まで抑えておいてよ。今日のディナーだからね」

「ハーイ。でもあまり美味しそうではなさそうですわね。この場で八つ裂きにしては?」

「多分容易にはいかないよ。夜になれば瞬殺できるだろうし、今は時間稼ぎしよう。大丈夫?疲れない?」

「大丈夫ですわ。この暗闇でそこそこ力出せますし」


 100%なら確実だから。そういう理由でサイクロプスの動きを封じておくつもりのようだ。


「「お、のれ……なら、作戦変更してガキと依頼主を……」」



 ――つづく。


「なにか企んでるみたいだね。でも!ワタシと青くん、ついでにヒルダがいれば大丈夫!」


「次回 100% なんか◯愚呂みたい」

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