第12話  初のコンビバトル

 青春とサイクロプスは、互いに睨みあったまま動かない。

 どちらも互いの出方を伺っているのだろうか?


 ――業を煮やしたか、サイクロプスは口を開く。


「「どうした?いきがっていたが、かかってこんのか?」」


 仕掛けてこいと言いたげ。

 ……罠だろうか?そう思う青春はナイフを前にだし、臨戦体制に……


「えいっ」


 黄緑がサイクロプスの側面から、全力のパンチ!見事にサイクロプスの顔面にクリーンヒット。

 3メートルはある巨体の怪物が、その一撃で勢いよく壁に激突。壁は崩壊し、瓦礫にサイクロプスは埋まった。


「えいっ」の掛け声で出た一撃とは到底思えない重い一発。


 サイクロプスの視界には青春しかうつってなかった。それゆえに黄緑のことは警戒してなかった。だから不意打ちをくらったわけだ。


 それにしてもいつの間に側面、つまり隣に移動していた?とサイクロプスは疑問に感じざるおえなかった。

 音もなく、そして瞬時に黄緑は移動していた。パワーだけでなく、瞬発力も普通の人間では考えられないレベル。


 一方、青春は顔には出てないが、唖然としてた。


「お、お姉さんすごいね。躊躇なく殴りにいって……」

「え?まずかった?」

「いや、まずくはないけど……」


 青春はきょとんとしてる黄緑に驚いていた。本当に戦うことに躊躇がなさすぎる。力を得たせいなのかはわからないが……


 だが同時に頼もしさも感じていた。

 今の一撃、青春に意識が向いていたスキを上手くついていた。防御もろくに出来なかったはずなので、ダメージもあるはず。


 ゆえに、青春はとても感心していた。


 だが、当然黄緑はそんなスキを狙ったとかでは全然ない。ただ、単純に殴れそうだから殴っただけだ。

 ザ・脳筋戦法。


「お姉さんがここまで戦えそうとは思わなかったよ。相性なのかなんなのかはわからないけど、想定以上の強さだし」

「褒められてお姉ちゃん嬉しい!頭撫でて撫でて!」

「……後でね。それより、あれくらいで死ぬような奴じゃないから気をつけて」


「「当然じゃ」」


 瓦礫の下から声がした瞬間、何かの液体みたいなものが黄緑めがけて飛んできた。

 青春はすぐに反応し、落ちている瓦礫の破片を盾にしながら黄緑の前に立つ。

 液体が破片に付着。

 ――すると、急激に破片はどろどろと溶岩のように溶けていく。


 すぐに破片を投げ捨てる青春。


「強酸性の毒かなにかか……」


 当たってたらまずかったかもしれない。


「ありがと青くん!」


 黄緑は青春に引っ付いて、頬ずりしながら礼を言った。

 ……緊張感がない。今のを見て恐怖心とかわかないのだろうか?


 ただ、戦闘において臆す事のない黄緑は頼りになると青春は思う。


「とりあえず、僕がお姉さんの盾になるよ。今現在ならお姉さんのほうが攻撃力あるしね」

「任せて!お姉ちゃんがあの怪物、ギッタンギッタンのボッコボッコにしてあげるから!」

「……無理はしないでね」


 突然瓦礫が吹き飛ぶ。

 サイクロプスが瓦礫から出てきたのだ。


「「うっとおしい2匹じゃ。せっかく小僧共と遊んでおったのに」」


 邪魔されたこと、黄緑に一撃くらったこと。それぞれが重なり、サイクロプスのイライラは頂点に達していた。


「遊んでた……ねえ。そのわりには一人逃がしちゃってたじゃん」


 青春に助けを求めてきた悪ガキの事だ。


「「わざとじゃよ。一人だけ逃げおおせた事でこの二人がどんな反応するか見たくての」」

「……悪趣味」

「「逃げた奴はこの二人を気にもせず、必死で逃げた。その上お前達に多分助けを求めたんじゃろ?でもそれはあくまで助けてって事で、この二人はどうでもよい態度だったのでは?」」


 実際、逃げてきた少年はいじめてた青春に助けてと懇願したが、友人二人については何も言ってなかった。


「「そしてこの二人は、自分だけ逃げた事に腹をたてていた。憎しみはつのったはずじゃて」」

「怒りの感情、悲しみの感情。それらを刺激して楽しんでたわけか。邪魔できてよかったよ」

「「感情が渦巻く事でもよくなるのじゃよ。どのみち逃がしたほうもすぐに回収するがの」」


「あ、味!?」


 黄緑はサイクロプスの発言に驚く。


「な、なにこいつ……食べる気だったの?人を!?」

「正確に言うと、妖魔は人の体内に宿る魔力を食べるんだ」

「魔力?」

「人なら誰しも存在する特殊な力。それが全部抜き取られたら無条件で人は死ぬ」

「ふーん」


 (ふーんって……)


 聞いといて適当な返事。黄緑は興味ない事に大してはとことん無関心なのかも。


 人が食われる事には多少驚いてたのに。魔力抜かれて死ぬだとあまり現実味ないからかもしれない。


「でも!物知りだね青くん!」


 一方青春には興味津々なので、興味ない話題でも、彼の事はとりあえずニコニコで褒める黄緑。


「「お主ら……恋人かなにかか?」」


 デレデレな黄緑を見て、サイクロプスは質問してきた。

 実際そう思ってもおかしくはない。


 黄緑は頬を赤らめ、両手で頬を押さえながら……


「やっぱりそう見える~?フフフ。ほんとはお姉ちゃんなんだけど~そう見られるのも嬉しいな~」


 くねくねしてる。

 青春どころか、サイクロプスすら少し呆れたような表情を見せる。


「「だが、そんな深い関係をぶち壊すのも楽しいのじゃよ。ほれ、このガキ共もそうじゃろ?逃げた友人に怒りの感情がわき出とる」」


 悪ガキ二人の表情事態はまだ恐怖に歪んだままだ。

 助けが来たとはいえ女子高生と同級生。それでもう安心とは思えないだろうし当然。


 だがサイクロプスの言うことが事実なら、腹の底で逃げた奴の事を恨んでいるのだろうか?


 この極限状態、今にも殺されそうになっているのだ。一人逃げた者を恨むのもおかしくはない。


「おあいにくさま。ワタシと青くんの絆はとっても深いの。なにされようが亀裂なんて入らないわ」


腰に手をあて、さも自慢気な黄緑。

 

 ――ぼそりと青春はつぶやく。


「まだ会って2、3日なんだけどね……」

「日数は関係ないよ青くん!」


 聞こえてたようだ。……地獄耳。


 サイクロプスはニヤリとする。


「「なら片方殺して、大事な者を失う悲しみでも味あわ……」」

「……君はそうやって、人の気持ちを弄び、奪ってきたのか?」


 あの無表情な青春の眉間にシワがよる。人の絆や大事な者を奪う、それを楽しみ、快楽としてるサイクロプスにキレているのだろう。


 今までの言動からもわかる。

 サイクロプスは200年の間に、そうやって人を殺してきたのだろう。


「「だったらなんじゃ?人間の脆さはこれ以上ない楽しみなんじゃよ。だから貴様らの関係も壊してやろうぞ。大事な者が目の前で死ぬ……どんな悲鳴が聞けるかゾクゾクするわい」」


 サイクロプスのほほが赤く染まり恍惚としている。化け物のそんな姿は気味が悪い事この上ない。


 青春はサイクロプスをにらみつけ、言う。


「……そんな事したら、こ」

「ぶっ殺すわよ!この化け物!」


 ……青春の台詞の前に、黄緑が叫んだ。

 キメ台詞ってわけではないが、敵に向かって怒りの言葉を言い放つ、絶好の見せ場とも言える状況だったのだが……


 ヒーローの面目が……


 だが、台詞とられたにも関わらず青春は笑う。


「だってさ、ご隠居さん。お姉さんがお墓に送ってあげるって」

「「クソガキ共!」」

「お姉さん!」


 青春はナイフを黄緑に手渡す。


 サイクロプスの目が光る。

 ――すると……


 青春の両足が少しずつ石化していく!

 重く、足は動かない。

 しかも石化は徐々に上へ上へと……


「「ワシはゴーゴンの目を持つ。こうやって対象の人物を石化させる能力が……」」


 サイクロプスが言い終わる前に、黄緑は受け取ったナイフをサイクロプスの目玉めがけて投擲。


 時速300km以上の速度。


 石化成功の油断もあり、目玉に直撃!


「「おがああああ!!」」


 すると青春の石化が解けていく。


「甘いよ。それくらい読んでたさ。お姉さんとのコンビプレイ上手くいきそうだね」


 青春はにこりと笑った。



 ――つづく。



「やっぱりお姉ちゃんと青くんの相性抜群!多分戦い以外の相性も抜群!」


「次回 裏技 そういえばなにか策あるって青くん言ってたね」

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