第11話  13歳対200歳

旧校舎に侵入した青春と黄緑。

長いこと放置されている古い建物だ。所々穴が空いていて、歩くとミシミシ音がする。

虫もそこら中にいる。


今にもお化けでも出てきそうなくらい薄暗い。

実際はお化けではなく、悪魔が住み着いているわけだが。


「とりあえず青くんが力使えない以上、ワタシがまず戦う必要あるんだよね?ヒルダ、ワタシに与えた力について教えて」


……黄緑はヒルダに呼びかけるが返事はない。


「あれ?青くんの中にいるの?」


両手の指をいやらしく動かし、青春にニヤニヤしながら近寄る黄緑。

ヒルダを探す名目で、青春を合法的に触る魂胆なのだろう。

だが、青春はそれを防ぐ言葉を発する。


「ヒルダは普段僕の影に潜んではいるけど、昼間は寝てるから何言っても答えないよ」

「典型的な夜型ってこと?……どおりでいじめっ子連中が無事なわけだよ」


あのヤンデレのヒルダなら、青春をいじめる三人なんて縊り殺してもおかしくないと黄緑は思ってた。

だからこそ、ずっと違和感を感じてたのだが、それで腑に落ちる。


学園にいる間は寝てるから気づかなかっただけということだ。


「肝心な時に役にたたないね。いろいろ聞きたかったのに……青くんも守れてないし、あの似非クソお嬢悪魔め」

「ヒルダはちなみに悪口には敏感だから、聞いてて覚えてるかもよ」

「ひ、ひるだはびじんだなあ〜」


超棒読み。今更取り作っても遅そう。


「「いぎゃあああああああああ!!」」


またも悲鳴。残りの二人だろうか?青春はここから小声で話し出す。


「……慎重に近寄ろう。不意打ちできるかもしれないし」

「うん。でもさ、青くん夜に力使えるって話だけど……何時から?」

「午後6時から、午前6時まで」


ちょうど12時間……

ちなみに今は1時ちょっとだ。


「ご、五時間近くまだあるんだけど……」

「大丈夫。裏技あるから」


何か策でもあるのだろうか?


二人は足音に気をつけて、慎重に進む。

叫びが聞こえた部屋をそっと覗く。


青春の視界に写ったのは、いじめっ子二人と……

一つ目の怪人みたいな悪魔の姿だった。


一つ目悪魔は3メートルはありそうな巨体、腕はぐにゃぐにゃしていて地面につくほど長い。


口が大きく、大の大人も丸のみできそう。

全身浅黒く、角が2本。

下半身はヘビのように尻尾のような足が一つだけ。

めちゃくちゃ太い。


悪ガキ二人は逃げ出してきた一人と同じく、半裸で傷だらけ状態。

なにか紐みたいな物で縛られ、動けなくされていた。


「うっわ~見るからに化け物だねえ」


黄緑に驚きの表情はなかった。覚悟してたとはいえ、ある意味すごい。

スライムにびびってた時が嘘のよう。


「一つ目怪人か……ヘビみたいだけど、とりあえず名づけるならサイクロプスってとこかな?」

「ヘビっぽいしゴーゴンじゃ?」

「いや、別にどっちでもいいんだけどね。ただ、名前つけといただけだし……」


ゴーゴン。……青春はその言葉に引っ掛かった。


「でもお、お姉ちゃんは青くんがそう呼びたいならそう呼ぶよ!」


体くねくねしながら言った黄緑。


ワンテンポ遅れてから青春は口を開く。


「……お姉さん、可能性として良いこと教えてくれてありがとう」


ニコリと笑う青春。

ズキューンと、ハートを射貫かれる音が黄緑の胸に鳴り響いた。


……顔を真っ赤にして黄緑は聞く。


「あ、青くん……ちゅ、チューしていい?口に」

「――ごめん、ちょっと後にして。なにか話してるみたいだ」


サイクロプスが悪ガキに何か話しかけているらしい。青春の意識はそっちに言っており、黄緑の問題発言は聞いてなかった。


「「グフフフフ。どうかの?苦しいかい?痛いかい?」」


サイクロプスは悪ガキ二人に、笑いながら質問した。


「嫌だ!死にたくない!」「た、すけてくれ誰かあ!!」


泣き叫ぶ二人。質問の答えにはなっていない。

それだけ追いつめられ、恐怖に支配されているのだろう。


「ゾクゾクする。その恐怖に歪む顔、涙と鼻水だらけのくしゃくしゃな顔!人間の子供から笑顔を奪い、恐怖に支配されるその顔を見るのが……ワシの生きがい」


サイクロプスは恍惚とした表情を見せている。

子供をいたぶって興奮してるのだ。


和花の願いの結果とはいえ、子供を襲うのが好きな悪魔に見えた。


学校に長く潜んでることから見て、昔から子供を襲ってるのだろう。


「「じゃが、安心しなよ。まだ殺さん。遊びはこれからじゃ」」


口角をあげてから、指をパチンとはじく。


すると火花が散る。

火花は半裸の二人に当たる。


「うわああ!」「あ、熱い!熱い!」

「「熱い!?そりゃ大変じゃ!」」


サイクロプスは口から水を勢いよく放出!

その勢いのよい放水は二人の悪ガキの顔に直撃。


鼻と口が放水でふさがれ、息もできなくなる。


「ぼぼぼ!」「うぼお!」


まともに声も出せない。

おまけに水は氷水のように冷たく、色も汚水のように汚く、臭い。


放水はまだ続く。十秒、二十秒と──


青春は少し危機感をもった。このままだと殺されかねないと。


「……まずい。早く助けに、」

「でもまだ殺さないって言ってたよ?夜まで時間もあるし、少し様子見たら?」


冷静な判断を下す黄緑。いや、単純に助ける気にあまりなってないだけかもしれない。


「だからって死なない保証はないよ。それに……」


二人の表情を見ると本当に苦しそう。

おそらく昨日からずっと痛ぶられてきてるのだろうし。


……青春にとっては嫌いな相手だ。いじめてきた連中なんだし当然の事。

だが、嫌いだから助けない……なんて考えには青春はならない。

いかに嫌いな相手でも、こんなに苦しんでる相手を見捨てる選択肢は彼にはない。


「苦しんでる人を見捨てられないよ」

「キャ〜青くん素敵!」

「ちょっと……声大き」


サイクロプスは放水を止めた。


「「気配を感じるとは思っとったが……バカなガキ共だな!」」


黄緑の声に反応し、サイクロプスは口から卵を3つ産み落とす。

すると卵が割れ、小さいサイクロプスが生まれた。

そして……


「「殺れ!」」


小型サイクロプスは、青春達が隠れてた壁を素手でぶち壊し、二人の姿をサイクロプスの視界に入らせた。


「「メスとオスのコンビか。子供達よ、奴らの首をワシの元へ運べ」」


小型サイクロプスは奇声をあげながら、青春と黄緑に飛びかかる――が、

眉一つ動かさずに黄緑は、その3匹を拳で殴り潰した。


「「なっ!?」」


サイクロプスは驚愕した。まさかただの小娘が自分の子をいとも簡単に粉砕するなんて信じられなかったのだろう。


「キッショいな。キモい生物が青くんとワタシに近寄るな」

「「キモい生物だとお!?ワシのカワイイ子供達に……」」

「子供って、あんた女?」

「「……ワシに性別はない」」

「ナメッ◯星人かよ。卵も生むし。ってナメッ◯星人に失礼か。こんなキッショいのと一緒にされたら」

「「殺す!」」


雄叫びをあげるサイクロプス。

青春は黄緑を守るように彼女の前に立つ。


「青くん!?あ、守ってくれるの!イヤ~ン、青くん素敵〜!」

「ちょっと、黙っててね」


青春はどこからともなくナイフを取り出す。


「久々の大物だ。慎重に行かないとね」

「「小僧、お前いくつだ?」」

「……13だけど?」

「「食べ頃じゃなあ……魔力も感じるし、200歳の誕生日にふさわしいエサじゃ」」


とても長い舌を動かし唾液が舞う。

……汚い。


「誕生日が命日になるのか。最悪の誕生日プレゼントになるね」


青春は無表情なまま挑発。


「お年寄りならお年寄りらしく隠居してれば良かったのに」

「「クソガキが。その減らず口を悲鳴に変えてやろう」」

「無理だと思うよ。ご隠居様」



つづく。


「青くん〜頑張れ〜ワタシも手を貸すからねえ〜」


「次回 初のコンビバトル そう!ワタシと青くんの初めての共同作業!」

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