第5話 妖魔
黄緑は、半ば強引に青春を自分の家に招待した。
「さ、入って入って!」
「はあ……お邪魔します」
自宅へとあがると、黄緑の母らしき人物の姿があった。少しおっとりした風貌で、年相応の見た目をしている。
「あら?黄緑ちゃん。その子は?」
まあ、当然聞かれる。すると黄緑は、
「あ、ママ。この子は闇野青春くん。今日からワタシの弟になったの」
「お姉さん!」
まさかそのまま言うとは青春も思ってなかったようだ。
ただ、この言い方だと……
「……なに?パパの隠し子ってこと?」
黄緑ママは鬼のような形相をする。後ろに金棒もった鬼のオーラが見える気がする。
「あのクソ男……。なにが今日も愛してるだ。朝のいってきますは嘘か?処刑しましょうそうしましょう」
「あ、違う違う!ワタシが勝手に弟にしたの!パパの不義の子じゃないから!」
「え?そうなの?というか勝手に?」
黄緑ママは黄緑に詰め寄る。
「それはつまり、この子の親御さんに許可も取らず、勝手に家に連れてきたと?」
「あ、いや、その……」
実際、青春の親御さんになど何も言ってない。青春のことも強引に連れてきたわけだし……
世間一般的にいえば誘拐に近いのでは?
ため息をつき、青春は助け舟を出す。
「夜分にお邪魔して申し訳ありません。闇野青春です。今日僕の親が家を空けてまして……。黄緑お姉さんが、心配して連れてきてくれたんです」
深々とお辞儀する青春。礼儀ができている。
「ご迷惑でしたら、すぐお暇しますので……」
彼にしてみれば、むしろこれで帰れるほうがいいはず。
だが、この礼儀の良さが仇となる。
「あら!そうなの!大変ねえ。なら遠慮しないで泊まっていきなさいな!小学生一人だといろいろと大変でしょうしねえ」
「しょ、小学生では……」
「ほら黄緑ちゃん!お部屋に連れて行ってお勉強でも見てあげなさい。ご飯用意しておくから!」
泊まるはめになる青春。
ここは態度を悪くするべきだったのかもしれない。それなら追い出されるだろうし。
だが、青春の性格では演技でもそんな事はできなかった。
◇
――黄緑の部屋。
食事をとった後、黄緑は今日の出来事について青春に質問した。
「ところで、あのモンスターなんだったの?アタシが狙われた理由は?」
「詳しくは僕も知らない。妖魔と呼んでるんだけど、多分人の身体に誰しもがもつ、魔力を吸うためだと思う」
「つまり、ワタシが狙われたのはたまたま?」
青春は頷く。ただ、運が悪かっただけのようだ。
「基本的に現れるのは夜。今は10時過ぎてるし、特に危険な時間帯。こんな時間に高校生が何してたの?悪いこと?」
「違う違う!ワタシは品行方正、不良とか、補導とかそういうのとは真逆!繁華街にだって近寄った事すらないし!」
「ならなんで?」
「部活の助っ人で……打ち上げでカラオケとか行ったから……」
要は友達と遊んでいたというわけだろう。
「妖魔とか関係なく、女性の夜道は危ないでしょ。しかも人通り少ない所通ってさ」
「うーん……そうだね。ごめんなさい。でもそんな事言ったら青くんもだよ?男の子でも中学生が一人で出歩くのはお姉ちゃん関心しないなあ」
早くもお姉さんズラしてる。
「僕はいいんだよ。ヒルダもいるし……」
「そんなの関係ないよ。これからはワタシも手伝うから、一人で出歩いたらダメだよ」
「お姉さんは危ないって……。見たでしょ?あのモンスター。」
「そのために力くれるんでしょ?ヒルダ」
そういえば、そんな話しになっていた。
「「もちろん、そのつもりですわ」」
悪魔のヒルダの声が響く。
姿はなく、声だけだ。
「「ただ、多少の痛みやお腹が空いたりしますけど我慢してくださいね」」
「痛みはともかく、お腹減るの?」
「「実際にお腹が空くわけではないので、何か食べるのはダメですわ。理由は……エネルギーがワタクシに吸い取られる影響のせいかもしれませんわね」」
「よくわかんないけど、何するの?」
「「今日一日、ワタクシと同化してもらいます。耐えきれなくなったら言ってください。出ますので」」
そう言うと、ヒルダは黄緑の身体に侵入する。その光景、人には何も見えてはいない。
見えているのは青春のみ。
その瞬間、黄緑の全身に痛みと空腹が襲う。
「いぎっ!?な、なにこれ!」
身を引き裂かれるような痛み、そして、
グキュルルルルルルルルル!
……ものすごい腹の音が鳴り響いた。
顔が赤くなる黄緑。
「そ、その……めっちゃ恥ずかしいんだけど、何か食べちゃダメ?」
「「だから、ホントに空腹なわけではないので意味もないんですのよ」」
「ええ……」
そもそも晩御飯は食べたばかりだ。
「え、ていうか、マジで一日これ!?キツくない!?」
「無理ならやめたほうがいいよ」
「そう言われると……負けたくないかも」
わりと負けず嫌いなようだ。
「で、でもこ、これじゃ眠ることだって……できないじゃ」
――数分後。
「ぐがあああああああああああ……」
でかいいびきかいて、布団にも入らずに眠りにはいってる黄緑。
……図太いというかなんというか。
青春はとりあえず布団をかけてあげる。
「この調子だと、耐えられそうだね。……まいったな。僕の戦いに巻き込んじゃうじゃないか」
はあっ……と、大きなため息をつく。
「というか、僕ここで寝るの?」
黄緑の隣に布団が置かれている。……まあそういうことなのだろう。
いそいそと、青春は黄緑の寝ている布団から少しでも距離を離し、自分も眠りにつく事にする。
「あ、学校どうしよう」
何も持ってきてない事に青春は今更気づいた。
――つづく。
「青くんの学校チェック!どんな風に過ごしてるんだろ?」
「次回 青春の中学生活。そういや友達いないんだよね……」
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