第5話  妖魔

黄緑は、半ば強引に青春を自分の家に招待した。


「さ、入って入って!」

「はあ……お邪魔します」


自宅へとあがると、黄緑の母らしき人物の姿があった。少しおっとりした風貌で、年相応の見た目をしている。


「あら?黄緑ちゃん。その子は?」


まあ、当然聞かれる。

すると黄緑は、


「あ、ママ。この子は闇野青春くん。今日からワタシの弟になったの」

「お姉さん!」


まさかそのまま言うとは青春も思ってなかったようだ。

ただ、この言い方だと……


「……なに?パパの隠し子ってこと?」


黄緑ママは鬼のような形相をする。

後ろに金棒もった鬼のオーラが見える気がする。


「あのクソ男……なにが今日も愛してるだ。朝のいってきますは嘘か?処刑しましょうそうしましょう」

「あ、違う違う!ワタシが勝手に弟にしたの!パパの不義の子じゃないから!」

「え?そうなの?というか勝手に?」


黄緑ママは黄緑に詰め寄る。


「それはつまり、この子の親御さんに許可も取らず、勝手に家に連れてきたと?」

「あ、いや、その……」


実際、青春の親御さんになど何も言ってない。

青春のことも強引に連れてきたわけだし……

世間一般的にいえば誘拐に近いのでは?


ため息をつき青春は助け舟を出す。


「夜分にお邪魔して申し訳ありません。闇野青春です。今日僕の親が家を空けてまして……黄緑お姉さんが、心配して連れてきてくれたんです」


深々とお辞儀する青春。礼儀ができている。


「ご迷惑でしたら、すぐお暇しますので……」


彼にしてみれば、むしろこれで帰れるほうがいいはず。


だが、この礼儀の良さが仇となる。


「あら!そうなの!大変ねえ。なら遠慮しないで泊まっていきなさいな!小学生一人だといろいろと大変でしょうしねえ」

「しょ、小学生では……」

「ほら黄緑ちゃん!お部屋に連れて行ってお勉強でも見てあげなさい。ご飯用意しておくから!」


泊まるはめになる青春。

ここは態度を悪くするべきだったのかもしれない。それなら追い出されるだろうし。


だが、青春の性格では演技でもそんな事はできなかった。





――黄緑の部屋。


食事をとった後、黄緑は今日の出来事について青春に質問した。


「ところで、あのモンスターなんだったの?アタシが狙われた理由は?」

「詳しくは僕も知らない。妖魔と呼んでるんだけど、多分人の身体に誰しもがもつ、魔力を吸うためだと思う」

「つまり、ワタシが狙われたのはたまたま?」


青春は頷く。ただ、運が悪かっただけのようだ。


「基本的に現れるのは夜。今は10時過ぎてるし、特に危険な時間帯。こんな時間に高校生が何してたの?悪いこと?」

「違う違う!ワタシは品行方正、不良とか、補導とかそういうのとは真逆!繁華街にだって近寄った事すらないし!」

「ならなんで?」

「部活の助っ人で……打ち上げでカラオケとか行ったから……」


要は友達と遊んでいたというわけだろう。


「妖魔とか関係なく、女性の夜道は危ないでしょ。しかも人通り少ない所通ってさ」

「うーん……そうだね。ごめんなさい。でもそんな事言ったら青くんもだよ?男の子でも中学生が一人で出歩くのはお姉ちゃん関心しないなあ」


早くもお姉さんズラしてる。


「僕はいいんだよ。ヒルダもいるし……」

「そんなの関係ないよ。これからはワタシも手伝うから、一人で出歩いたらダメだよ」

「お姉さんは危ないって……。見たでしょ?あのモンスター。」

「そのために力くれるんでしょ?ヒルダ」


そういえば、そんな話しになっていた。


「「もちろん、そのつもりですわ」」


悪魔のヒルダの声が響く。

姿はなく、声だけだ。


「「ただ、多少の痛みやお腹が空いたりしますけど我慢してくださいね」」

「痛みはともかく、お腹減るの?」

「「実際にお腹が空くわけではないので、何か食べるのはダメですわ。理由は……エネルギーがワタクシに吸い取られる影響のせいかもしれませんわね」」

「よくわかんないけど、何するの?」

「「今日一日、ワタクシと同化してもらいます。耐えきれなくなったら言ってください。出ますので」」


そう言うと、ヒルダは黄緑の身体に侵入する。その光景、人には何も見えてはいない。


見えているのは青春のみ。


その瞬間、黄緑の全身に痛みと空腹が襲う。


「いぎっ!?な、なにこれ!」


身を引き裂かれるような痛み、そして、


グキュルルルルルルルルル!


…ものすごい腹の音が鳴り響いた。


顔が赤くなる黄緑。


「そ、その……めっちゃ恥ずかしいんだけど、何か食べちゃダメ?」

「「だから、ホントに空腹なわけではないので意味もないんですのよ」」

「ええ……」


そもそも晩御飯は食べたばかりだ。


「え、ていうか、マジで一日これ!?キツくない!?」

「無理ならやめたほうがいいよ」

「そう言われると……負けたくないかも」


わりと負けず嫌いなようだ。


「で、でもこ、これじゃ眠ることだって……できないじゃ」


――数分後。


「ぐがあああああああああああ……」


でかいいびきかいて、布団にも入らずに眠りにはいってる黄緑。

…図太いというかなんというか。


青春はとりあえず布団をかけてあげる。


「この調子だと、耐えられそうだね。…まいったな。僕の戦いに巻き込んじゃうじゃないか」


はあっ……と、大きなため息をつく。


「というか、僕ここで寝るの?」


黄緑の隣に布団が置かれている。

…まあそういうことなのだろう。


いそいそと、青春は黄緑の寝ている布団から少しでも距離を離し、自分も眠りについた。


「あ、学校どうしよう」


何も持ってきてない事に青春は今更気づいた。


つづく。


「青くんの学校チェック!どんな風に過ごしてるんだろ?」


「次回 青春の中学生活。そういや友達いないんだよね……」

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