第2話  闇野青春くん

「あ、あったあった」


 少女を助けた少年、おそらく闇野青春という名前。

 そんな彼はバックからオカリナのようなものを取り出す。

 するとおもむろにオカリナで1曲吹く。穏やかな、優しい旋律。


 ほんのわずかだが曲を吹ききると、満足そうにオカリナをしまう。


「今の曲は?」


 少女は聞いた。青春はキョトンとして言う。


「……さあ?」

「え? さあって……」

「死者への手向け、見たいなものかな……。特にすることに意味なんてないし、適当に作った曲だよ」

「意味はないし、死者への手向けって……。相手は化け物だよ?」


 少女の発言に、青春は少し冷たい表情を見せる。


「死は平等だよ。それにもしかしたら、あのスライムにも事情があったかもしれない」

「事情?」

「例えば人を食べないと生きていけないから襲ったとかね。それも自分が、とかじゃなく子供のためとかだったりもあるかも」


 事情……。少女はそんな事思いつきもしなかった。ただ、怖い目にあわせた化け物と毛嫌いしかしてなかったし。


「もちろん、だからって許される事じゃないよ? だからお姉さん助けるために殺したし。なんなら今のも僕の単なる想像、妄想にすぎない。普通に欲望のためにお姉さん襲っただけかもだし」

「そ、そうよ。そうに決まってるって……」

「どちらかはわからないけど、せめて死への旅立ちくらいは安らかに送ってあげたいかなって。罪人ならあの世で裁かれるだろうし」


 少女は思った。


(良い子~! なんて良い子なの! それに……)


 少女はまじまじと青春の顔を見る。子供ながらに恐ろしく整った顔立ちだ。綺麗な青髪にその顔がとてもよくはえる。


(か、カワイイ……。あれ、ワタシってショタ趣味あったのかな? というか将来楽しみすぎないかな? すごいイケメンになりそう……)


 一人、妄想を繰り広げている。

 今さっき死にそうな経験したのに、たくましい。

 はたから見たら、なかなか危ない少女に見られるかもしれない。


「ところで、お姉さんって高校生?」


 青春は質問してきた。少女は頷き、手を前に出す。


「あ、うん。そういえばお礼も言ってなかったね。ありがと。ワタシ、夏野黄緑なつのきみどり。高校二年生」

闇野青春やみのあおはる、中一。きみどりって珍しいね。みどりさんならいそうだけど」

「ハハハ。よく言われる」


 互いに握手した。


(中一なんだ、小学生かと思ってたけど。……高校生と中学生ならありなのかな?)

 ※手を出したらアウトです。


「青春くんも珍しい名前だよね。最初はせいしゅんくんかと思った」

「せいしゅんでも珍しいでしょ。……それより、」


 青春は手を出してくる。

 握手ならさっきしたが……


「悪いけど、助けた代金もらえるかな」


 ……まさかの発言だった。

 良い子は撤回だろうか。


「え、なに、お金取るの?」


 聞くと、青春は頷く。


「ひ、酷い! 良い子って思ったのに! 金の亡者だなんて! 鬼! 悪魔! 守銭奴!」


 ショックのせいか、暴言連発する黄緑。すると青春は落ち込むような顔をする。


「そ、そこまで言う? 酷くないお姉さん……」


 な、泣く? そう思った黄緑は少しあたふたする。


「あ、えと、その……」

「さすがに、ムッとしたから値上げね。……100円に」

「え、ひゃ、100円?」


 あまりにも低い額。しかも値上げした結果でだ。

 さすがに暴言吐いた黄緑が、情けなくなるレベル。

 それもこんな年下の男の子相手に。


 さすがに中一、泣くような事はないが、少しスネた態度を見せる青春。


「僕は他人のために力を使う時、どうしても対価をもらう必要がある。ただ、それだけなのに……」

「ご、ごめんね! 100円くらいお姉さん出すから!」


 黄緑はポケットに手を入れる……が、


「あれ……?」


 ない。財布がないのだ。


「そういえば、持ってたカバンもない!」


 逃げるのに必死で落としたようだ。


「お金……ないの?」


 青春は聞くと、ぼーぜんと頷く黄緑。青春はため息。


「前に助けた、路上生活してたおじさんでも一円とはいえ出せたのに……」


 花の女子高生に呆れる青春。


「まあいいや。なら物でもいいよ」

「物って何もないけど……。カバンないし。それこそ身に付けてる制服とかしか……」

「それだと追い剥ぎみたいになるからダメだよ。……というかホントに何もないの?」


 頷く黄緑。……すると青春の顔が青くなる。青春だけに。


「ちょっと……それ、まずいかもよお姉さん」

「え、まずいって何が……」

「お姉さん、殺されちゃうかも」


「え?」



 ――つづく。


「え、殺され? え!?」


「次回は提案。なにか方法……あるのかな?」

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