曇り空の中の鼠狼

歯茎

ep.0「気づいたんだ」

 「気づいた。」まるでこの世の真理を見抜いたような言い方だが、その表現が彼の中では一番正しかった。

 夏間、日差しが一番猛威を振るうであろう時間帯に彼、相澤龍馬は首筋に紫外線を目一杯受ける電車という空間の中で最悪といえる位置に座っていた。

 平日の昼間ということもあり、席には空きがあったので移動することもできたが、なんとなく移動するのが気恥ずかしくかんじ、耐えることにしていた。

 その日差しに首筋を焼かれ、スマホを見るために首を下げていた彼は思わず顔を見上げた。何気ない動作だったが、その瞬間彼が感じたのは、この世の禍々しさといえば大層な、しかし鬱屈とした感情であった。

 「気づいた。」目に入ってきたのは下を向くサラリーマン、下を向くショッピングバックを持った女性、様子がおかしいが関わりたいとは思えないおじいさん、下を向く女子高生。車内一帯を見回すが彼とあまり目を合わせたくないおじいさん以外が一心不乱に下を向いていた。別段おかしいことではない。ただ皆それぞれスマートフォンを見ているだけだ。相澤龍馬も熱にやられなければ目的地までずっと下を向くばかりであっただろう。

 彼自身も車内を線対象で分けれるパーツの一部であったことは理解していた。しかし彼はその形容し難い禍々しさに鳥肌を立てていた。瞬時に彼は「孤独」を感じることになる。まるで、この世が実は仮想現実で、自分だけがその真実を知ってしまったかのような。

 これがきっかけというべきか。生まれというべきか。はたまた育ちというべきか。彼の希望もない代わりに失望もなかった大学生活に、ゆっくりと沼地の沼が注がれていった。

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