お花畑転生娘とゲームの始まり
虹色の光に包まれたミラは、かつてこの世界に転生した時にも訪れた、あの不思議な空間にいた。
ふわふわした雲のようなものがしきつめられた、白っぽい光に満ち溢れた場所。
そこに砂糖菓子と宝石で作られた人形のような、あの美しい女神の姿があった。
「女神様! あたし、どうしてもあの人を助けたい! ううん、あの人だけじゃなくって。みんなが惨めなまんま、何の意味もなくバタバタ死んでいく、こんなクソな世界を変えてあげたい!!」
思わず女神の両手をひしと握りしめ、勢い込んで叫ぶミラ。
「だから教えて! どうすればあの人を助けることができるのか。どうすれば治癒魔法を使ってこの世界を救えるのかを!!」
ミラの真剣な姿に、女神は感極まった面持ちになる。
「ああ、この言葉を待っていたのよ。苦労して何年も待った甲斐があったわ!」
「どうゆうこと?」
「記憶が戻ってすぐに力が覚醒してしまったら、あなたは『ヒロインだから』という理由だけでゲームに取り組んで、ただシナリオをなぞるだけの行動を取るかもしれない。それでは意味がないの。あなたが救うべき人々の姿を知って、苦しんでいる彼らを、命がけで……いいえ、魂を賭けてでもこの世界を救おうと、心の底から思ってくれないと、真の救済はもたらされないわ」
怪訝な顔をしたミラに、女神はうっとりとした声で答えた。
両手をしっかりと組み合わせ、瞳を潤ませ夢見るような表情は、思わず見とれてしまうほど神々しくも美しい。
「そうだったんだ……」
「本当は、すぐにでも世界救済に取り組んでほしかったの。あなたをあの世界で見つけてからすぐに。でも、あなたにこの世界のありのままの姿を知って欲しかった……だから何度も味わってもらわなければならなかったの。この世界がどれほど理不尽と無慈悲に満ちているか。人々がどれほど無意味なまま惨めに死んでいかなければならないのか。自分がどんな世界を救わなければならないのかを正しく知ってもらうために」
今度は女神の方からミラの両手を握りしめ、じっと彼女の目を覗き込んで唄うように囁きかける。
ダイヤモンドのようにまばゆい輝きを放つ透明なまなざしに、ミラはすっかり魅入られてしまった。
「だからね、私はとっても嬉しいのよ。あなたがこの世界のためにこんなにも心を痛めてくれていて。この世界に這いつくばって生きるしかない、蛆虫みたいに惨めな人たちにも心を寄せてくれて」
ミラが冷静であったなら、気付いたかもしれない。
本当に「苦しんでいる人々を救う」ことを目指しているにしては、女神の言葉はあまりにもおかしいのだ。
この世の理不尽に苦しんでいる人々をどこまでも嘲り、蔑み、虫けら扱いするような存在が、本当に「救済」を望むのだろうか?
よく見ると、その口元は卑しい愉悦に歪み、瞳には冷ややかな光が宿っている。
しかし、ようやくゲームが始まったことに安堵したミラは、この時すっかり気が緩んで感性が鈍っていた。
無数の光をまとった女神の美しさに目がくらみ、全く見えていないのだ。その口元に浮かぶ歪んだ笑みも、瞳の奥底に宿った昏い喜びも。
だから何の疑いもなく応えてしまう。意気揚々とした女神の呼びかけに。
「さあ、始めましょう。この世界を救済するための『ゲーム』を!」
「もちろんです、女神様! あたし、命を……いいえ、この魂を賭けて、精一杯がんばります!」
さあ、ゲームの始まりだ。
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