お花畑転生娘と女神の願い
もう一度女神の言葉を正確に思い出して情報を整理しよう。マリーローズにそう促され、ミラは当時の事を思い起こしながらぽつりぽつりと語りはじめた。
「え…えっと……確かあたしが気がつくなりあたしの手を握って『お願い、あたしの世界を救って』てお願いされて」
「それで?」
「なんか『あたしの世界の人々は疲弊しちゃっててもう大きく歴史を動かすだけのエネルギーがないの』って。で、どゆことって訊いたら『みんなずっと貴族に抑えつけられてたからただ生きてるだけ精いっぱいなの。だから時代を動かすエネルギーが足りないの』って」
「どういう事でしょう」
「う~んと……そうだ。『本当ならそろそろ自分たちの権利に目覚めて近代化のプロセスが始まる頃なのに、目先の生きる事しか考えれない状態なのよ』って」
「なるほど」
「で、『このままだと人々が活力を失ったまんまで、ただ衰えていって、文化とかもみんな喪われて、もっともっと原始的な時代に逆もどりしちゃう』って」
「そうですか」
「それで、もうこの世界の中から救世主が現れるの無理ってなって、それであたしの世界でこっちの世界をモデルに
「なるほど。そこでゲームの話が出てきたんですね」
頷くマリーローズ。
彼女が
「それで、ゲームをしっかりやり込んでたあたしが何かで死んじゃって、こっちの世界に転生して世界を救ってほしいって」
「ゲームをやりこんでいたから、この世界の救世主に選ばれたと言われたのですか? ゲームのヒロインはあなたに似せて作られたのでは?」
「うん。そんだけやりこんでればこっちの世界の事もよくわかってて戸惑ったりしないでしょって」
マリーローズの質問の意図が通じなかったのか、ミラはゲームをやりこんでいた流れでヒロインに選ばれたという経緯に疑いを持っていないのか。
微妙にずれた答えにマリーローズはかえって得心が行ったようで、軽くうなずいて話の続きを促す。
「なるほど。その時はあなたをモデルにヒロインを作ったという話は出なかったのですね。そこで具体的には何と言われたのですか?」
「伝統とか格式とか、そういうカビの生えたこの世界の古い常識にしばられないあたしだから、疲れ切ったこの世界を救えるんだって。だからゲームで親しんだこの世界の知識を利用して世界を導いてって」
「『ゲームの内容を現実に再現して』もしくは『魔族を討伐して』と言われた訳ではないのですね」
念を押されてミラはハッとした。
「え、だってゲームの知識を利用してって事はそういう事じゃないの?」
「あくまでゲームはゲーム、現実は現実。ゲームの内容がそのまま現実にあてはまるわけではないと思いますよ」
ごくごく当然の指摘に思えるが、ミラにとっては思ってもみないことだったらしい。マリーローズの穏やかな言葉に、虚をつかれたように一瞬押し黙った。
「え?え?だってそれじゃゲームの知識って何に使うの?」
「やはりこの世界の価値観や自然環境、社会に関する知識があれば、元の世界の常識や価値観を持ったままでもこちらの世界に馴染みやすいからでは? 社会の構造も技術の水準も全く違う世界から来たなら価値観も大幅に違うでしょうし、全く予備知識がなければ戸惑いが大きすぎて世界に慣れるだけで手一杯でしょう」
「え?でも……ゲームでも世界の危機で……」
「何かについての大まかな知識を持ってもらうためにゲームや物語を使う、という手法は教育の世界では珍しくありません。かつて子供向きの社会の教科書として、妖精の魔法にかけられた少年が国中を一周して様々なものを見聞きすることで、その国の歴史や倫理観などの常識を学んでいくという物語を作った国もありますし」
「何それ、そんなの聞いた時ない」
「そしてゲームや物語を作る際、起承転結をハッキリさせて飽きさせないために悪役を設定したり世界の危機を盛り込むのもよくある事です。早い話がこの世界の地理や歴史、公民を学ぶためのチュートリアルとしてゲームが存在したのではないでしょうか」
じわじわとマリーローズの言葉を理解するにつれ、ミラの顔が青ざめていく。
「もし本当にゲームの内容をそのまま再現しなければならないのであれば、貴女は失敗してますよね? おそらくゲームの中ではセレスは貴女の言うようなイジメをしたり、階段から突き落としたりしたのでしょう。しかし私たちが経験した現実では、セレスは間違ってもそのような行為には及んでいません。
その時点で貴女は『ゲームの世界』を忠実に再現するのに失敗している」
「そんな……」
すっかり血の気の引いてしまったミラは自らの身を抱きしめたままガタガタと震え始めてしまった。
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