お花畑転生娘とゲームと現実の間

「ねぇ、あなただってそう思うでしょう?」


 大貴族を陥れて破滅させたのも、魔族と呼ばれる人々を弾圧したのも、全ては世界を救うため。そう断言したミラは熱っぽいまなざしでマリーローズに同意を求めた。

 ねっとりとした視線と熱のこもった言葉が底知れぬ狂気を感じさせる。


「私には、それがどうしても必要だったとは思えません」


 マリーローズはミラの狂気を哀れに思いながらも、きっぱりと否定した。


「何度も言わせないでよ。世界を救うために、魔族討伐イベを起こさなきゃで、そのためには逆ハー決めて悪役令嬢処刑してボーナスステージ解放しなきゃで……」


「それはゲームの中の話でしょう? 現実にこの世界でその『悪役令嬢の処刑ボーナスステージの解放』が必要だったんですか? そもそも『魔族討伐』とやらが本当にこの世界を救ったと思ってるんですか?」


「……っ! 当たり前でしょ!! だってゲームでは……」


「ゲームはこの世界をもとに作られた。ということはこの世界そのものではないのです。現実のこの世界で、あなたの言う『魔族討伐』は、本当に必要だったのですか?」


 うわごとのようにゲームが、女神さまが、と繰り返すミラに、マリーローズは淡々と問いただした。


「貴女の言う『魔族討伐』が本当にこの世界を救うことになるのかは甚だ疑問です。あなたのした事がどんな結果を招いたのか、よく考えてみてください」


  マリーローズの指摘にミラは激昴げきこうする。

 その言葉を受け入れてしまえば正義と信じてゲームのままに行動した自分自身の正当性を根本から揺るがしてしまうことになるから。


「だからっ!! アンタみたいなボンヨーなグズじゃわかんないかもだけどっ!! あたしは本当に女神さまにっ……」


「貴女がこの世界を救うよう女神に直々に頼まれたのはわかりました。また、その女神が世界を救う者を作るために貴女が元いた世界でこの世界を模したゲームを作らせたのもわかりました。しかし、この世界を救うにあたって本当にその『この世界を模したゲーム』の物語を再現しなければならなかったのかは疑問だと申しているのですよ」


 ヒステリックにわめくだけのミラをぴしゃりと遮り、マリーローズは静かな口調で訊ねた。

 夜空のように澄んだ黒い瞳に正面からひたと見据えられ、ミラは思わず目を泳がせてしまう。そのまなざしはどこまでも真っすぐで、目を合わせると魂までもが吸い込まれてしまいそうだ。


「女神は本当にあなたに『ゲームの中の行為をなぞって世界を救って』と頼んだのですか? 本当に『ゲームのストーリーをこの世界で再現して』と言われたのですか?」


「はぁ? あ、当たり前でしょ?」


  戸惑うミラ。

 てっきり「女神からこの世界を救うように頼まれた」ことを疑われているのだと思っていたが、そうではなく「世界を救うためにゲーム内と同じ行動をとることが必要だった」ことに疑念を持たれているということをようやく理解したのだ。


「本当に? 貴女の勝手な解釈や思い込みでなく?」


「だからっ」


「もう一度、女神の言葉を最初から正確に思い出して。ちゃんと情報を整理しましょう」


  思ってもみなかった提案にミラは戸惑うものの、転生前に女神と会った時のことを思い起こして途切れがちに語り始めた。

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