さらっと昇進
「辞令、カイ・サークを連邦軍中佐に任ずる。なお位階は従前のままとする。以上」
ルティネイツはまず最初の辞令を読み上げた。
「はっ!」
カイは一応形式通りに敬礼した。
「辞令、カイ・サーク中佐をクラスフォート騎士団第五騎士隊隊長に任ずる。以上」
続けてもうひとつの辞令も読み上げた。
「はっ!」
再びカイは敬礼した。
「以上って二回言ったけどな」
カイは辞令を受け取りつつ笑ってそう言った。
うおっふぉっん!
何か随分と喉の調子が悪そうな固太りが居る気がするけど多分気のせいだなうん。
「おめでとうカイ」
ルティネイツはそう言って握手してきた。
「ありがとうございます典務長」
カイはクレスノフへの嫌味として丁寧に言った。
本来はルティネイツに辞令を出す権限はないが、そこは国王の弟という権威が働き、またいちいち帝都まで行くのも来てもらうのも面倒なので、推薦状を送った翌日には承認も待たずに辞令が発せられた。もちろん日付は8月31日付ではあるが。
「第五隊は約百名程度、少し小規模だが最初は慣れるためと思って欲しい」
ルティネイツは申し訳なさそうにそう言った。
「いやそれで充分過ぎるから」
カイは謙遜でもなくそう言った。
「9月1日着任だからそれまでにアストラントで官舎でも探しておいてくれ」
ルティネイツはそう言った。
「スティーブの仮住まいでもあるしな」
カイもそう返した。
スティーブはこのまま
「それにしても大丈夫なのか?」
クレスノフはカイにそう訊いてきた。
「何がですか?」
これにはカイは素直に応じた。
「いくら傭兵とはいえ彼は
クレスノフは当然の懸念をした。
「見た目通り頼りになりますよ」
カイは一応丁寧にそう言った。
「武術に秀でる事と軍務は違うぞサーク中佐」
クレスノフは当然の指摘をした。
「だから武術教官を希望したんじゃないですか」
カイはニコヤカに答えた。
確かにクレスノフの指摘通りであり、それはカイもスティーブ自身も同感であった。のでスティーブは少し考えて武術教官を希望したのである。武術教官なら多少は自由が効くし、上下関係もあまり関係なさそうというのが理由だったが。
「だがハードルは高いぞ」
クレスノフはまた当然の事を言った。
「大丈夫ですよ」
カイはニコヤカに応えた。
「閣下、手心を加える訳には参りませんぞ」
クレスノフは鯱張ってルティネイツにそう言った。
「もちろんだ」
ルティネイツも素直にそう応じたが、クレスノフが退出するとやや表情を改めた。
「カイ、彼は大丈夫なのか?」
ルティネイツはやや心配そうに言った。
「何だよ信じてるんじゃないのかよ」
二人になったのでカイは友人の口調でそう言った。
「教官の中に些か面倒なのが居るんだ」
ルティネイツはそう言った。
「腕自慢か?」
カイは問うた。
「ああ、強襲部隊のエースで扱いづらい」
ルティネイツは眉根を寄せてそう言った。
「大丈夫だよ。気になるなら
カイは笑ってそう応じた。
「鯨斧?」
ルティネイツは片眉を上げて問い返した。
しかしカイはそれ以上は笑って答えずおどけた敬礼をして退出してしまった。相変わらずだなあいつは。友人が心配ではないのか?それともカイがそれほど信頼している男という事なのか?確かに腕だけではなく頭も良さそうな男だったが。
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