新たなる任務
輝く執務室
ロードウェル王国王弟、フェンサーバーグ子爵、
「久しぶりだな……カイ・サーク」
ルティネイツは不器用にそう挨拶してきた。
「……あ、久しぶり」
カイは驚いて座ったままそう返してしまった。
一体どれほど変わってしまったのかと危ぶんでいたら、一見では全然変わっていないように見えた。変わったのは伸びた黒髪だけで武辮髪が良く似合っていた。だが変わったという前提で想像してたら、昔の姿のまま現れたので返って戸惑ったのだ。
「こちらは?」
ルティネイツはスティーブを見てそう訊いてきた。
「ああ、今補佐やってもらってるスティーブだ」
カイは簡単にスティーブを紹介した。
「スティーブ・ルイソン、ただの傭兵ですよ」
スティーブは立ち上がってニコヤカにそう言った。
「
ふいにルティネイツの後ろの男がそう言った。
「クレスノフ中佐」
ルティネイツが静かにその男を窘めた。
「ここでは何だから……ああ、……まあ行こう」
ルティネイツは微妙に戸惑いつつそう言った。
そうしてそのクレスノフ中佐という人物を先頭にして一行は控室から本営の二階奥へと移動した。進む程に何となく調度品の質が上がっていく気がする。
「……まあ想像通りだ……」
ふいにルティネイツはぼそりと言った。
「……なにが?」
カイは意味が判らずそう問い返した。
「……まあその……」
ルティネイツは言い淀んだ。だがこれは昔からなので特別な事ではない。
「三十手前で典務長など実力ではあり得ない」
ルティネイツは思い切った事を言った。
「当然の評価です!」
先頭を歩くクレスノフが大声でそう言った。
「あ、いや、少し話させてくれ」
ルティネイツはクレスノフにそう言った。
「失礼しました!」
またクレスノフは大声でそう言い口を閉じた。
「その、なんだ」
またルティネイツは口ごもりつつそう切り出した。
「叔父上が団長を務めておられてな」
ルティネイツは恥ずかしそうにそう言った。
「それでも典務長はすげえよ。ただの甥っ子を典務長にはしねえだろう」
カイはそうフォローした。
「ああ、その、まあ、そうだな」
ルティネイツは言い淀みつつそう言った。
そのまま四人はしばらく無言のまま進んだ。カイには判るようで判らない。仮にその叔父上とやらがルティネイツを贔屓したとしても、全くの無能を引き上げようとは思わないだろう。久しぶりに旧友と再会して栄達しすぎた事を照れているのだろか?
「ああ、そのだな、私が言いたいのはだな」
ルティネイツはまた言い淀みつつそう言った。
「なんだよもう」
カイはつい素に戻ってそう訊いてしまった。
「叔父上は些かエデリア様式に凝っておられてな」
ルティネイツがそう言った時には既に廊下の突き当りの両開き扉の前に来ていた。
「私はあまり好きではないのだが」
扉の左右に居た衛兵が敬礼して扉を開けると──
ぴっかーん、きらりーん
確かにそんな擬音が聞こえた。あれここどこだっけ?王宮かどこかにワープしたか?王宮の内部なんて見たことないけど。うわあ部屋が光ってるう。
「まあその、あくまで叔父上の趣味なので……」
ようやくルティネイツの弁解の意味が判った。
「王宮かよ……」
カイも驚いてそう言った。
「こりゃすげえ」
スティーブが簡潔に感嘆した。
カイとスティーブがその部屋に気圧されつつも呆れ果てていたら、クレスノフが部屋に居た女性兵士に無言で目配せをした。多分お茶の用意でも指示したのだろう。女性とはいえ兵士なのだから当然軍服姿なのだが、非常に強い違和感を感じさせた。
「……こんな部屋で叱られたくねえなあ……」
カイは案内されたソファに座りながら、感想を装ってさり気なく牽制をした。
「叱られる?」
ルティネイツはやや驚き顔でそう訊いてきた。
「あー、そんな事を言ってたんだよ。いきなり呼びつけられたから説教か?って」
カイはにへら笑いを浮かべてそう言った。
「私にはお前を叱る権限などないよ」
ルティネイツは苦笑気味にそう言った。だがそれは単なる謙遜ではなかったようだ。
「……あっても二十代の若造にはとてもとても」
ルティネイツは自嘲に切り替えてそう言った。やはり若い彼には苦労が多そうだ。
「お前は生真面目だからな」
カイは格上の同期を慰めるような事を言った。
「貴官は些か自由過ぎるようだがな」
ふいにクレスノフがそんな事を言った。
「え?」
驚いてカイが問い返す。
「例え旧友でもここは本営で、貴官の前におられるのは典務長閣下だと言っておる」
クレスノフはぴりぴりとした声でそう言った。
「良いクレスノフ中佐。私の用事でお越し頂いた客人だ。これは軍命ではないのだ」
ルティネイツは困ったようにそう言った。
「失礼致しました!」
クレスノフはソファから立ってそう言った。
カイはちらりと横目でクレスノフを見た。ルティネイツには学生時代から側近がついていたがこの男に見覚えはなかった。年齢もカイたちより少し上に見える。いつからルティネイツの側近なのか知らないが一番面倒なタイプだ、とカイは思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます