待たされる日
ぼけー。
「…………」
カイもスティーブも思考停止状態だった。陸軍の主計科でさんざん待たされた挙句、正義の審判騎士団本営に来たら身分証明とアポイントメント確認で待たされ、さらに待機室に通されても当のルティネイツが会議中でもう一時間以上待たされていた。
「出直さねえか?」
スティーブは三杯目の茶を啜りながらそう言った。
「そうも行かねえだろう」
カイも顔を呆けさせたままそう言った。
「将官さまに時間指定なしは逆に失礼だろうよ」
スティーブは常識的なぼやきを言った。
「まさか典務長とはなあ」
カイも驚き呆れつつそう言った。
カイの予想は外れた。マティニソン王家の現国王の弟なら、ひょっとしたら上三隊長もあると予想していたが、実際にはさらに上の典務長だったのだ。
典務長とは騎士団の序列では実質No.3と言ってもいい。その上には団長と副団長、他にも議長、書記長、参謀長などが居るが、典務長は事務方のトップなので独立した影響力を持つ。反面激務の代名詞でもあり普通は三十前で就任する役職ではない。
「いやとんでもねえ出世だわ」
カイは呆れてそう言った。
「昔、人口が四万人くらいの村を守った事があったよな。あれが全部部下だぜ?」
スティーブも驚き呆れてそう言った。
「すっげえなルティネイツ」
カイは驚きすぎてもう現実感がなかった。
カイも高級士官なので、騎士団に所属していた頃に会議などで典務長と同席した事はある。だが話した事など一度もない。騎士の常識として、団長は象徴だが典務長はボスなのだ。下手な事を言ってニラまれたらたまったものじゃない。
「三十手前で務まる役目かねえ」
スティーブは当然の疑問を呈した。スティーブはカイより年上で今年35歳である。年齢で人を評価するのも愚かしいが、さすがに若すぎるように思えた。
「まあ王弟だしなんとかなんじゃねえの?」
カイはもはや他人事のように言った。
「でもアレが全部部下だぜ?」
そう言ってスティーブは窓の外を指さした。
窓の外では丁度行進訓練が行われていた。結構な人数だ。全部で千人くらいは参加しているかも知れない。しかしそれでもルティネイツが管理する団員の1/40という事になる。俺、巡回視で千人も指揮した事あったっけかな?ないんじゃないかな?
「すげえよなあ。何でもできそう」
カイは放心したようにそう言った。
「本当に何の用で呼んだんだろうな」
スティーブがまたその疑問を呈したが、ある意味で当然の事である。見ると聞くとは大違いそのものだ。スティーブの人生には実在しない筈の人間だ。
「こうなると本当に懲罰あるかもなあ」
カイは眉根を寄せてそう言った。今まではあいつも偉くなったもんだ、という皮肉交じりの油断があったが、まさかの中央騎士団の典務長閣下なのだ。
「勲爵士が巡回視など言語道断!とかな」
スティーブはあり得そうな予測を口にした。
「マジでえ?勘弁してくれよお」
カイは顔をしかめて横を向いた。
「同期の友人から説教されるとか哀れだな」
スティーブは嫌味たらしく同情するフリをした。
「哀れな剣の騎士にお恵みを~」
カイは冗談めかしてそう言った。
「哀れな巡回視補佐にもお恵みを~」
スティーブもおどけてそう言った。
がちゃ
不意にノックもなしに扉が開けられた。慌てて振り返ると二人の男が立っていた。
「……茶が足りないか?」
長身の男が不思議そうにそう言った。
「あ、大丈夫です」
カイはとりあえずそう返した。
「いや済まん、変な声が聞こえたので」
懐かしい顔がやや驚いた表情でそう言った。
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