第4話

目が覚めたらもうお昼過ぎで、気怠さだけがこの身を襲う。なんとかシャワーを浴びて、延長料金を払ってチェックアウトする。


空はあまりにも能天気だったので、帽子を目深に被る。


ふとリサイクルショップの看板が目に入る。

そこには楽器の2文字。


自然と足が向かっていたのは、きっとこの天気のせい。



楽器コーナーに入ると、そこは異空間だった。

見た目も値段も違う楽器が、所狭しと並んでいる。


このギター、彼女のそれに似ている。


周りに誰もいない事を確認して、恐る恐る手に取る。


彼女がやっていたようにギターを構え、右手の爪で鳴らしてみる。


思ったより大きな音が響き、肩が跳ねる。


さっきより小さな音になるように気をつけつつ、何回か鳴らす。



なんか違う。


あまりにも煌びやかなその音は、どうしても好きになれなかった。



店内をぐるりと歩いてみる。

様々な物が置いてあったが、どれにも興味を惹かれない。


たどり着いたのは、また楽器コーナー。


しかし置いてあるのは、いわゆるジャンク品のようだ。


弦がないもの、安っぽいステッカーでボロボロなもの。色褪せて埃を被っているもの。


でもさっきの華やかすぎる楽器コーナーよりは、いくらか落ち着く。



数本置かれたギターのうち、一本に目がいった。


パールか何かの上品な装飾と、綺麗な杢。


でも塗装が劣化しているのか、ところどころ白濁している。おまけに弦はサビサビだ。


それを手に取り、弾いてみる。


甘い、としか形容できない音がした。


主張は控えめで、でも存在感のある音。


彼女のギターとはまるで違うけど、いい音だ。


レジにそのギターと、横に売られていた袋を持っていく。


店員が声をかけてきた。


ジャンク品で傷が多い上に、ネックがひどく反っているのでネックアイロンをかけないといけない。フレットもかなり減っていて、擦り合わせが必要だと。


よく分からなかったがこれを買うと伝えると、渋々といった様子で会計を進める。



袋にギターを納め、駅までの道を歩き出す。


いつもの場所に、彼女がいた。


今日は路上ライブでなく練習なのか、ずっと同じフレーズを弾いている。


その近くのベンチに腰掛けて、ギターを取り出す。



ネットでギターの弾き方を検索する。


どうやらチューニングというものが必要なようだ。

スマホに元から入っているアプリでできるというので、それを起動しチューニングとやらをしてみる。


アルファベットが出てくるというが、スマホは何の反応も示さない。


ギターの上の方にあるペグをくるくる回してみるが、アルファベットが一瞬出てきたと思うとすぐに消える。


よく分からないのでチューニングは飛ばし、Emコードを弾くといいとあったのでそれに挑んでみる。


中指を5弦、薬指を4弦に置くそうだが、5弦と4弦がどこだか分からない。

サイトの写真を見てようやく理解し、そこに指を置き弾いてみる。


しかしギターのじゃらーんという音に混じってぴーんという変な音が鳴ってしまう。



1時間ほど格闘し、左手は弦を強く押さえるとギターの音が鳴るという事実に辿り着いた。


その間も彼女はずっと練習をしていた。すごい集中力。


私はもう脳みそと指が限界だったので、袋にギターをしまい自宅へと向かう。



ギターを弾くのがこんなに大変だったなんて。

淡々と演奏を続けられる彼女の凄さを思い知った1日だった。

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