第3話
華の金曜日だというのに残業が続き、あの場所に着いたのは終電がなくなってからだった。
彼女の姿を探すけれど、そこには若い男が立っていて、愛だの青春だのといった雑音を掻き鳴らしている。
ヘッドフォンを付け、足早にそこを通り過ぎる。
ふと疲れが襲ってきて、体は喫煙所に向かっていた。
見覚えのあるギターケースに、黒いワンピース。
彼女だ。
幸か不幸か、彼女の右隣しか空いていなかったので、そこに陣取る。
火を付け一吸いしたところで、彼女のタバコがなくなったようで灰皿に吸い殻を入れていた。
もう行っちゃうんだ。
それから何故か少し、彼女は動きを止める。
急にまた動き出し、鞄からショートピースの箱を取り出した。
しかし空だったのか、そのまま箱をしまう。
手に持っていたホープの箱から一本取り出し、彼女に差し出す。
彼女は軽く目で会釈し、受け取った。
それからは何故だろう、彼女の顔を見れなかった。
自分でもなんでこんな事をしたのか分からない。
彼女の演奏が聴ければ、それで十分だったはずなのに。
なんで彼女が去ると思ったら、寂しくなったのだろう。
ホテルの部屋の中で、その事ばかりを考えていた。
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