第2話

10月、月曜、18時。


いつもと同じ道を辿ると、その先には見覚えのある黒い影があった。


吸い込まれるように近づいて、先日の様な失態を晒さぬ様、少し遠巻きに見つめる。


銀色の指輪の様なものを付けた指先から、音が流れ出る。


目を閉じて、その世界に沈み込む。


まるであのミュージシャンの様な複雑さと絵画の様な気品を持っているが、あの人の音に比べ、彼女の音はそれよりずっと哀しい。

だが、その哀しさが心地良くてたまらない。

鏡越しの自分に見つめられている様な、昨日初めて聴いたのに、最初からその音を知っているみたいな錯覚に陥いる。


音がゆっくりと途切れる。曲が終わったようだ。


遠巻きから拍手を送る。


すると彼女はこちらを見上げ、軽く会釈をしてくれた。


うわ、見られた。


気恥ずかしさで堪らなくなる。


彼女は再び音を奏で始める。


この間聴いた曲だ。


その流れに身を委ねる。


美しさに胸が震え、再び拍手を送った。


彼女がこちらを見つめる。

その眼差しには、戸惑いを感じた。


だから、今日のために空けたマッチ箱にまた100円玉を詰め込み、彼女の足元に置いて帰った。

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